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第5話 朝まで会議(つがい)の誓約

「……あの、王様。何してるんですか」


王宮の天蓋付きベッド。押し倒されたはずの私は、目の前の光景に、呆れを通り越して職人(受付嬢)としての疑問を抱いていた。


レオン様は私の右手をがっしりと掴んだまま、自分の頬を、まるで極上の毛布にでも触れるかのように、何度も、執拗にスリスリと擦り付けているのだ。

黄金の瞳を細め、喉の奥で「ゴロゴロ」と、およそ一国の王とは思えない音が鳴っている。


「黙っていろ、ナオミ。これは……聖なる儀式だ。お前のこの拳に、俺の匂いを刻み込んでいる」


「いや、それ、うちの動物園のライオンとかトラがよくやる『縄張り主張マーキング』ですよね? 頬の分泌腺をなすりつけるやつ」


私は真顔で、スリスリされている手のひらを見つめた。


「しかも王様、レオンってライオンっぽい名前してますけど、あなた種族はオオカミでしょ。イヌ科ですよ? 猫科のムーブしてどうするんですか。どこで覚えたんですか、その間違った甘え方」


「…………っ!」


レオン様の動きが、ピタリと止まった。

図星だったらしい。彼は耳まで真っ赤に染め、けれど私の手は決して離さない。


「……ハクがやっていた。ナオミになでなでされている時、こうして頬を寄せていただろう。……俺も、お前の手に自分のしるしを残したかったのだ」


「部下(軍用狼)の真似してどうするんですか! 威厳! 王としてのプライド、どこ行ったんですか!」


「お前に泥をかけたクズ(フィリップ)の記憶が、一欠片でも残っているくらいなら……プライドなど、狼の餌にでもなればいい!」


叫ぶように言い放ったレオン様の声が、急に低く、熱を帯びた。

冗談めかしていた空気は、彼のその「一言」で一変する。


「……ナオミ。俺は、狂いそうだ」


彼は私の指先を一本ずつ、食むように唇でなぞり始めた。

先ほどまでの「スリスリ」とは違う、獲物の骨までしゃぶり尽くそうとするような、飢えた獣の愛撫。


「あの男に縋り付いた、この指。泥を拭った、この掌。……すべて、俺の熱で焼き尽くしてやる。明日目覚めた時、お前が覚えているのは、俺の体温だけだ」


「っ……、王様……」


右拳の関節。泥がこびりついていたはずの爪先。

レオン様の熱い舌がそこを這うたび、忌まわしい泥の感触が、ゾクゾクとするような快感に塗り替えられていく。


「なでなでは、もう終わりだ」


彼は私の指を絡め取り、逃げ場を塞ぐように覆い被さった。

はだけたシャツから漏れる、爆発的な雄の匂い。

猫科の真似事ではない、本物の「狼」の執着が、私をベッドの奥深くへと沈めていく。


「……朝まで、お前のすべてをマーキングさせろ、ナオミ」


「…………っ、だから王様! 言い方が、いちいち動物園なんですよ……っ!」


ナオミ姐さんの必死のツッコミも、王の深い口づけにかき消された。

残念な王様が、今夜、本物の「獣」へと豹変する。


(つづく)


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