表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/13

第10話 偏食のグリフォン

「……はぁ? 食べない? 伝説の聖獣が、いい歳してハンスト中だって?」


 翌朝。腰痛手当(寝坊)を勝ち取ったはずの私の元に、聖獣管理部の役人が半泣きで駆け込んできた。

王宮の最上階にある「天空のテラス」。そこに鎮座するのは、金色の翼を持つ伝説の聖獣・グリフォンのアルフレッドだ。


「そうなんです、ナオミ管理官! もう三日も最高級の生肉を口にせず、ただ空を睨んで……このままでは国宝が衰弱死してしまいます!」


テラスに踏み込むと、そこには羽毛を逆立て、いかにも「俺、繊細だから」というオーラを出しながら、皿の肉を無視する巨大なグリフォンがいた。


「グェェ……(いらねぇ、こんな筋張った肉……俺の美学に反する……)」


「美学? あなた、ただの『偏食』でしょ。贅沢病よ」


私が冷たく言い放つと、役人たちが「ひぇっ!」と顔を青くした。

だが、さらに青い顔をして、私の背後から「俺も繊細だ」と言わんばかりにしがみついてくる男がいる。レオン様だ。


「ナオミ……。こいつを構うのは後だ。俺も今朝から、お前の『あーん』がないと、胃が受け付けない体質になった……」


「王様、黙っててください。あなたはさっき、厨房のソーセージをこっそりつまみ食いしてたの、受付嬢の動体視力で確認済みです。はい、お座り!」


「…………っ、バレていたか……」


ショックを受ける王様を放置し、私はアルフレッドの前に仁王立ちした。


「いい、アルフレッド。あなたが食べないのは、この肉が『高級すぎる』からよ。……これ、霜降りの牛でしょ? 翼を持つあんたには脂が重すぎるのよ。もっと野性味ワイルドを思い出しなさい」


私は用意していた特製の「ジビエ・ハンバーグ(軟骨と野兎のミックス)」を取り出した。

アルフレッドはプイッと横を向く。


「グェッ(そんな安物、伝説の俺が食えるかよ……)」


「……あぁ、そう。……じゃあ、シマ出ようか、アルフレッド。あんた、自分が空の王者だと思ってるみたいだけど……。食わないなら、その翼、全部むしって【焼き鳥】にしてやろうか?」


「………………グェッ!?(えっ、姐さん、目がマジ……!?)」


私の瞳に宿った本気の殺気(お仕事モード)に、伝説の聖獣がブルリと震えた。


「チッ……言わせておけば、さっきからグダグダと好き勝手抜かしてんじゃねえぞ、コラ! こちとら、あんたが【完食】するまでが残業シゴトなんだよ。……さあ、とっととツラ貸しな!!」 


私はアルフレッドの巨大な嘴を力技でこじ開け、特製ハンバーグを喉の奥へ【正拳突きスタイル】で叩き込んだ。


「ごふっ、……ごくん。……!? ……グェ、グェェェー!!(う、うめぇ! 何だこれ、噛みごたえがたまらんっす!!)」


一度味を知れば、あとは早かった。アルフレッドは皿まで舐める勢いで完食し、私の足元に「もっとくれ」と頭を擦り付けてくる。


「……よしよ〜し。食べられるじゃない。明日からはこれに野菜も混ぜるからね」


「クルゥ〜(姐さん、一生ついていくっす!)」


一件落着。……かと思いきや、私の隣で、レオン様が今にも世界を呪いそうな顔で立ち尽くしていた。


「……ナオミ。お前、あいつには無理やり口に押し込んだのに……。なぜ俺には、指一本触れてくれないんだ」


「王様。彼は病人、あなたは健康体。……それとも何か? 王様も『正拳突き』で食事を喉に叩き込んでほしいんですか?」


「…………っ! ……それはそれで、新しい悦び(マーキング)になりそうだが……。いや、やはり普通に『あーん』がいい。……頼む、ナオミ。俺は、お前が作った飯(愛)がないと、心の餓死を免れんのだ……」


「はいはい。……じゃあ、残りのハンバーグ、毒見という名目で食べさせてあげますから。……立派な軍神様が、そんな情けない顔しないでください」

私がハンバーグを差し出すと、レオン様は黄金の瞳を輝かせ、王の威厳を大気圏外へ放り投げて食いついた。


「……美味い。……だが、足りん。ナオミ、今夜の『会議』は……メインディッシュを俺にして、じっくり味わってくれないか」


「………………ちょっと待て。王様、やっぱり一回、表出ましょうか!!」


ナオミ姐さん、本日六度目の大ピンチ。

この獣人王、聖獣の救済劇を「自分へのご褒美プレイ」に変換する天才的な才能を開花させてしまったらしい。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