第1話 目覚めたら
肌の霜が落ちる。
寒い、どこだよ。
目を開ければ星の海が広がっていたが、風に肌を撫でられた。
「酔い潰れたのか?いや……」
月が浮かんでいる。
想像より2回り上。
しかし、やや大きめの月以上に、空には奇妙なものが浮かんでいた──土星のような輪を持つ巨大な惑星だ。それは太陽の光を反射して、夜だというのに、困らない程の明るさを降り注いでいた。
バカな、地球の夜はこんなじゃあない!
地球で見られる光景じゃあないだと!?
「夢と言うには寒すぎる」
体を揺すれば、霜がはらりと落ちる。
吹き抜ける風は寒さを更に強調する。
寒いと感じている自分は──本物だ。
夢だとか現実逃避をしてはいけない。
問題なのは夢かどうかではなく何かだ。
「……」
見渡せば、俺が目覚めた空間は、決して広いわけではない。窓があり、月光と巨大な惑星の反射でうすら明るく照らされている。俺は部屋の中心で〝舵輪〟にもたれかかっていた。
舵輪てのは船を動かすハンドルだ。
だが船であればありえない景色だ。
窓の外には同じ目線に雲が流れた。
巨大な雲の塊があっという間に近づいてきて、窓にぶつかり散ると、水滴で濡れるや凍りついていく。
水上船じゃない……空を飛んでいるんだ。
そう思えば足裏に感じる床が揺れていた。
パニックになる自分と、どうしてか「これから何か凄いことが始まるんじゃないか」とまったくわからない現実に小さく興奮する俺がいた。
あれ?
知らないものだと思い込んでいた部屋だが、よく見れば、見覚えのあるレイアウトなんじゃあないか?
「……ゲームだ……こいつぁゲームと同じなんだ……スカイハイフリートの……ボラタイルだ……!」
俺がやり込んでたゲームの愛艦だ。
厳密には艦ではなく改造ドラゴン。
これが本物のボラタイルであれば!
俺は窓に張り付いて外を見渡した。
景色ではない、乗っているものを。
巨大な翼が黒い影として夜に広がる。
長い首が、遥か先へと、伸びている。
俺が何年もやり込んでいたスカイハイフリートの乗艦である──ボラタイルと名付けた物の操縦席で間違いない。
スカイハイフリートではドラゴンもバトルシップ(戦艦)も大きな区別はない。どちらも強力な火力をもち、分厚い装甲という、設定はともかく数字上では対等な存在だ。
機械と自然が融合したドラゴンと、純粋な飛行戦艦の空中戦を、勢力に分かれて争うのがスカイハイフリートの根底だ。
俺の愛艦ボラタイルは、数日前のアップデートで性能が見直されたので久しぶりに引っ張り出したユニットだ。トップ層並みの性能持ちというわけではないが、戦い方がシンプルで、プレイしていて負担が少なく相性も良いのでずっと使っていた。
「ゲームではコントローラのボタンを押していただけだが〝本物〟はもっとシンプルだな。設定だとドラゴンの神経と直結されて、ドラゴンの頭もコンピュータ代わりだから、機械式戦艦よりもずっと操縦は省力なんだったか」
驚くことにゲームよりも簡単だ。
舵輪を回せば当たり前のように、ボラタイルは翼を曲げて左右にゆっくりと旋回するし、上昇や下降だって思いのままだ。
「ふむん……」
と、なればだ。
操縦は無問題。
武器はどうだ。
好奇心が勝る。
伝声管の蓋が開いている。
俺は咳払いして命令する。
「ボラタイル、戦闘よーい」
風の音のような微かな呻き声が響く。
ボラタイルが何度となく返した声だ。
それが今風を震わせて俺の耳へ届く。
とはいえ、これだけじゃあわからん。
ボラタイルが変形をしているわけではないし……良いものを見つけたぞ。適当なサイズの雲の塊だ。
ボラタイルには主砲が装備されている。
ヴォルカノカノン……要するに宇宙戦艦ものならビーム砲みたいなものだ。それが2本背負っていて、撃てば、俺のいるブリッジからでも閃光が見える。
他にも近接防御の破片を散布する爆発鱗やら、高圧縮腐食砲やらあるがヴォルカノカノン、これが一番派手だろう。
「ボラタイル──」
舵輪を回した。
向きが変わる。
「──目標1200、昼飯の雲の塊」
ヴォルカノカノン発射。
カウントダウンも無し。
実に気軽に〝主砲〟を放った。
うおッ、俺の頭上を光線が!!
窓越しでも伝わる熱さが一瞬で通り過ぎ、光線は真っ直ぐに雲を貫いた。巨大な穴が開き、穴の周囲はまるで焼け焦げたかのように真っ黒へ染まると、雷がバチバチと走るのが見える。
空中戦果のバイタルパートも貫く威力。
間近で見ると、そらおそろしいものだ。
「凄いぞ、ボラタイル、お前は無敵だ!!」




