第4話 野生の王は、愛撫に膝を屈する
「……本気なんですね、王様」
私は溜息を吐き、袖を捲り上げた。
目の前では、漆黒の軍服をはだけさせたレオン様が、王宮の高級ソファーに悠然と仰向けになっている。
シャツの隙間から覗くのは、鋼のように鍛え上げられ、幾多の死線を潜り抜けてきたことを物語るバキバキの腹筋。
……正直、職人(受付嬢)としての私の指が、その「極上の素材」を前にして疼いているのは否定できない。
「当たり前だ。……待て、なぜ腕捲りをする。そんなに気合を入れなければ、俺の腹は撫でられんのか?」
「聖獣(猛獣)のケアは、常に真剣勝負ですから」
私は覚悟を決め、彼の腹筋に、両手を力強く置いた。
「っ……!」
触れた瞬間、レオン様の喉が短く跳ねた。
熱い。服の上からでも分かっていたけれど、直接触れるその肌は、獲物を狙う直前の猛獣のような、爆発的な熱量を秘めている。
私はハクにしたのと同じように、指先に力を込め、その硬い筋肉の溝をなぞるようにワシワシと動かし始めた。
「よしよし、いい子ね……じゃなかった、レオン様。あなたのこの筋肉、最高に『漢気』があって、触り心地がいいわよ」
「……ぐ、ぅ……あ…………」
冷酷な軍神の口から、聞いたこともないような【甘く、掠れた野生の吐息】が漏れた。
彼は片腕で自分の目を覆い、剥き出しの喉仏を激しく上下させている。
「王様? 痛いですか?」
「……逆だ。お前のその、無遠慮で力強い指先が……泥にまみれた過去ごと、俺の理性を掻き消していく……」
レオン様の腹筋が、私の愛撫に合わせてビクビクと波打つ。
驚いた。国を背負う王の身体が、私の指一つで、これほどまでに無防備に、悦びに震えているなんて。
私は調子に乗って、さらに力を込めて円を描くように揉みほぐした。
「ほら、ここ、凝ってますよ? 狼の姿で走り回りすぎなんじゃないですか?」
「っ、な……おみ……! そこは……っ、きぁ……!」
レオン様の妙に高くて可愛い声が響き渡る。
そしてついに、レオン様がソファーのクッションを指先で引きちぎらんばかりに握りしめ、背中を大きく反らせた。
黄金の瞳が潤み、視線が定まらない。
あんなにストイックだった男が、今や私の手の中で、快感に溺れる一匹の獣になり果てている。
「……ふぅ、とりあえず、こんなもんですかね。はい、おしまい!」
私が手を離そうとした、その時だった。
ガシッ、と。
熱い鉄輪のような手首が、私の両手をレオン様の腹筋に縫い付けた。
「……誰が終わっていいと言った」
見上げると、そこには「ワンコ」ではない。
獲物を完全に追い詰めた、飢えた「狼」の瞳があった。
「王様……? さっきの『なでなで』で満足したんじゃ……」
「満足? 冗談ではない。火をつけたのはお前だ、ナオミ」
レオン様は私の手を掴んだまま、ゆっくりと起き上がり、私をソファーに押し倒した。
はだけたシャツから、ドクドクと力強い心音が、私の手のひらを通して伝わってくる。
「お前の『漢気』ある愛撫、腹だけでは足りん。……次は、どこを『なでなで』してもらおうか。朝まで、じっくりと会議の続きをしようではないか」
「………………ちょっと待て。王様、表出ましょうか!!」
ナオミ姐さん、本日三度目の大ピンチ。
この獣人王、なでなでしたら「賢者モード」になるどころか、完全に「捕食モード」のスイッチが入ってしまったらしい。




