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 前略 三太さんへ

体調が物凄く悪いです。今は病院の特別な部屋に入院しています。お医者さんから貰った薬のせいで髪の毛も抜け落ちてしまいました。

お医者さんはもうすぐ治ると言っていますが、もう長くないと思います。

今は手紙を書く事もあまり出来ません。薬で頭がボーとします。そしてとてもくるしいです。

手紙を書きながら三太さんと出会った時のことを思い出しています。

覚えていますか?私が大学生で三太さんが31歳の時でした。私がバイトを終わり家に帰っている途中でした。その日の夜は大雨で私は傘をさしながら帰っていると三太さんの車が私に水しぶきをかけて通り過ぎて行ったのです。そして道端に止まったのです。

私は腹が立ちましたが怖そうな車だったので文句を言わずにそのまま無視して通り過ぎようと思いましたが運転席からあなたが傘もささずに降りてきて私に水しぶきをかけた事を謝ったのでした。

それが三太さんと私の出会いでした。

極道だと分かった時はもう三太さんに惚れてしまっていたのでしょうがなかったです。

三太さんがこのような時にこのような手紙に書くのは何ですが私に万が一の事があれば幸恵は両親が育てますので三太さん娘の事は忘れてください。父親が刑務所に入っている極道などとは知らない方が良いと私なりに考えた結果です。両親にもその事は伝えました。どうか理解してください。

いろいろ沢山の思い出をありがとう。

平成7年5月9日 石川理恵






三太と健二は理恵の実家に向かっていた。

「兄貴、娘の為にも絶対に父親だとか言っちゃダメですよ」

「分かってる。それが娘の為だ。たしか理恵の実家の近くに福岡生花店てでっかい花屋あっただろ。まだ有るのか?」

「たしか有ったと思いますよ?そこに寄るんですか」

健二は訪ねた。

「いいから寄ってくれよ。俺は約束は守るから娘には絶対に会わないって」

そう言うと車は福岡生花店に寄った。

福岡生花店は大手花屋のチェーン店だ。こんな田舎で採算が取れるのかは謎だがいろんな花が売っている大型店だ。

三太は軽トラから降りると店員に話しかけた。

「すいません。桔梗ききょうの花ありますか?」

「少々お待ください」

店員はレジの方に行きコンピュータを打ち始めた。

「はい、ございます」

さすが大型店ということもあり、コンピューターを使うなど最先端の花屋だ。

こちらに有りますのでと店員は三太を案内した。

鉢に入った紫の桔梗と白色の桔梗が置いてあった。

値札を見ると5000円と書いてある。

「すみません、この白い桔梗をください」

「はい、お客様、プレゼント用にラップをしましょうか?」

「してください」

「かしこまりました少々お待ちください」

店員は鉢に入った白い桔梗をプレゼント用にラップしてくれた。

三太は刑務所の給料を封筒から出すとお金を払った。

店員から桔梗を貰うと三太は健二の軽トラに乗り込んだ。

「兄貴、どうするんですか花なんか買って。絶対に娘になんか会ったらダメですって」

「大丈夫だって。約束は守るから、絶対に会わないから安心しろ」

三太は強い口調で言った。

「分かりました。信用しますよ」

そう言うと健二は軽トラを走らせた。


花屋を出ると少し走り健二は車を止めた。

「兄貴、住所でいえばこの辺ですよ」

三太は15年前の記憶を思い出した。2、3度ではあるが理恵を車で乗せてきた事がある。もちろん理恵の両親には会った事がないし理恵自身もあまり三太を両親に会わせたくないのか家に送ってくれとはほとんど言ったことが無かったが2、3度は通った事がある。

「確かそこの角をまっがた辺りなんだけどな?」

軽トラは表札を見る為にゆっくり走った。

「あっここですよ兄貴」

健二が叫んだ。

表札には確かに石川と書いてある。

改めて思い出すとここに間違いない。三太は確信した。

軽トラは理恵の実家の前を10mくらい通りすぎると止まった。

「兄貴、あの家で間違いないですか?」

「あそこだ」

「でも兄貴、家を分かったって娘には絶対に会わないほうがいいですって」

三太は迷った。どうすればいいのだ。本心はで娘の幸恵に会って「お父さんだが今まで本当にすまなかった」と謝り抱きしめたい。そして妻の理恵の仏壇に線香をあげて「本当にすまなかった」と謝りたい。

もちろん健二の言うようにそんな事をされても幸恵のほうも迷惑なのは分かっている。15年ぶりに来てお父さんだと言ったところで娘からすればあかの他人だ。それに理恵の両親だって迷惑だ。

そのことは三太自身も分かっている。

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