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第17話 バルコニーの逃避行

静まり返った会場を背に、レオン様は私の手首を掴み、夜風の吹き抜けるバルコニーへと連れ出した。

煌めく星空の下、二人きり。

ついさっきまで「俺の女」と覇道を突き進んでいたはずの王が、私を振り返った瞬間――その耳がヘニャリと垂れ下がった。


「……ナオミ。俺…………怖かったんだよぉ……っ!」


「はいはい、知ってます。っていうか、声のトーン戻るの早すぎません?」


案の定、私室で見せていた「ぴえん狼」への超速回帰だ。

レオン様は私の肩に顔を埋め、大型犬のごとくスリスリと甘えてくる。

だが、その震える指先が、私の「左拳」に触れた時。彼の動きがピタリと止まった。


「……赤くなっているじゃないか」


「……あ。……まあ、あいつの鼻筋、意外と硬かったですし」


私が何でもないことのように笑うと、レオン様は、私の手を両手で包み込んだ。

そして、そのまま跪き、赤く腫れた私の節くれ立った拳に――そっと、壊れ物を扱うような、深く熱い口づけを落とした。


「……っ!? ……ちょっ、レオン様……ッ!?」


「二度と、あんな奴のために、お前の綺麗な拳を汚さないでくれ……。……お前の拳が貫いていいのは、俺の心臓(概念)だけでいい」


見上げたレオン様の瞳には、先ほどの甘えは微塵もなかった。

そこにあるのは、底知れない執着と、他の何者にも触れさせたくないという、獣特有の獰猛なまでの独占欲。


「お前の拳は、俺が一生メンテナンスしてやる」


そう言って、レオン様が私の薬指に滑り込ませたのは、夜空の星を閉じ込めたような、大粒のダイヤモンドが輝く指輪だった。


「……は? ……え? メンテナンス……って、これ、指輪……」


あまりの急展開に、私の脳が本日何度目かのフリーズを起こす。

格闘技に明け暮れ、可愛げの欠片もないと言われ続けた私の、無骨な拳。

それを「綺麗だ」と言い、一生守ると誓う、目の前の珍獣……いや、この愛すべき王様。

熱い。心臓の音が、耳元までうるさく響く。

私は、顔が茹で上がるほど赤くなるのを感じながら、精一杯の強がりで応えた。


「………………メンテナンス料、高いですよ?」


「……あぁ、望むところだ。俺の全財産、いや、俺の『人生』すべてを支払おう」


レオン様は、私の手を離さない。

さっきまで「正拳突き」で会場を黙らせていた私の左手は、今、レオン様の大きな手のひらの中で、ただの「恋する乙女」の手のように震えていた。



【次回予告】


「……はぁ、やっと夜会の騒ぎが収まったと思ったら、今度は何?

目の前に現れたのは、純潔な乙女しか背中に乗せないという伝説の聖獣、ユニコーン。

ちょっと待ちなさいよ。その設定、今の私にはハードルが高すぎない?

もし……もし私が乗れなかったりしたら、レオン様との『あの夜』のこととか、いろいろ変な誤解を招くじゃない……っ!

王宮中の貴族が『聖女だ、乙女だ』って期待の眼差しを送ってくるけど、

今の私、中身がバレるのを恐れてビクビクしてる【裸の王様】状態なんですけど!

隣ではレオン様が、なぜか自信満々な顔でこっちを見てるし……。

……えっ、ちょっ、ユニコーン!? 何その反応……!

お前、伝説のプライドはどこへ捨ててきたのよ!!


次回、第18話 恋するユニコーン


……お願い、誰か私の心拍数をメンテナンスして!!


(つづく)




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