第七話
時間は少し巻き戻る――――
カズヤをアルフィに引き渡し、見送りを終えて家の中に入る。
なかなか難しい決断だった。
自分の息子が「悪魔」と「人間」のハーフ。前例はないだろう。
髪は黒い。だから力が発現することは無いのかもしれないなんて思っていたが...。
だが、力が発現してしまった以上、戦う義務がある。
「ふぅーーーー」
特に意味はないが、息を吐く。
そろそろ自分の準備もしなければならない。
カズヤのことは心配だが、気持ちを切り替えよう。
あそこにはジェットもいるし、ヒョウもいる。たぶん大丈夫だろう。
アスカはそうしてクリスに向かうための準備を始めた。
荷造りの途中、以前カズヤからもらったロケットを手に取って迷っていた。
これを持っていくべきか...。荷物にはまだまだ余裕がある。それにロケット程度ならかさばらない。
だが、せっかくのカズヤからのプレゼントをクリスに行ってなくしたりするのは嫌だ...。
しばらくの間悩んでいると、
―――――ピンポーン
家のチャイムがなった。時計を見る。
こんな時間に訪ねてくるのは一人しかいない。
アスカはロケットをとっさにポケットにしまい、玄関に向かった。
扉を開ける。そこには案の定、エミリーがいた。
「あの...カズヤは大丈夫ですか?」
エミリーがものすごく心配そうな目で問いかける。
この子は恐らく、昨日カズヤの「力の発現」の現場に居合わせたのだろう。
さて、どうしたものか。この子に本当のことを言っていいのだろうか。
この子がカズヤに対して多少の好意を持っているのは見ていてわかっていた。
そこがまた悩ましい...。
嘘を言ってしまえば、簡単で問題なく済む。この場限りでは。
後々、もっと複雑な問題になって帰ってくるだろう。
だからといって、真実を明かしてしまえば、この子はカズヤに対して、どう接していいのかわからなくなってしまうかもしれない...。
再びエミリーのほうを見る。
よし、決めた。この子なら大丈夫だ。ただ純粋にカズヤを心配している。
本当のことを話そう。この子を信じよう。
「エミリーちゃん、中に入って」
それから、色々と説明を始めた。
私とカズヤは「白髪の悪魔」の生き残りだということ。
二つの派閥に別れていて、これから戦争が起きるのかもしれないということ。
そして、私たちはその戦争に参加するためにここを離れ、もう戻ってくるかわからないということ。
だいたいこんな感じだ。その他にもいろいろと話したが、話すべきことは話せたと思う。
エミリーは終始、真剣な表情で聞いていた。
「――――というわけだ」
私は話を終えて、いれておいたお茶を口に含む。
「何か私に出来ることは無いですか?」
エミリーが私に問いかける。
あることにはある。だが...
「エミリーちゃんには、ここにいて欲しい。
これは私たちの先祖が起こした問題なんだ。関係のない人々を巻き込みたくない。
それに君を傷つけてしまったら、カズヤに怒られるからね」
エミリーは少しの間黙り込む。私がコップを片付けようと席を立つと、
「私は、カズヤのそばにいたいんです。
前々から、ふとした拍子にカズヤがどこか遠くに行ってしまいそうな存在だと感じていました。
でも、離れたくない。もう会えないかもしれないなんて私には耐えられない。
少しでもいいからカズヤの近くにいたい。少しでもいいからカズヤを支えたいんです」
エミリーはそう熱く宣言した。
まったく、我が息子ながら罪な男だ。
「私がこれから行くところでは、一般の人々が悪魔のサポートをしている。
まだそこにカズヤはいないだろうけど、いずれは来る。
だけど直接的にはカズヤのサポートをできないかもしれない。
それでも来るかい?」
「はい!ありがとうございます!」
こうして、アスカに加え、エミリーもクリスに向かうことになった。
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