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第6話 聖獣管理官・ナオミの初出勤

「……痛たた。あの変態狼、加減を知らないのよ……」


翌朝。私は、鉛のように重い腰を叩きながら、王宮の「聖獣管理部」の重厚な扉の前に立っていた。

朝まで続いた『会議』という名の執拗なマーキング。首筋に刻まれた紅い痕をストールで隠し、私は受付嬢時代から変わらぬ、無表情という名の戦闘仮面を被る。


「失礼します。本日より聖獣管理官として配属されました、ナオミ・ローゼンタールです」


入室した瞬間、粘りつくような視線が私を刺した。

そこにいたのは、金ピカの勲章を胸に飾った、いかにも「現場を知らない」エリート風の役人たちだ。


「……ほう。陛下がどこからか拾ってきた『元・受付嬢』というのは君かね」


部長らしき、恰幅のいい中年男が鼻で笑う。


「女に何ができる。ここは、国を支える軍用聖獣を扱う神聖な場だ。腰を振るのが仕事の女が、一丁前に事務服など着るんじゃないよ」


背後で、若い役人たちがクスクスと下卑た笑い声を漏らす。


……あー、はいはい。このパターンね。


「部長さん。私、腰は振ってません。昨夜は王様に『振らされた』だけです。仕事ケアに関しては、あなた方の百倍は経験がありますので、ご心配なく」


「なっ……! 貴様、不敬な……!」


「それより、奥の飼育棟。さっきから『火竜サラマンダー』の鳴き声に、重度の便秘と、飼育員への殺意が混ざってますけど。放置してていいんですか?」


私が冷ややかに指摘した瞬間、奥から「ドゴォォォォン!!」という爆発音と、悲鳴が響き渡った。


「た、大変です! 火竜のロッサが暴走! 鎮圧用の魔導士たちが焼き尽くされました!!」


真っ黒に焦げた職員が転がり込んでくる。役人たちは「ひいいいっ!」と机の下に潜り込んだ。


「あぁ、もう。朝から騒がしいわね……」


私は溜息を吐き、袖を捲り上げた。

部長が震える声で叫ぶ。


「ま、待て! 素人が何をする! 逃げるぞ!!」


「素人? ……部長さん、よく見ておきなさい。これが『現場の受付嬢』のやり方よ」


私は燃え盛る飼育棟へ、悠然と歩み寄った。

そこには、全身から火を噴き、真っ赤な眼で暴れ狂う巨大な火竜がいた。


「グォォォォォ!!(死ね! 全員焼き尽くしてやる!!)」


火竜の咆哮が、至近距離で私の鼓膜を震わせる。

だが、私は一歩も引かない。むしろ、その鼻先に「指」を突きつけた。 


「あんた、うるさいわよ。静かにしなさい」


「……グッ!?(はぁ!?)」


私は火竜の喉元、特定の鱗が逆立っている箇所を、迷わず素手で【ワシワシ】と掴んだ。


「あんたがイライラしてるのは、この『逆さ鱗』に古い角質が詰まってるからでしょ。あと、餌のトカゲの鮮度が悪いわ。あんなスカスカなもん食わされたら、私だって火を噴くわよ」


火竜の動きが、ピタリと止まった。

私はそのまま、正拳突きを放つ時と同じ鋭さで、指先を鱗の隙間にねじ込み、溜まっていた魔力の塊を一気に引き抜いた。


「……あ、あぁぁ…………(姐さん、それ……そこです……)」


火竜の眼から炎が消え、みるみるうちに「うっとり」とした表情に変わる。

最後には、巨大な頭を私の肩に預け、子猫のように「クゥン」と喉を鳴らした。


「……よし。明日の餌は私が手配するから、今日は大人しく寝てなさい」


「……クルゥ(はい、姐さん……ありがとうございます)」


静まり返る管理部。

呆然と立ち尽くす役人たちの前で、私は服についた灰をパパッと払い、部長のデスクまで歩み寄った。


「部長。火竜のケア、終わりました。……で、女に何ができるって言いましたっけ? 私、これから自分のデスクの検品(整理)しなきゃいけないんで、邪魔なんですけど」


「………………ひ、ひぃぃっ!!」


部長は腰を抜かし、椅子から転げ落ちた。


「あ、それとレオン様」


私が背後の影に向かって声をかけると、そこには狼の姿に変身して、心配のあまりずっとついてきていた王様がいた。


「……な、ぜ気づいた。完璧に気配を消していたはずだが」


「あんたの『甘ったれた匂い』、朝からプンプンしてるんですよ。……仕事の邪魔です。王宮に戻って、大人しく会議の議事録でも書いててください」


「っ……、ナ、ナオミ……! お前、俺をあしらうのが上手くなりすぎていないか!?」


最強の火竜と、最強の狼王。

その両方を手懐けた「姐さん管理官」の誕生に、王宮が震撼した瞬間だった。

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