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目が覚めたらドラゴンを戦艦に改造する壁面世界だったので天井を目指して自由に飛ぶ  作者: RAMネコ


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第5話 エルフの村まで何マイル?

「おぉ……」


 翼を休めているエスパノーラは、沢山の飛空船が留まっている。町の端から空を見上げれば典型的な飛行船──気嚢を持ち空気より軽い飛行機だ──が超巨大な繋留塔をぐるりと囲うように寄港し、大量の積荷を扱うのだ。


 エスパノーラには繋留塔が多い。


 地上──大絶壁なわけだが──に広大な面積の発着場を作るよりは、立体的に飛空船を付けることができる繋留塔型が主流だからだ。流石に中心区画まで飛空船が空を覆っているわけではないが、エスパノーラの外周に、数十──正確には確か71本だったか?──と繋留塔が建設され、300隻以上が日夜、荷物を運んでいる。


 運んでいるのはお馴染み〝生きた重機〟ことゾウさんたちだ。家程もある木箱を軽々と引き出しては積み替えている。


 大きな空港都市それがエスパノーラだ。


 そんな時に僕の腹の虫が唸りをあげる。


 腹を満たせる食事処を探さないとだな。


 路地裏前に立つチンピラ、気力ゼロで物乞いし慈悲を待っている奴、ヤクチュウみたいな甘い匂いをさせながら寝ているやつ、顔面まで刺青を彫ったのをこれみよがしに見せつける薄着の集団がいるが、今日もエスパノーラは平和だ。


 適当な安酒を露天で買う。


 アルコールがひりつくほど辛く粗悪だったが、顔色だけは悪酔いして、中毒者のように一変する。


 郷に入ってなんとやらだ。


 風貌を汚して街へ溶ける。


 危なそうなヤクザだかマフィアな店舗の空気を避けながら歩いていると背後から「そこのかっこいいお兄さん」と呼び止められた。


 僕だろうな!


 振り向けば女性が手を振っていた。


 顔が真っ赤な、酒気帯び美少女だ。


 口からはアルコールをくゆらせる。


 目がだらしなく垂れているのか糸目なのかわからないほど細く、髪はどこかのテーブルで寝ていたのかくせが強くかかっていて、しかし身体付きは背が高くそこそこ肉付きがある。


 美少女のアル中はともかく耳が……長い。


 エルフなのか?長耳美女はエルフだ!?


 ハイスカイフリートにエルフ種族は、本当に、本当に残念なことに存在していなかった。だが目の前の彼女はなんだ?エルフだ。これは、もしかして、伝説のエルフの村が実在しているのではないか?


 伝説のエルフ村だよ。


 行きたい、猛烈にだ。


 エルフがいる村なんだ、誰でも行きたい、僕も行きたい。そこにはきっと、胸が平たいエルフ、胸が豊満なエルフ、お姉さんエルフ、妖艶エルフ、幼馴染エルフが待っているんだ(?)


 僕は紳士モードを起動した。


「お嬢さん、どうしたのかな?」

 

 エルフは海亀だ。


 僕は浦島太郎だ。


 エルフは柔らかに微笑む。

 

 服装はセクシーだ。下は尻なのか太腿なのか境目がわからなくなるほど浅いローライズのショートパンツに、上は下着を着ていないから揺れるタンクトップだ。


 目が離せない。


 女性であると強調が嫌でも脳に届く。


 武器は携行していないように見える。


……だからこそ異様だ。治安が良いわけでもない場所で美女が破廉恥な格好をしているのに、真っ先に声をかけそうな男らでさえ目を逸らしていた。


 身体に目は奪われても心までシンプルな道を選ぶと危ない女性なのかもしれない。魅力的だが。あと酒飲みすぎてない?大丈夫?


