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天使を狩る彼女と死なない僕の対神様的反逆計画  作者: 水崎
第1章 牛乳の瞳の彼女
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第1話


『悪いことをすると、神さまに嫌われてしまうわよ』

 大人が子どもを叱るときの決まり文句は、昔から変わらない。こう一言言われるだけで僕も他の子供たちと同じように竦み上がっていた。

 もちろん、今では懐かしい過去の話だが。

 別に、僕の住んでいた地域の大人全員が宗教信者であったわけではない。宗教を信じない者も、空の上にいる神さまの存在を信じている。

 だって神さまはいるのだから。

 ――宗教ではない。


 どこかの空の中で、雲に紛れるようにして浮かぶ島。その島には、きらきら光るエメラルドの葉を背負う大きくて太い樹が島の中心に聳え立っている。

 そしてその樹に埋もれるようにして古く重々しいながらも時代を感じさせる美しい城が築かれているらしい。

 実際、それを目にしたパイロットは大勢いる。皆興奮を露わにしてその体験を語っていた。

 その、空に浮く島の白い城には――神さまが住んでいると言われている。欠伸が出るほど遠い遠い……永劫なる過去の昔から。

 ――それってどれくらい昔なのかな。


 神さまの仕事は主にルールを作ること。

 例えば。

「人を殺してはいけない」

「人からモノを奪ってはいけない」

「天使の羽根を毟ることをしてはいけない」

 ――など。

 これに従って各国は憲法や法律を作る。だから世界を実質的に支配しているのは、偉い政治家ではなく、偉大な大統領でもなく、神さまだ。

 幻聴だと思うが、鳥の声がする。朝が来たのかもしれない。。


「い、痛………!」

 行っておかないといけないことがある。それは僕の体質。

 ……自分で呆れるレベルのドジを踏みやすいということ。

 転けることは日常茶飯事、むしろ転ばない日が奇跡の日であり、その日は本当の僕はきっといなかったんだろうね。そして今もこうして痛い思いをしながらも僕は辛うじて生きている。

 僕は朝からドジをした。一体どうやって寝ていたのか、朝起きると腰から爪先にかけて両足に薄目の毛布が纏わりついていた。腰から下は簀巻きにされた状態だ。これには僕もぎょっとした。

 その時、体を右側に傾けて左手で毛布を引っ張り出し、右手をベッドの端につこうとした。しかし右手を置くはずがその右手はずるりとベッドから滑り宙に放り出され、その際にバランスを崩して頭から床にダイブした。……痛い。

 長々と述べてみたが、ようはドジをしてベッドから落ちたってことだ。

 頭と足腰を強打。

 幸い怪我はしていなかったが痛さのあまりに悶絶する。もう一つ幸いにも僕の部屋は寮の一階で端っこなので、床にどれほど強く叩きつけられようとも苦情は来ないという点だ。

 僕の部屋の右側に部屋は無いが、左隣の部屋には恭輝が住んでいる。彼は僕の二倍以上の騒音を生み出すので僕が作るちっちゃな騒音など誰も気にも止めないだろう。

 だから苦情は来ない。


 痛みが少し引いてきたので、僕はのそっと立ち上がった。痛む頭を抱えながら時計を確認し、眉を顰める。

 ――後十秒弱で六時四十五分だ。

 と、いうことは、奴がやって来る。

 奴に無様に悶絶しながら床に寝っ転がっている場面を見られるわけにはいかない。プライドの問題だが。立ち上がって正解だったな。

 六時四十五分ジャスト。

 チャイムが二度鳴らされた直後、奴はいよいよ玄関の扉を連打し始めた。


「美戯ぃぃい、朝だぞ、起きやがれ!」


 外から聞こえる悪友の声。五月蝿いに越したことないのだが、時にこれが朝の目覚ましになる、なんていう最悪の事態になることもある。

 靴を履くと鍵を開けて玄関の扉を押した。


「起きてるよ」


 短い返事と共に顔を出すと、恭輝はいつものようにもう制服を着ていた。


「おう、お早うさん!」

「もう少し静かに起こしてくれないかな。寧ろ恭に起こしてもらいたくないけれど」

「おう、任せろ。一発で目覚める扉の叩き方を開発するぜ!」

「…………だめだこりゃ」


 僕はそう呟いて扉を閉めた。もちろん鍵をしめて。

 その後扉が再び叩かれ始めたが、無視をし続けた。面倒臭いからね。

 恭輝と会話をして疲れるのは彼との会話が噛み合わない時が多々在るからだ。なんだ、こいつは。ふざけているのか、と疑問を持った瞬間一気に話す気が削げる。

 途端に静かになって、扉の前の気配がふと消えた。彼はもう行ったのだろう。


「暇だな……」


 今日は快眠出来たため、眠くない。すっきりしている。かと云ってここにはテレビも無いし、携帯は禁止だし、読み飽きた本しかない。

 暇だ。


「散歩にでも行こうかな」


 部屋から出て食堂で早めの朝食をとっている最中、ふと思いついたのがそれだった。けれど校則で禁止されているため、ルームウェアでの寮の外へ外出は出来ない。

 トーストを口に詰め込むと、まだ空いている食堂を後にする。まぁ、ここはいつも空いているけれど。ここは隔離された二年四組専用の寮だから。

 考えた結果、制服に着替えて荷物を持って僕は部屋に鍵をかけた。時刻は七時ジャスト。何の時間かと問われれば校門が開く時間だと答えるだろうね。

 でも朝礼はその一時間以上後だ。

 普通の連中は八時二十五分までに校門を通らなければならないが、僕ら二年四組は二十五分から三十五分の十分間の間に校門を通らなければならない。

 校門を通ると言ったが、校門は二十五分に閉められてしまう。二年四組の生徒たちは校門のすぐ横に設けられた守衛室で二年四組に所属していることの証明をいちいちしなくてはならないのだ。

 面倒臭い。面倒臭いこの上ない。どうしようもなく面倒臭くて吐き気すら催される。


 ――失礼。言い過ぎた。

 そこまでして学校側は僕らを隔離したいようだ……随分と嫌われたようだね。

 ちなみに恭輝は日課の為に僕の部屋の扉を叩いた後、学校にすぐ行き、校門の前で七時になるのを待つ。その後日課の為に教室に飛び込み、日課を終わらすと部活の朝練に参加しているようだ。

 二年四組の一員でも、部活動が朝からあれば決められた時間より早く登校出来る。

 僕が恭輝と一緒に登校しないのには、朝から彼の気持ち悪いほど高いテンションについていけないのを含め、そんな理由が存在した。






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