第三話
エミリーと一緒に帰ることはたまにあるが、今日は何やら少し重苦しい雰囲気だ。
「なんか悪いものでも食ったのか?今日は少し様子が変だぞ?」
「そ、そんなことないわよ!いつも通りよ」
そういってエミリーは頬を淡くピンク色に染める。
綺麗な夕陽をバックにしばらく歩いていると、
「ねえカズヤ...私のことどう思ってる?」
「どうって?」
「んー、人としてよ」
「うーん、可愛くて、世話好きで、気を使わなくて済む良い奴」
俺の答えに七変化の反応をひとしきり見せた。
「もう!なによそれ」
俺なりに真面目に答えたが、ダメだったようだ。
エミリーは唐突に走り出した。
はあ、どうすればよかったんだか。
俺は近くに自動販売機があったのでジュースを二本買っていくことにした。
◆
エミリーに追いつこうと少し早歩きでいつもの帰り道を歩いていると、案外すぐに追いつくことが出来た。が...
「ちょっと!はなしなさいよ!」
「黙ってついてこい、クソアマがっ」
エミリーはガラの悪そうな三人ほどの男たちから路地裏に連れ込もうとされていた。
俺はそれを見て、頭の中ブチッと何かが切れる音がした。
俺はこれまで本気でキレたことがなかった。
怒る理由もなければ、怒り方もわからなかった。
しかし、今回は怒る理由がある。そしてそもそも怒り方なんて無かった。
「おい」
「ああ?なんだてめ―――」
そこからどうなったのかはあまり覚えていない。
「――ヤ!カズヤ!大丈夫?」
エミリーの声で自我を取り戻す。なんだ?俺は返り討ちにあったのか?
俺は辺りを見回す。さっきの男たちは転がっている。
「どうなったんだ?」
「カズヤがコテンパンにしたのよ。
それより、カズヤ、その髪どうしたの?」
髪?なんのことだ?俺はふと横を見ると、ガラスに俺の姿が映る。
真っ先に俺の目に飛び込んできたのは、俺のものとは思えない真っ白な髪だ。
「なんだこれ...」
俺は頭の中までも真っ白になる。
とりあえず、俺たちは再び帰路につき、エミリーを家まで送り届けた。
俺は自宅に帰る途中、少し走ってみると、信じられないくらいスピードが出た。
ほんとに、何だこれ...
◇
「ただいま...」
「おかえりなさい。ってあら」
母は俺の髪をみて少し驚いたようだったが、取り乱すことは無かった。
そして、いつになく真剣な顔で俺に言葉を発した。
「カズヤ、座りなさい」
俺は黙って椅子に座り、母の言葉を待った。
「カズヤ、『白髪の悪魔』って知ってるかしら?」
俺は母の口からその単語が出てくるとは思わず、驚いた。
「大日本帝国の作戦で活躍したっていう子供達か」
「そう。私たちはその生き残りよ」
あまりに唐突な告白に俺は理解が追いつかない。
「はっ!?何言ってんだ母さん!冗談だろ」
「冗談じゃないわ。真実よ」
意味がわからない。俺が都市伝説で噂されてた生き残り。
「正確に言うと、カズヤは『悪魔』と『人間』のハーフよ。
父さんは純粋な人間だから」
「もし、それが本当だとして、俺はこれからどうすればいいんだ?」
「何も起きないのであれば放っておくはずだったのだけど、力が発現した以上―――」
母が視界から消える。そして意識が薄れていく。
「―――義務があるわ」
その言葉と共に俺の意識は完全にシャットアウトされた。
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