第六話
現場は少し遠かった。
アルフィの運転する大型バイクに二人乗りで向かった。
見た目的には14歳くらいの女の子が運転をしていて、後ろに乗っている俺が、女の子の腰に手を回す。
何ともシュールというか虚しい画だ。
「私に発情しないでくれよ?」
「大丈夫です。それはないです」
俺の早すぎる回答にアルフィは撃沈している。残念ながら俺には年下の趣味はない。
しばらくすると現場が見えてきた。
現場は廃工場のような場所だ。
俺たちはバイクを降りて、廃工場の中に向かった。
中では二人の姉妹が20人ほどのチンピラに囲まれていた。
おそらくあの二人がSOSの発信源なのだろう。
チンピラどもがこちらに気付き、一斉に振り向く。
その時...!
―――――――――――ゴオオンッ!
冷たくとがった風の音があたりに響く。
その後、チンピラどもがバタバタと倒れていく。
「ちっ。一足遅かったようだね」
アルフィがつぶやく。
「やあ。アルフィ。久しぶりだねー」
腰に剣を携えた白髪のその男は倒れたチンピラどもの中心に立っていた。
この場に似合わぬ気さくな声でアルフィに話しかける。
「カズヤ、紹介しよう。こいつはヒョウ。悪魔だ」
「ってアルフィ無視!?相変わらずひどいなー。
ん?黒髪?その子がアスカさんの息子のハーフ君かい?」
「カズヤ=ドゥ=イニアレスです。よろしくお願いします」
「先程、紹介にあったヒョウだ。こちらこそよろしく」
ヒョウは俺とあいさつを交わした後、姉妹のもとへ向かった。
何やらいろいろとしゃべりこんでいる。
「カズヤ、あいつはあー見えて強い。純粋な体術では悪魔の中でも1、2を争うほど強い」
アルフィが珍しく真剣な口調で話す。
ヒョウと姉妹の会話が終わると再びアジトに戻ることになった。
帰り道、どうしてこんな活動をしているのかと尋ねると、最初はパトロールがてらやっていただけだったらしいが、その結果周辺の人々に好印象を与え、アジトに協力的になったり、中にはアジトに入りたいと志願したものも続々と増えてきたらしい。そうしてそれが今も続いているという。
◆
「ご苦労だった。よし、ヒョウも来たところで、先程の話の続きをしよう。
カズヤ、君が悪魔の力を発現させたのは最近だと聞いている。その状態ではまだ悪魔としての自分を理解しきれていないだろう。そこで、カズヤには明日からヒョウと特訓をしてもらう。このままでは戦闘に向かったところで足手まといになるだろうからな。悪魔と人間のハーフの鍛え方はわからんがそこはヒョウに任せる」
「わかりました。よろしくお願いします。ヒョウさん」
「こちらこそよろしく、カズヤくん」
「まあ特訓は明日からだ。今日はしっかり休んでくれ」
それから俺はアジトをいろいろと見て回ることにした。
そこまで広くはないのだが、とてもきれいにされている。
食堂ではいろいろなメニューが用意されていた。ついでに夕食を済ませておいた。
風呂は意外に大きかった。こちらもついでに入らせてもらった。
俺は一通り見て回り、自室へと戻った。
時間はまだ少しあるので荷物の整理をする。
母さんが勝手に入れたであろう荷物がいろいろと入っていた。
奥のほうにジュースが二本入っていた。自動販売機で買ったやつだ。
懐かしい。これを買ったのは昨日だっていうのに。
気付けばこのジュースを買っていろんなことがあった。
初めて人を殴って、髪が白くなって、自分は「悪魔」だと言われて、アジトに来て。
ほんとにいろんなことがあった...。
ふとエミリーのことが頭によぎる。
今頃何をしているんだろうか。俺のこと心配してくれてるだろうか。
エミリーは良い奴だから、心配してるに違いない。
俺はベットに付いた棚のようなところに、ジュースを二本並べて置いた。
それからその日は眠りについた。
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