第15話 王の宣戦布告「俺の女に触れるな」
豪華絢爛な夜会の中心。
鼻に包帯を巻いたフィリップが、一人の男性の首根っこを掴んで仁王立ちしていた。
その男性は……見事なまでに光り輝く、完璧なスキンヘッド。
「……ナオミ。こいつ、君の元家庭教師だよね?」
フィリップがニヤリと笑った、その瞬間。
私は一秒の迷いもなく、その眩い頭部を指差して、会場全体に響き渡る絶叫を放った。
「……クリ〇ンのことか──っ!!!」
「いや、クリ◯ンじゃないから……」
元家庭教師とフィリップが同時にツッコむ。
「……あ。ごめんなさい。ツルリン先生だったわね。つい似てたから間違えたわ」
「謝られるなら、先ずはその指を下ろしてからにしてください! 全く酷いですよ、ナオミ様!」
私が赤面して指を引っ込めると、フィリップは「……フッ、相変わらず話が通じない女だ」と、気色悪い溜息を漏らした。
「さあ、ツルリン先生。語ってもらおうか。この女がいかに淑女とは程遠い、野蛮な育ち方をしたかを。……夜会の皆さんに、君の教え子の『黒歴史』を披露してあげたまえ」
「ひ、フィリップ様、おやめくだされ! ナオミ様が十歳の頃、木登りに失敗してスカートが枝に引っかかり、カボチャパンツ丸出しで三時間吊るされていたことなんて、口が裂けても言えません……ッ!」
「言ってるじゃない! 全力でスピーカー並みに暴露してるじゃない!」
私は叫んだ。会場の貴族たちがクスクスと笑い声を上げる。
ツルリン先生の頭光(後光)が、私の黒歴史を鮮やかに照らし出していく。
「さらに! 十二歳の時には、格闘技に目覚めるあまり『私、前世は戦闘民族だった気がする』と言い出し、自分の拳に……」
「やめてえぇぇ!」
私のSAN値はもうマイナス一万だ。今すぐこの王宮を爆破して、自分もろとも消し去りたい。
「ハハハ! 見たか! これが君の正体だ、ナオミ! こんな『犬以下』の女、王の隣にふさわしくない……ッ!
だから、仕方なくこの慈悲深い僕が情けをかけて復縁してあげようと言っているんだ」
フィリップが勝ち誇ったように笑い声を上げた、その時。
会場の空気が、一瞬で【凍結】した。
「――ほう。その『犬以下』の女に、俺の首は獲られかけたのだがな」
重厚な、地を這うような低音。
人混みが割れ、そこから現れたのは、フリルも萌え袖もかなぐり捨てた、圧倒的な威圧感を纏うレオン様だった。
ティッシュの詰まっていない、完璧なまでに整った顔。
その瞳には、一国の王としての、底知れない冷徹さと独占欲が宿っている。
「へ、陛下……!? なぜ、ここに……」
腰を抜かしてへたり込むフィリップを見下ろし、レオン様は私の肩を、これ以上ないほど強引に抱き寄せた。
「貴様。この女を『犬以下』と言ったか?」
レオン様の指が、私の首筋をなぞる。
それは先ほど私室で見せていた奇行とは無縁の、獲物を仕留める直前の獣の動きだった。
「……ナオミ。俺は、これほど美しく、苛烈で、俺の『概念』を容易く破壊する女を、他に知らん」
レオン様はフィリップの耳元で、会場全体に響き渡るような声明を放った。
「この女は、俺の獲物だ。……二度とその汚い言葉で、俺の女に触れるな」
会場が静まり返る。
フィリップは恐怖のあまり、曲がった鼻から変な音を立てて白目を剥いた。
……ちょっと待って。
今のレオン様、めちゃくちゃカッコいいんだけど。
さっきまで私のカーテン被って「ぴえん」とか言ってた人と同一人物だなんて、誰が信じてくれるっていうのよ。




