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第3話 野生の王は、愛でる手を独占したい

回想を終え、私の拳に落とされたレオン様のキスの熱が、じわりと指先に残っている。

彼は私の腰を引き寄せたまま、窓の外――夕闇に包まれる動物園の飼育エリアを、鋭い眼差しで見つめた。


「ナオミ。明日からお前は、王宮で我が直属の『聖獣管理官』として仕えてもらう」


「……え、ちょっと待ってください。私はただの受付嬢ですよ? 今だって仕事が溜まって――」


「拒否は許さん。お前のその手は、泥をかけるようなクズのためにあるのではない。俺と、我が同胞たちのために使え」


有無を言わさぬ強引な「拉致」宣告。

そのまま彼は私を軽々と抱き上げ、王宮から迎えに来た漆黒の馬車へと押し込んだ。



数日後。王宮内の特別飼育場。

私は、怪我で塞ぎ込んでいた軍用狼の『ハク』のお腹を、ワシワシと力一杯撫でていた。 


「よしよし、いい子ね。あんたの毛並み、最高に触り心地がいいわよ」


「……グルルゥ(姐さん、そこ、そこっす……)」


あんなに荒れていたハクが、今では私の前で完全に仰向けになり、後ろ脚をピクピクさせて喜んでいる。職人魂に火がついた私は、受付嬢の顔をかなぐり捨てて、必死に「なでなで」の奉仕をしていた。


その時だ。背後から、凍りつくような冷気が漂ってきた。 


「……ナオミ。何をしている」


振り返ると、そこには軍服のボタンを喉元までキッチリ締めた、冷酷な獣人王・レオン様が立っていた。氷のような瞳が、ハクと私の手を交互に射抜く。


「見ての通り、ハクのメンタルケアです。王様、今いいところなんですから、邪魔しないでください」


「邪魔、だと?」


レオン様は一歩、また一歩と距離を詰めてくる。その圧倒的な覇気に、ハクが「ひえっ、ボスがマジギレだ……!」とばかりに、尻尾を巻いて退散していった。


「あ、ちょっと! まだお腹の右半分が残ってるのに!」


「……ナオミ。俺は今、猛烈に不愉快だ」


彼は私の前に立ちふさがり、影で私を包み込む。

その低い声は怒りに震えている……かと思いきや、どこか「拗ねた子供」のような響きを帯びていた。


「なぜ、我が同胞(部下)どもは、俺の伴侶にあれほど懐いている。……俺ですら、まだお前に仰向けで『腹をなでなで』してもらっていないというのに!」 


「…………はい?」


王宮の庭園に、私の素っ頓狂な声が響いた。

この、国中の女性が憧れるストイックな軍神が、今、何を言った?


「お前は、あのクズに泥をかけられた時、二度と誰にも触れさせないと決めたはずだ。だが俺は、その過去ごと奪うと言った」 


レオン様は真顔で、国家予算の決議でもするかのような厳格なトーンで続ける。


「ハクができるなら、俺にできないはずがない。……早くしろ、ナオミ。俺も待っている。この腹が、お前の『漢気』ある愛撫を求めているんだ」


そう言って、彼はなんと、自ら軍服のジャケットを脱ぎ捨て、ソファーに仰向けになろうとした。


「……王様、それ本気で言ってます? 国が終わりますよ?」


「構ワン!お前に撫でられないのなら、この国など狼の餌にでもなればいい。……さあ、始めろ」


ナオミ姐さん、本日二度目の大ピンチ。

この獣人王、独占欲が強すぎて、ついに「野生の駄々っ子」としてワンコ化してしまったらしい。


つづく


予告 

第4話 野生の王は、愛撫に膝を屈する


王宮の特別飼育場で起きた、レオン様の“ある感情”の暴走。

その余韻がまだ残る中、ナオミに訪れるのは――さらなる試練。


「……本気なんですね、王様」


次回、ナオミはついに“獣人王の素顔”と真正面から向き合うことになる。

鋼の肉体、揺らぐ理性、そして王宮の空気を震わせるほどの、説明不能な緊張感。


触れた瞬間、何かが変わる。

触れ続ければ、もっと危険な何かが目を覚ます。


王宮の高級ソファーで、ナオミとレオン様の距離が――ゼロになる。


次回――

『獣人王、限界突破のその先へ。〜王宮が静まり返った“あの瞬間”〜』


ナオミ姐さん、本日またしても大ピンチ。

レオン様の“とあるスイッチ”が入った時、王宮はどうなってしまうのか……?


どうぞお楽しみに。

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