二人に朝がやってくる
ちょっと短いです。
朝。
目を覚ました時には、隣にザクロはいなかった。
テントの外に出ると、滑り台の上であぐらをかいているザクロがすぐに見つかる。彼女は空を見上げていた。どこか懐かしむような眼で。
日はまだ上りきっていない。こんなに早い時間帯に起きたのは久しぶりで気が抜けたのか、大きなあくびを漏らしてしまう。
涙でにじんだ眼をこすり、さっと手くしで寝癖を直し、ザクロに声をかける。
「早いんだな、朝」
「そっちもだろ」
「まあ、普通だろ」
グリムは僕より早く起きたことは一度もない。毎度毎度、部屋に訪問者が来る前に僕が起こしてやっている。
その話をザクロにしたら、
「由も苦労してんな」
と、同情されてしまった。
最近は、グリムが僕を働かせているのは自分の仕事の補佐を刺せるためではなく、自分の生活全般の補佐をさせるためではないかと思っている。それでも理想の職場で働かせてもらっているのだから、文句は言わないが。
お互い無言で空を見つめていたら、唐突に目覚まし時計のアラーム音が鳴り響く。
ザクロは制服のポケットからアラーム音の発生源らしい、折り畳み式の黄色い携帯を取り出した。
……いやいや、ちょっと待て。何を自然に取り出しているんだ、このグリム・リーパーは。
「なんでグリム・リーパーが携帯なんて持ってんだ」
「は? 持っていちゃいけねえのか?」
「……いけなくはないが、なんというかすごい違和感がある」
見た目的には携帯を持っている方が自然ではある。
すごい今さらだが、ザクロの服装についてツッコむのを忘れていた。グリム・リーパーが制服を着る理由がわからない。ザクロに理由なんてあるとは思えないが。
「人間社会の便利なものを転生局でも取り入れるのは、そんなにおかしいことじゃねえだろ? 本当に便利な物って言うのは、誰にとっても便利なんだから。いいとこ抽出ってやつだ」
「……一理あるな」
「だろ?」
ザクロは携帯を開いて画面に視線を落とすと、気だるそうにため息をついた。
「さて、起きてすぐだが仕事だ」
「今度はどんな仕事を?」
ザクロはどうでもよさそうに答えた。
「本来の回収業務さ。今さっき死んだ人間の魂の、な」