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第9話 夜の図書室、隠し味は執着

「……あ、あった。これよ。差押物件目録……」


深夜の王宮図書室。私は梯子の上で、鼻歌まじりに分厚い帳簿をめくっていた。

昨夜、没落の黒幕・ゲオルグ侯爵の鼻面を物理(正拳突き)で粉砕したおかげで、ようやく実家の資産を取り戻すターンに入ったのだ。


「フフッ……この隠し口座、計算機を弾くのが楽しみだわ。……って、んもぅ! どいてください王様!」


梯子の下から、私の腰に「ガシッ」としがみついて、犬……じゃなくて狼の鳴き真似をしている男がいる。

一国の主、レオン様だ。


「ナオミ……。お前がその薄汚い紙束を触り始めてから、既に三十分が経過した。俺の毛並みの検品ブラッシングは、一分も行われていないぞ」


「王様。これ『紙束』じゃなくて『お金』です。一円の狂いも許されない、神聖な戦いなんです。……っていうか、重い! 降りられないから離して!」


「断る。お前のその有能な指先が、数字かねを数えるためだけに酷使されるなど……俺の独占欲が許さん」


レオン様は私を梯子から引きずり下ろすと、そのまま本棚の間に私を閉じ込めた(いわゆる壁ドンだが、圧が強すぎて『檻ドン』に近い)。

そして、黄金の瞳をじっと潤ませ、今世紀最大に「面倒くさい」問いを投げかけてきた。


「……ナオミ。一つ聞かせろ」


「はいはい、何ですか」


「その『資産目録』と、この『俺』。……お前にとって、どちらが大事だ。今すぐ答えろ。さもなくば、この図書室の蔵書をすべて焼き払い、お前を俺の私室に終身雇用(監禁)する」


「……はぁ? 犯罪ですよ、それ。っていうか王様。それ、【仕事と私、どっちが大事なの!?】っていう、昔のトレンディドラマで振られる彼女のセリフですよ? 恥ずかしくないんですか」


「…………っ、恥ずかしくなどない! むしろ、数字に嫉妬している自分が誇らしいほどだ!!」


開き直った!! この王様、顔がいいだけで中身が完全に「構ってちゃんの重い女」になっている。

私は溜息を吐き、彼の整った顔を両手でムギュッと挟んだ。


「いいですか、レオン様。仕事っていうのは、没落した私が誰にも媚びずに生きていくための『漢気』なんです。それを邪魔する男は、たとえ王様でも……【シマ】へご案内しますよ?」


「…………。……分かった。お前のプライドは尊重しよう。だが、俺の『野生』はどうすればいい」


レオン様は急に声を低くし、私の指を一本ずつ、食むように唇でなぞり始めた。

先ほどまでの駄々っ子ぶりが嘘のような、獲物を追い詰める「雄」の熱量。


仕事それが重要なら、俺との時間を『残業』として扱え。……今夜は深夜手当(愛撫)をたっぷり支給してやる。……一秒の遅刻も許さんぞ、ナオミ」


「っ……、王様……」


図書室の静寂が、急激に淫らな熱を帯びる。

「隠し味」どころか、もはやメインディッシュ級の重たい執着心が、私を逃がさない。


「……分かりましたよ。……ただし、深夜残業代は『翌朝の朝食抜き(寝坊許可)』と『腰痛手当』で精算しますからね」


「構ワン! ……さあ、続きを始めようか、ナオミ。お前のその手で、俺の奥まで……じっくりと、検品マーキングし尽くせ」


ナオミ姐さん、本日五度目の大ピンチ。

この獣人王、嫉妬の方向性が「仕事相手」から「数字」にまで広がり、収拾がつかない溺愛モードに突入してしまったらしい。


(つづく)


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