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鳥を見た日

空いた口が塞がらない。

マスコットリーダー...?

この人、生徒だったのか。


ありえない。


高校生にしては明らかに老け過ぎである。

18歳どころか38歳でもおかしくない出で立ちだ。彼はもしかして成績が悪すぎて留年を繰り返しいつまでたっても卒業できないでいるのではないか?

様々な憶測が僕の中で飛び交ったが、直接本人に聞けるものでもない。そんなことよりも、このマスコットを成功させてクラス内での立場をあげることの方が重要だ。

しんちゃんは老けてはいるが、頼りになりそうでもあった。人生の荒波を越えてきたかのような表情は、彼なら素晴らしいマスコット創り上げるだろうという確信を僕に与えたのだ。

これでこの体育大会は安泰だ。そう思った矢先、


「あー、今回のマスコットはハリボテを作るから」

しんちゃんはそんな言葉を発した。


ハリボテ...?

"マスコットリーダー"なのに、ハリボテをつくる...?

意味がわからない。

周りはみんな立体物を作っている中、僕たちだけハリボテを作るなどという状況が生まれたら、ただでさえ高くない僕のクラス内での立場はガタ落ちだ。なんとかしてこいつの気を立体物に持っていかないといけない。


「先輩、まずいですよ!ハリボテなんて。ランキング入りできないに決まってますよ!」

「あー、俺中途半端に汚いもの作るの嫌いなんだよね。しかも立体物って時間かかるし。君も浪人したくないでしょ?」


無駄だった。

僕の体育大会、いや僕の一年は終わったのだ。

しょぼいハリボテを作り、クラスメイトから顰蹙を買い縮こまって過ごす残りの半年が目に浮かぶ。

泣けてくる。



ふとダンスグループをみると、いい男の団長を囲んで男女が和気藹々とおしゃべりしている。僕はマスコットを選択した自分を呪った。ちなみにしんちゃんは一心不乱に二次元美少女のイラストを描いている。


「あいつは斬新な生き方をする奴だからね」

同じマスコット係である部活の先島先輩(さきちゃん)佐倉先輩(さくちゃん)は口を揃えて言うが、正直馬鹿な人にしか思えない。


下校時刻になった。いつもは綺麗に見える夕日でさえ、僕を煽っているように見えるほど、僕の心は曇っていた。

もうどうにでもなーれと思い、僕は下校途中にある公園で昼寝を始めた。

その公園には大きな木があり、その下に寝転ぶと木の葉と一面の空が視界に広がる。

もう葉は散り始めている。風が吹くたびにヒラヒラヒラヒラ...


気がついたら暗くなっていた。

慌てて腕時計を見る。ウォッチ!今何時?

もう21時。一大事だ!

遅く帰るとお母さんに怒られる。焦って自転車に乗ろうとした、その時だった。


「お困りですかな?」

どこからともなく声が聞こえる。後ろを振り返ると、そこには50歳くらいの壮年男性がいた。

その男は"鳥居"と名乗った。

「これを食べるとよろしい」

鳥居が差し出してきたのは謎の赤い実であった。

丁度僕は腹が減っていたので、知らない人からもらったものであるにも関わらずその実を食った。

それを見ると、鳥居は笑顔になって

「ホーッホッホッホッホ」

と鳴きながら、両手を翼のようにして羽ばたき、夜空へと消えていった。


何だったんだ今のは。これは夢か?

だが意識は確かだった。これを現実だと了解して帰宅するほか僕にはなかった。


帰宅時刻は大分遅くなってしまったが、あまり怒られることはなかった。疲れていたので、早めに寝ることにした。

布団の中に入るとすぐに寝ついてしまった。


次の瞬間に目の前に広がっていた光景、それは試験会場のようであった。

しかも周りの生徒は緊張した面持ちだ。僕は黒板に目をやった。

「センター試験 第一日目」

黒板には、そう書かれていた。



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