三闘士
状況を理解する暇も無く、社会のテストが始まった。
ありえない。
そもそも僕は高校1年生だ、それなのに起きたらこんな所にいて当然のようにテストを受けさせられている。
無理だ。終わってる。
気が狂いそうだった。これは夢だと信じたいが、どうもそうでないような生々しい現実感が胃に重くもたれかかっていた。わかるはずもないが取り敢えず問題用紙を眺めてみる。
わかる。
わかるぞ。
おかしい。これは全く習ったことのない内容だ。それなのにスラスラ答えがわかるのである。自然と手が動くかのようにマークしていった。社会だけでなく、残りの教科も同じようにスラスラ解くことができた。
全く不思議だ。
そして底知れぬ奇妙さも感じた。
正直テストができても全く嬉しくなかった。自分がもといた世界に戻りたい。僕はそれしか思わなかった。
取り敢えず家に帰ろう。何かわかるかもしれない。
自分はいったいどうしてしまったのか。一体どうすればよいのだ。
帰宅中はそれしか考えられなかった。
「どうでしたかな、試験は」
突如、どこからか声が聞こえた。
この声、どこかで聞いたことがある...誰だったっけ?
「私のお陰だがや、ホーッホッホッホッホ...」
まるで直接脳内に語りかけるような、奇妙な声だった。ホーッホッホッホッホ、ホーッホッホッホッホ、ホーッホッホッホッホ、ホーッホッホッホッホ...脳内に声が響き続ける。僕の意識は次第に朦朧とし始めた...
「はっ」
目が覚めた。
めの前に広がっていたのは、いつも通りの寝室。
「なんだ、夢だったのか」
僕はほっと胸を撫で下ろした。
「行ってきます」
僕はいつも通り学校に向かった。
学校では相変わらず僕はパッとしなかった。
夢の中では、センター試験の問題をスラスラ解けたのに、起きてしまったら授業中当てられた時でさえろくに答えられない。
友達もあまりおらず、女子と話すなど滅多にないことだった。
あーあ、どうしてこんな毎日なんだろう。
下校時刻になった。なのだが、高校生の大群が同じ方向に向かっているのに僕は気づいた。何故だろう。ついて行って見ることにした。
ついて行った先には、何やら怪しげな建物があった。そこには沢山の高校生がたかっていた。その建物の前には顔面がしわしわの女が立っていた。
「お前らの高校生活薔薇色にしてやるぞオオオオオォィ!」
その女の声は甲高く、しかも不快な響きだった。にも関わらず、その文句に惹かれて僕もその建物に向かってしまった。
建物の中は薄暗く、大量の高校生が椅子に座って何やら唱えている。はっきり言って異常な光景だった。
だが僕もしわしわ女に椅子に座らされてしまった、するとたちまち頭がぼーっとしてきたのだった。
そこから先は覚えていない。だが、家に帰った時鏡を見て、僕は驚愕した。
「うほっ、いい男!」
明らかにハンサムになっていたのだ。
僕はほくそ笑んだ。
これで僕の高校生活は明日から薔薇色だ。僕はそう確信した。
しんちゃんは高校生なのにあんなに老けていてクッソ哀れだなあ。僕は完全勝利を実感した。
翌日。
いつも通り誰も話しかけてこない。
なんでこんなにハンサムなのに誰も話かけて来ないんだ。妖怪のせいか?泣けてくる。
きっとまだハンサム度が足りないのだろう、僕は怪しげな建物に通いまくった。人気になりたい人気になりたい人気になりたい人気になりたい人気になりたい人気になりたい人気になりたい人気になりたい人気になりたい人気になりたい、その一心だった。
相当ハンサムになったはずなのに、まだ誰も話しかけてこない。
いい加減そこに行くのも面倒になった。
今日で最後にしよう。そう思って足を踏み入れると、いつもと様子が違う。
廊下が異様に長い。
引き返せば良かったのに、僕の足は止まらなかった。進むにつれて廊下は赤黒いペンキのような色になっていった。
廊下が終わり、大広間にでた。そこには驚愕の光景が広がっていた。
そこには、顔がしわしわになった人々が沢山倒れていたのだ。
僕の顔は恐怖で歪んだ。
身体から力が抜けていく。
そこに前のしわしわ女が僕の前に現れた。
「オオオオオォィ!」
奴はそう叫ぶと、不敵な笑みを浮かべながら瓢箪のようなものを取り出し、瓢箪の口をこちらに向けた。
身体が全く動かない。
僕はここで死んでしまうのか...
半ば諦めていたその時だった。
大量の光弾がしわしわ女を襲った。
朦朧とする意識の中、光弾が飛んできた方向を見る。そこには、見覚えのある3つのシルエットがあった。
「さきちゃん!」「さくちゃん!」「団長!」
彼らは自分達で名乗りを挙げたあと、一糸乱れぬ連携でしわしわ女を追い詰め、瓢箪を壊したのだ。
瓢箪が壊れると、僕の朦朧としていた意識が回復し、周りで倒れていた人も顔も元通り、起き上がっていた。
「いくぞ!三位一体!」
彼らの放った三位一体は強力で、しわしわ女は断末魔をあげながら消えていった。
「ありがとうございました」
建物から脱出し、僕は彼らにお礼を言った。
今思えば、なんであんな所に何度も行ったんだろう。
そして、あのしわしわ女の目的は何だったのだろう。
そう思いながら帰る準備をしていると、男女の笑い声が聞こえてきた。
その笑い声の主は
しんちゃんだった。
あの老け顔のしんちゃんがなぜ女子と楽しそうに喋っているんだ。
一瞬、そんな疑問をもったが、しんちゃんの心から嬉しそうな顔、父親のような優しい表情を見て、僕はすぐに答えを見つけた。
こんな人からでも、学べることがあるんだ。
僕は、今までの自分が、ちょっぴり恥ずかしくなった。
そんなことを思っていると、しんちゃんが口を開いた。
「じゃあ俺、お見舞いの時間だから。またね」