「えっとぉ……見つめられちゃうと照れちゃうみたいな?えへへ。どうしちゃったのかなぁ」


 エロい女性だなぁ。


 人目を気にしないなら、攫って、ひん剥いて獣欲を流し込むくらい色気を〝使って〟くる。


「いえ、御用ですか?」


「警戒しないで!きみ、傭兵でしょお。私も傭兵なの。同業者ってことねぇ」


 それで、と長耳少女が腕に巻きつく。


 動きは蛇のようであり驚くほど柔軟かつ強力な胸や腹に足の筋肉でするりと、反応できないほど速い。


「……」


 蛇は苦手だ。


 昔噛まれた。


「あ、あらぁ?真っ青だけどぉ?」


 蛇エルフがちょっと心配してくれる。


「な……んでも無いです」


 美女エルフの蛇要素なんて動きだけなのに、僕の本能が蛇と人間との間で揺れ動いて複雑だ。なお彼女は「蛇ではない」という脳内への命令は却下された。


「デートに付き合って!」


 美女からのナンパに悪い気はしない。


 受けますとも、と、即答する自分がいるのに、同時に、首にでっかい蛇をマフラーみたいに巻かれたときレベルで体が固まる。それでも頷いた。


「じゃあ自己紹介!」


 蛇の子は左腕を締め上げながら言う。


「私はライザ!よろしくぅ!」


「僕は……ヴァルカです……」


「元気だしてよヴァルカ、せっかくお姉さんが良いところに連れて行ってあげるんだからさぁ、楽しんでよぉ、ほら、笑ってぇ!」


 にへらぁ、と、ライザが笑って見せる。


 可愛かった。とても。あと蛇の牙有り。


「デートてどこに行くんでしょうか」


 ちょっとデートを楽しみにしている自分がいた。鼻の下を伸ばしているわけではないが、右腕に絡まる膨らみの感触と合わせて、女性1人分の重さが腕に掛かっているのは……悪くない。


 これは絶好の機会だ。


 酔っているとはいえ、ライザさんとお近づきになれる。このまま手放してしまうのはありえないだろう。男と女、鍵と鍵穴、S極とN極、猫と小判くらい当たり前に惹かれ合う組み合わせなのだから!


 デートに誘われますとも!


 デートに行きますとも!!


 ちょっとドキドキしながら僕は誘われた。


 鼻の穴を大きくして、ちょっと息を荒く。


「私は傭兵を10年程してるんだけどぉ、ヴァルカは傭兵で食べてきて何年くらい?」


「じゅッ──!」


 ライザさん、想像よりもベテランだ。


 蛇みたいな動きをしていたこともあるし、耳は長いし、平均的な寿命とかは、人間50年とは違うのかもしれない。


 種族の話も、寿命の話も、今切るべき話題のカードではないだろう。余計な質問が僕の口から出ないようにチャックで閉じておく。


「10年!大ベテランだ。傭兵をして長いんですね、ライザさん」


「まあねぇー」


「僕は──」


 ハイスカイフリートを始めた日を思い出す。確か、8年程前の配信がスタートした日からだ。0000時のゲームの正式公開直後に遊んだ日を覚えている。


 ボラタイルを手にれたのはゲーム開始から3年程経ってからだったな。遊んで、きっちり能力や道具などの地盤ができてしまって、少々、作業感が増した頃からだった。


「──8年ですね。今のシップを手に入れてからなら、5年前創業です。暇があれば空賊狩りもやりましたが、主には荷物運びで生計をたてました。あとは依頼品を探したり、あちこち飛んでいましたよ」


「ヴァルカだってベテランじゃない。良いシップには良いキャプテンが乗っているて言うし、ボラタイルとヴァルカにピッタリの言葉だねぇ」


 褒められると照れちゃう。


「でもでも、ヴァルカは傭兵をしているけど〝ギルド〟には登録してないの?登録してるならギルドの港や仕事が受注できるんじゃない」


「あー」


 ギルドは職能集団だ。


 仕事を独占する組合。


 仕事の成果を保証するために、特権を許されているのがギルドなわけだが、エスパノーラには傭兵ギルドがあったのか。


 忘れてたな。


 俺は未加入。


 ギルドの会員費や、それなりの義務が生じるからだ。ソロは不便もあるが、他人の事情で勝手に巻き込まれるのが嫌で、安く買い叩かれながらひとり傭兵をしていた──ハイスカイフリートのゲームではな。


「ギルドには入ってないです」


「うっそー!入りなさないよ」


「入ったほうが特典とか良さそうではあるんですけどねぇ」と言いながらも僕は、微塵も傭兵ギルドに魅力を感じていなかった。


 ギルド長の命令で召集されたり、ノルマをかされたりするのは、ソロで苦労するよりも苦手なのだ。貧乏でも自分の手のなかで選べるものが欲しい。


 誰かの強制でやるのではなく。


 で──やってきました。


 どう見上げても事務所。


 絶妙に煤けた年季を放っていて、壁も汚れているし、窓の汚れは陽の光を反射して透明であるところが濁っていた。


 これって〝ヤクザ〟の事務所じゃね?

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