出会い
世界は不条理だ。
努力したものは報われるとは言うが、どんなに頑張っても報われない者は出てくる。
その一人が自分だ。
「すみませんが今回の話しは御縁がなかったということで」
携帯電話から断りの言葉が聞こえてくる。
申し訳なさそうな同情声だが、その声が更に俺の心に見えない刃物が突き刺さる。
「同情するなら雇えよ!」と言いそうになるが、そこは大人なので喉まで出かけた言葉を飲み込み我慢した。
「わかりました。わざわざありがとうございます」
時々面接した所によっては電話が掛からなければ不採用な会社もあるので、わざわざ電話してくれるこの会社には、お礼を言って携帯電話の通話を切る。
切ると同時に緊張の糸が切れて、心と身体が重くなってベッドに吸い込まれるかのように身体が倒れた。
このベッドはいつも俺を柔らかく包んで慰めてくれる。
「こいつが恋人だったらなあ」
自分で言ってて悲しくなってきた。
横になり手を伸ばしてベッドの上に置いていたメモ帳を取った。
メモ帳には会社の名前が書かれていていくつ
か名前の上に横線が引かれている。
ついさっき電話していた会社の名前もありメモ帳に挟んでたボールペンで横線を引く。
これで十一社目か。
まさかここまでダメだとは思わなかった。
人生設計では大学を卒業して会社に入って普通に暮らせると思ってただが、やはり思い通りにはいかないものだな。
さてここで俺の紹介しよう。
俺の名前は伊藤海というどこにでもありふれた名前だ。
容姿は可もなく不可もなく普通だ。
大学を卒業したのだが内定が決まってた会社が潰れて今就職活動中なのだがご覧の有り様で困ってる。
特技は特になし。ただし、トラウマはあり。
トラウマについては簡単に説明すると、彼女と別れて女性不信。
まあ女性嫌悪にならなかっただけマシだと思う。
この女性不信のおかげで、美人女性のセールスや客引きや詐欺などの言葉には引っかからなくなった。女性不信万歳!!
ただ、女友達の言葉も信用できなくなったのが辛い。
前は恋にいきる男だったが、今の自分は仕事に生きる男になった。
ついさっき雇用を断れたがな。
頭を手で掻きながら気持ちを入れ替えるために近くに置いてた煙草を手に取りベランダに出て煙草を吸う。
ふと自分が住んでるマンションの近くの公園が見えた。
「気分転換に公園で休むか」
吸ってる煙草を携帯灰皿の蓋を開けて中に押しつぶして消し、煙草と携帯灰皿と財布をポケットに入れ上下ジャージだったのでそのままの服でサンダルを履いて公園に向かう。
公園に着いた。
この公園は定番のジャングルジム、シーソー、ブランコ、鉄棒、登り棒など色々ある。
俺は遊ばずに芝生の生えた場所に寝転がり煙草を吸い、やることもないので、ぼーっとしながら空を見上げる。
空は晴れ晴れとしていて、いつまでも眺めていたくなる。
寝転んだ俺の耳からは、楽しげな子供の声が聞こえて。
顔には涼しげな風と太陽の暖かな光があたり眠気を誘う。
身体を包む暖かさと涼しい風でうとうとしていた俺に「あの...」と男と女の中間ぐらいの声色で、遠慮しがちな声が聞こえてきた。
声を掛けられて眠たい眼を開けて見ると。
そこにいた少女の可愛さに眠気が一気に覚
める。
この出会いが俺の生活を変えていく。