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第1話 王様の求愛は、野生(セクハラ)の香りがする

猛獣を叱る「漢気姐さん」の私が、冷酷な獣人王に「事情は交尾でもしながら聞こう」と真面目な顔でカフェに監禁されました

挿絵(By みてみん)

「……いい加減にしなさい。あんたのその誇り高い牙は、自分を傷つけるためにあるの?」


異世界動物園、第四飼育舎。

荒れ狂う巨大な黒豹――かつて軍の聖獣として戦い、人間に捨てられた『クロ』を前に、私は一歩も引かずに言い放った。


私はナオミ。

実家が没落し、婚約者に「金のない女に用はない」と捨てられた、元・公爵令嬢。

今は生きるために、この動物園のお客様センターで受付嬢をしている。


「ガアアア!」

「吠えても無駄。あんたがどれだけ孤独でも、私は受付嬢。お客様あんたを笑顔で帰すのが仕事なの。……だから、大人しくその怪我を拭かせなさい」


完璧な受付スマイル。だが、眼光だけは鋭く据わっている。

その凄まじい「圧」に、猛獣であるはずのクロが「……チッ、姐さんには敵わねえ」とばかりに首を垂れた。

周囲で震えていた飼育員たちが、裏で「さすが姐さん……」と拝んでいるのを知るのは、もう少し後のことだ。


「……面白い女だ。我が同胞(どう胞)を、言葉一つで黙らせるとは」


背後から響いた、冷徹で、けれど震えるほど美しい声。

振り返ると、そこにはストイックな軍服に身を包んだ、この世のものとは思えない美形が立っていた。


冷酷な獣人王、レオン。

銀色の髪をなびかせ、氷のような瞳で私を見下ろす彼は、国中の女性が憧れる絶世の美男子だ。


「……王様。当園はもう閉園時間ですが」

「貴様に興味がある。ついてこい」


有無を言わさぬ強引な手つきで腕を引かれ、連れて行かれたのは、園内の隅にある……なぜか貸し切り状態のカフェ。

彼は私を窓際の席へ押し込み、逃げ場を塞ぐように向かい側に座った。


これが噂に聞く「監禁」というやつだろうか。

冷酷な王の、鋭い視線が私を射抜く。


「お前のその『猛獣を導く技術』、詳しく聞かせてもらいたい。……我が国の荒くれ共を統率する、王妃としての才があるかどうかをな」


あまりに唐突なスカウト。

私は動揺を隠し、差し出されたコーヒーを一口飲んで、冷静さを取り戻そうとした。


「……光栄ですが、詳しくお話しするには時間がかかりますよ?」

「構わん。我々狼の流儀で、最も効率的な情報交換の方法がある」


レオン様は至って真面目な顔で、まるで国家予算について論じるような厳格なトーンで、こう言い放った。


「事情は、カフェで『交尾』でもしながら、ゆっくり聞かせてもらおうか」


「………………ぶふっっっ!!!」


私の口から、上質なキリマンジャロが噴水のように吹き出した。

レオン様は頬にコーヒーを浴びても表情一つ変えず、ハンカチで優雅に顔を拭いながら、さらに追い打ちをかける。


「なぜ吹く? 野生において、交尾は魂の全情報を共有する最も誠実な対話だが」

「…………王様、シマ出ましょうか」


私は震える手でカップを置き、受付嬢の仮面を脱ぎ捨てた。


没落令嬢ナオミ、十九歳。

どうやら、動物園の猛獣よりも質の悪い「王様オオカミ」を手懐けなければならなくなったらしい。


つづく

※予告

第二話 泥に咲く花は、拳で道を切り拓く

監禁――。

レオン様に腕を引かれ、カフェの奥に押し込められた時、私の心にあったのは恐怖じゃない。

(……この男、面倒くさい。仕事が溜まってるんだけどな)

