第8話 没落の真相と、忍び寄る影
「……はぁ。王様、そこ、凝りすぎです。狼の姿で執務室の椅子に座りすぎなんですよ」
王宮の、絢爛豪華なレオン様の私室。
私は今、全裸(!)でソファーに仰向けになっているレオン様の、バキバキに割れた腹筋……ではなく、今日は「耳の裏」を、指先で入念にマッサージしていた。
レオン様との朝まで会議(?)以降、彼は事あるごとに「ナオミ、ここが凝った」「ここも検品が必要だ」と、公務中にも関わらず、私を部屋へ誘おうとする。
「……ぐ、ぅ……あ…………。ナ、ナオミ……そこは……っ、あぁ……!」
冷酷な軍神の口から、聞いたこともないような【甘く、掠れた野生の吐息】が漏れる。
彼は片腕で自分の目を覆い、剥き出しの喉仏を激しく上下させている。
「……ふぅ、とりあえず、こんなもんですかね。はい、おしまい!」
「待て。まだ右の耳たぶの検品が済んでいない……」
「欲張らないの! 王様、これから大事な話があるんでしょ?」
私がパシッと彼の額を叩くと、レオン様は名残惜しそうに起き上がり、急に真剣な、王の顔に戻った。
「……ナオミ。お前の実家、ローゼンタール公爵家を陥れた『黒幕』の尻尾を掴んだ」
私の指が止まる。
「……父をハメた、真犯人ですか?」
「ああ。お前の父が聖獣の購入費を横領したという証拠。あれを捏造し、王宮にリークしたのは……フィリップの父親、ゲオルグ侯爵だ」
「……侯爵? あのゲオルグ家が?」
私は眉をひそめた。フィリップの家は、代々ローゼンタール家の風下にいたはずだ。
「奴らは、お前の父が持つ聖獣貿易の利権に目をつけた。格上の公爵家を潰し、その椅子を奪うために……奴らは密猟ギルドと手を組み、お前の父に冤罪を擦り付けたのだ」
レオン様の瞳が、黄金色にぎらついた。
「……ナオミ。俺は王として、奴らを裁く準備ができている。だが、これはお前の戦いだ。お前はどうしたい?」
「……決まってます。王様」
私は、ゆっくりと立ち上がり、腕を捲り上げた。
「……うちの父を泥の中に引きずり落とした罪。……『正拳突き』を添えて、直々に返してあげるわ」
*
その夜。王宮の北側にある、寂れた資材倉庫。
そこには、怪しげな男たちに囲まれ、ニヤニヤと裏金を数えるゲオルグ侯爵の姿があった。
「……ひっひっひ。ローゼンタール公爵家の利権は完全に我が物。あの娘も今頃、どこかの動物園で糞尿にまみれて泣いているだろう」
「……誰が糞尿にまみれてるですって?」
私が倉庫の扉を蹴り開けると、ゲオルグ侯爵は「ひえっ!」と声を上げた。
「だ、誰だ! 貴様は……! ……もしや、ナオミか!? なぜここに!」
「受付嬢の意地ですよ。侯爵さん、人の家の庭(利権)を荒らすなら、もっと上手くやりなさい。……詰めが甘いのよ、あんたも息子も」
私はゲオルグ侯爵に歩み寄り、その胸ぐらを掴んだ。
「だ、離せ! 衛兵! 衛兵を呼べ!!」
「無駄ですよ。外の衛兵は、背後で待機していた『エロ狼様』の殺気に萎縮して、全員気絶していましたから」
私が背後の影を指差すと、そこには狼の姿に変身して、心配のあまりずっとついてきていたレオン様がいた。
私はゲオルグ侯爵に、全霊を込めた右拳を構えた。
「……格下が公爵家に泥をかけた罪。……熨斗をつけて返してやるわよ! 歯、食いしばれー!!」
「……ぶ、ふぉぉっ!!」
ゲオルグ侯爵は鼻血を噴き上げ、そのまま金の山に突っ込んだ。
没落の真相。その日のうちに、私は物理でケリをつけた。
「……ナオミ。お前、本当に仕事が早いな。……俺の出る幕が、一ミリもなかったぞ」
狼の姿のまま、しょんぼりと耳を垂らすレオン様。
私はそんな「最強のストーカー」の頭を、ワシワシと撫でてやった。
「いいじゃないですか。……さ、帰りましょう。王宮に戻って、大人しく会議の続き、してあげますから」
「っ……! ……よし、全力で走って帰るぞ!!」
最強の黒幕を秒殺し、最強の王を「なでなで」で手懐ける。
ナオミ姐さんの無双伝説は、まだ始まったばかりだった。
(つづく)




