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氷の上司に、好きがバレたら終わりや  作者: naomikoryo


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11/16

第11話「弱った顔、見たん初めてや」

金曜日、午後4時。

名古屋でのプレゼンは無事に終了した。

現地スタッフの反応も上々で、上司としての本庄もさすがの手腕を発揮した。


(すごいなぁ、ほんま……)


冷静で的確。

プレゼン中にちょっとトラブルがあっても、眉一つ動かさずに対応。

何年経っても“できる男”の見本みたいな人やなあ、と舞子は見惚れていた。


ただ――

その後、帰りの新幹線に乗る直前、本庄の様子にほんの少し“違和感”があった。


「あれ……

課長、顔色、ちょっと悪ないですか?」


「……少し疲れただけです。

問題ありません」


いつものように淡々と答える本庄。

でもその口調が、少しだけかすれていた。


 


新幹線の車内。

指定席に座った本庄は、ネクタイをゆるめて静かに目を閉じていた。


舞子はその横顔をちらっと盗み見る。


(……明らかに、しんどそうや)


肌の色もやや青白くて、額にはうっすら汗が滲んでる。


(もしかして、熱あるんちゃう?)


思い出すのは、昨夜の寝言――

「もう、いい……離れた方が……」


あれ、ほんまに夢の中の言葉やったんかな。

もし本音やったとしたら、あの人、今もずっと苦しんでるんちゃうやろか。


ガタン、と車体が揺れて、本庄の肩がふわっと揺れた。


「……っ」


「課長、大丈夫ですか!?」


「……あ、すみません。

少し、気分が……」


明らかにおかしい。

普段は絶対に“弱音を吐かない”人が、今は顔をしかめて座席に寄りかかっている。


舞子は迷わず、バッグからペットボトルの水とハンカチを取り出した。


「ちょ、無理せんといてください。

これ、お水。

あと……ひやしたハンカチ、ちょっと額に……」


「宮本さん、そこまでしなくても……」


「課長、今は上司とか部下とか関係ないですって!

しんどいときは、しんどいって言ってください!」


それでも本庄は最後まで否定しようとしたが、彼の体は正直で、額の熱はどんどん上がっていた。


舞子は思い切って、自分の肩にそっと本庄の頭を支えた。


「……ちょっとだけ、休んでください」


「……申し訳、ありません……」


その言葉を最後に、本庄は本格的に目を閉じて、舞子の肩にもたれかかってきた。


(うわ、めっちゃ近い……けど、今はそれどころちゃう)


彼の体温は、思っていたより高かった。

氷の上司のはずが、こんなにあったかいって、ちょっとずるい。


そして、何より――


弱った本庄誠は、あまりにも人間らしくて、愛おしすぎた。


 


東京に戻ったのは夜8時すぎ。

タクシーで本庄の自宅近くまで送ったあと、彼はぼんやりとした声で言った。


「……ここまで、送ってもらってすみません」


「うちが心配で残業したんですよ。

お礼くらい言ってもらわんと割に合いませんわ」


「……ありがとうございます、宮本さん」


舞子は笑った。

その笑顔を見て、本庄もほんの少しだけ、口元を緩めた。


「……なんか、初めて見ました。

課長の“人間味”ってやつ」


「そうですか?」


「はい。

むしろ、ちょっと安心しました。

課長も、ちゃんと疲れるんやって」


その一言に、本庄は少しだけ目を伏せた。


「……誰かの前で弱った顔を見せるのは、ずいぶん久しぶりです」


「うちで、よかったんですか?」


「……はい。

よかったと思います」


その瞬間、舞子の心臓は跳ねた。


(……これ、今……“特別扱い”された?)


けど、そこで調子に乗ったらあかん。

それだけは、胸に刻んでおかなあかん。


でも――


この夜だけは、ほんのちょっと、恋してる自分を許してあげようと思った。


 


帰り道。

電車に揺られながら、舞子はつぶやいた。


「……あかん、もう一生、うちの肩貸したるわ」


電車の窓に映る自分の顔が、ちょっとだけ照れてて、でも、満たされていた。


本庄誠。

氷の上司。

でもほんまは――あったかい人や。


今はまだその心に触れるだけで精一杯やけど、

いつか、ちゃんとその横に立てたらええな。


そう思いながら、舞子はそっとスマホにメモを追加した。


>本庄課長の弱点:高熱。あと、寝顔がちょっと子犬っぽい。


(ふふ。秘密の宝箱、またひとつ増えたわ)

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