という、猛烈な「現場主義」としての苛立ちだった。


けれど、彼に顎をクイと持ち上げられ、あの銀狼のような瞳に見つめられた瞬間。

私の脳裏に、封印していた「あの日の泥の味」が蘇る。


「愛? 勘違いするな。一文無しになった女など、我が家の犬以下の価値もない」


そう言って私を泥の中に突き飛ばした、元婚約者のクソ野郎。

泣いて縋るとでも思った? 冗談じゃない。


私は立ち上がり、ドレスを汚したまま――

迷いなく、その整った鼻面に「正拳突き」を叩き込んでやった。


「『ママ〜』じゃねえぞ、コラ! その汚え鼻血、二度と私の視界に入れんな!」


あの時、私は「令嬢」を捨てて「姐さん」になった。

愛なんて信じない。男なんて、猛獣以下の獣だと思っていた。


それなのに、目の前の獣人王は、私の「正拳突き」を誘うような不敵な笑みで囁く。

「そのたけり狂う魂……やはり、俺の『番』にふさわしい」


次回、『異世界動物園の受付嬢』第2話。

【回想】殴り飛ばした過去と、王様の「野生すぎる」口説き文句。


第二話(03/16)以降は毎日19:00更新予定です。


※他作品の紹介です。


タイトル

後宮の奇術師女官 〜没落した幻術師の娘ですが、その呪いの「嘘」、「美しい嘘」に塗り替えてみせます〜


ジャンル

後宮ミステリー


キャッチコピー

悪人を欺き、善人を「最高の嘘」で救い出す。宮廷奇術ミステリー!


あらすじ


「神の奇跡などございません。あるのは――錯覚と物理法則、それから私の技術マジックだけ。……そして、残酷な真実より、人を幸せにする『最高の嘘』です」


没落した宮廷幻術師の娘、蘭瑛ランエイ

借金返済と家門再興、そして十三年前「父がなぜ自ら命を断ったのか」という謎を胸に、彼女が身分を隠して潜り込んだのは、煌びやかで陰惨な後宮だった。

当時の後宮は、怪しげな「怪奇現象」を操る道士たちが妃の心を掌握し、政治を動かす伏魔殿。

ある日、寵妃が密室から忽然と姿を消す事件が発生する。人々が「龍神の怒り」と震え上がる中、下働きの女官として現場にいた蘭瑛だけは、冷めた目でそのタネを見抜いていた。


「光源の計算が甘いわ。鏡の継ぎ目が見えているもの。三流の演出ね」

彼女にとって、後宮を騒がす怪奇現象はすべて「出来の悪い手品」に過ぎない。

その類まれなる観察眼と指先の技術を、冷徹な親王・載淵サイエンに見初められた蘭瑛は、後宮に蔓延る「悪意ある嘘」を、本物の「美しいマジック」で塗り替えていくことになる。

真実は突きつけず、最高の嘘に変えて救い出す。

知的好奇心溢れる親王を「最高の観客スポンサー」に従え、マジック脳な没落令嬢が後宮の闇を鮮やかに上書きする!

痛快・宮廷奇術ミステリー、開幕!


主な登場人物紹介

1. 蘭瑛ランエイ十八歳

【本作の主人公:恋愛軽視のマジックオタク娘】

性格: マジシャンとしての矜持が服を着て歩いているようなプロ根性の塊。猫を被っていても、面白い仕掛けを見るとつい「目立ちたがり屋」の本性が顔を出す。


美学: 「真実を暴いて断罪する」探偵的な部分は成り行きで、本人的には興味がない。「善人を最高の嘘で救い出す」ことを信条としており、そのための嘘には一切の罪悪感を持たない。


弱点: 載淵からの熱い視線も、彼女にとって「マジックの邪魔になるノイズ」か「スチール(盗み)の隙」にしか見えない。


2. 載淵サイエン

【ヒロインのバディ:知的好奇心旺盛な溺愛親王】

性格: 冷徹なリアリスト。世界はすべて数式と論理で解けると考えていたが、蘭瑛の「美しい嘘」に触れ、人生で初めて「解けない謎(彼女)」に魅了される。


役割: 蘭瑛のパトロン兼「最高の観客」。彼女を独占し、その指先を誰にも触れさせたくないと考えているが、当の本人には「理解ある便利な協力者」だと思われている、少々不憫なハイスペック貴公子。


3. 小翠ショウスイ

【ヒロインの親友:苦労性の常識人女官】

性格: 真面目で世話焼き。蘭瑛の「生活能力のなさ」を補い、彼女がマジックに熱中して不敬罪で首を飛ばされないよう常にハラハラしている。


役割: 読者と同じ目線でマジックに驚き、蘭瑛と載淵の絶望的に噛み合わない恋模様にツッコミを入れる癒やしキャラ。


4. 李総管リそうかん

【後宮の番人:父の最期を知る老宦官】

性格: 慎重で保守的。蘭瑛の父が自決した「あの事件」の数少ない目撃者。


役割: 蘭瑛を厳しく監視しているが、実は彼女を父と同じ悲劇に合わせたくないという情愛を秘めている。物語の鍵を握る重要人物。


5. 麗妃レイヒ

【華やかなる依頼人:孤独な美しき寵妃】

性格: プライドが高く、退屈を何より嫌う。蘭瑛が「本物の魔法使い」ではないと知りつつも、彼女の嘘がもたらす「救い」を気に入り、お抱えの奇術師として可愛がる。


※(架空の王朝)

史実では清朝にあたりますが、この作品では

漢民族の装いをした架空の王朝としています。



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