表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/8

第7話 嫉妬の王と、懐きすぎた火竜

「……おい。誰か、こいつを今すぐステーキにしてこい。特大の、ウェルダンだ」


王宮のプライベートガーデンに、地獄の底から響くようなレオン様の声が轟いた。

その視線の先には、真っ赤な鱗を夕日に輝かせ、うっとりと目を細めている巨大な火竜サラマンダー・ロッサの姿がある。


問題は、そのロッサが何を枕にしているかだ。


「……王様。ステーキにしても、硬くて食べられませんよ。あと、さっきから物騒なこと言わないでください。仕事の邪魔です」


私はロッサの巨大な顎を膝に乗せ、鱗の隙間を専用のブラシでワシワシと磨いていた。

ロッサは「クゥ〜……(姐さん、最高です……)」と喉を鳴らし、幸せそうに鼻から火の粉を散らしている。


「仕事だと!? お前、定時はとっくに過ぎているだろう! なぜ、そのトカゲが俺の、俺だけの指定席(膝の上)を占拠しているんだ!」


「ロッサが『逆さ鱗を磨いてくれないと、また暴れて王宮の西棟を焼き払う』って聞かないんですよ。……ほら、ロッサ。王様が怖い顔してるから、そろそろ飼育棟に帰りなさい」


私がそう諭すと、ロッサはパチリと目を開け、レオン様をチラリと一瞥した。

そして、あろうことか。

ロッサは太い尻尾を私の腰に優しく巻き付け、これ見よがしに私の首筋に大きな頭をスリスリと擦り付けたのだ。


「……ッ、今、こいつ……俺を笑ったか!? 勝ち誇ったような目で俺を見たぞ!!」


レオン様の額に青筋が浮かぶ。

一国の王が、伝説の聖獣相手に本気でメンチを切っている。……情けない。


「被害妄想ですよ。さ、終わりました。ロッサ、バイバイ」


「キュゥ〜ン(姐さん、また明日お願いします……!)」


名残惜しそうに、けれど満足げに空へ飛び去っていくロッサ。

それを見送る私の背後から、爆発的な「熱」が迫ってきた。


「……ナオミ。お前は、自分がどれほど無防備な自覚があるんだ」


ガシッ、と。

強い力で肩を掴まれ、私は強引に振り向かされた。

そこには、嫉妬で瞳を黄金色にぎらつかせた、野生剥き出しのレオン様がいた。


「ロッサはただの甘えん坊ですよ。動物園のライオンだって、懐けばあんなもんです」


「あんなトカゲが、お前の首筋に触れるなど……万死に値する。俺ですら、そこは昨夜、執拗に検品マーキングした場所だぞ!」


「ちょっ、声が大きいですよ! 誰が聞いてるか――」


「構ワン! 今すぐその匂いを、俺の吐息で焼き払ってやる!」


レオン様は私の腰を抱き寄せ、ロッサが触れた場所に、奪い取るような激しい口づけを落とした。

……熱い。火竜の炎よりも、この執着心の塊のような王の体温の方が、ずっと火傷しそうなほどに。


「……な、おみ。俺以外の獣に、その手を使うな。お前の『漢気』ある愛撫は、俺専用の特権だ」


耳元で、切なげに、けれど命令するように囁かれる。

さっきまでトカゲと喧嘩していた男とは思えないほどの色気に、私の心臓が勝手に跳ねた。


「……王様、嫉妬深すぎ。……でも、そんなに言うなら、後でなでなでしてあげますから。……ね?」


私が少しだけ毒気を抜かれて、彼の背中に手を回すと。

「…………なでなで、一晩中か?」


「……定時外手当、つきます?」


「国庫をすべてやる。だから、俺だけを見ていろ」


ナオミ姐さん、本日四度目の大ピンチ。

この獣人王、嫉妬を拗らせすぎて、ついに「国をなでなで代として支払う」という、とんでもない親バカ……ならぬ「つがいバカ」を極め始めてしまったらしい。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