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砂漠の小王国、完成

 2月はあわただしく過ぎ、気が付いたら3月になっていた。

 サトシにとって、この1ヶ月はまるで嵐のようにさえ思えた。



「電熱線の配線、このルートで大丈夫でしょうか?」

 サトシが図面を指差すと、作業着姿の業者は顎に手を当てて考え込んだ。

 ほかの動物の飼育も担当しているサナエに代わり、サトシが業者とのやり取りを行っていた。


「悪くないですね。ただ、この岩の裏側、もう少し電熱線を密にしたほうがいいかも」

「密に、ですか?」

「ええ。表面温度が均一になるんです。動物園の爬虫類展示で同じことやりましたけど、好評でしたよ」

「なるほど。ただ、熱が出すぎて、擬岩(ぎがん)が痛んだりしませんか?」

「この擬岩はコンクリート製ですので、それはまずないですね。どうしても気になるなら、下に断熱材を敷きましょうか?」

 なるほど、とサトシは図面に書き込んだ。


「断熱材について、お願いします。それと保温電球は、この位置で熱が届きますか?」

「高さが少し気になりますね。もう20センチ下げたほうが効率的です」

「でも、グンディが触れたら危ないんじゃ…」

「保護カバーつけますから大丈夫ですよ」

 サトシは頷いた。


「じゃあ、その方向でお願いします。あと、温度センサーはここに――」

「おっ、丑前さん、詳しいですね。それなら問題ないです」

 業者のおじさんが図面に赤ペンでチェックを入れていく。


「グンディって生き物、初めて聞きましたけど…大事にされてるんですね」

「ええ。快適に過ごしてほしいんです」

「わかりました。最高の環境、作りますよ。ところで、この岩はどこに置きますか?」

「あっ、その岩は箱音(はこね)さん特製なので、手前においてください」


 こんなやり取りを続けて、3月に入るころにはいよいよ展示スペースも完成した。


***


「へえ、これがグンディ用の展示スペースってわけか」

 園長がガラスをのぞき込み、感心したように言った。

 3畳半ほどの大きさの展示ケースの中は、砂漠の一画をそのまま持ってきたような光景が広がっていた。


 地面には、砂漠の砂とよく似た砂が厚めに敷かれており、グンディたちが好きなだけ砂浴びできるようになっている。

 そこには、保温電球で照らされた擬岩が4つ置かれており、グンディが温まれるようになっていた。


「これが、例の温かい岩か?」

 園長が展示ケースの中に入り、擬岩に左手で軽く触れた。

「はい、スイッチをつけることで、上からも下からもポカポカになる仕組みです」

「悪くないじゃねえか。岩の形や大きさも全部違うんだな」

「全部同じだと見栄えも良くないですし、何より今回は上下の移動ができるように工夫してます」

 グンディは、砂漠の岩場に住む生き物である。水平方向の移動と同じくらい、昇り降りの移動も好むため、擬岩も高めになるように作って配置している。

 流木や丸太を使ったトンネルなどもあり、見に来た客はグンディの躍動する姿を楽しめるはずだ。


林王(りんのう)さん、そして今回こだわったのは、擬岩や丸太だけじゃないですよ。一回外に出てもらえますか?」

 サナエが促し、サトシたちは一度展示スペースの外に出た。


「正面ガラスの下部分をご覧ください」

「ん?下部分?なにがある……おぉ!?」

 園長が屈み、ガラスを見たとき、驚いたような声を出した。

 正面の展示ガラスにくっつくように巣箱が置かれているが、その壁がガラスに面している部分だけない。このため、巣箱の中が外から丸わかりになっていた。


 これは、サナエの提案であった。

『子供たちの目線で、グンディの生態がわかる展示になったら素敵だと思わない!?』

 そう言ったサナエが夜な夜な巣箱を作っていたのを、サトシは何度か見ていた。

 そのため、思い入れのあるものなのだろうか、サナエの説明にも熱が入る。


「このようにして、グンディが巣箱の中でどのように過ごしているのか、その生態がわかるように工夫しています。来園する子供たちも喜ぶと思います」

「いいじゃねえか!よく、考えたな!」

 園長は、愉快そうに笑う。あまりに上機嫌なのか、ギブスの取れない右手までぶんぶんと振っていた。


「この後のスケジュールはどうするんだ、サナ?」

「はい、今日の夜に、グンディをバックヤードから展示スペースへ連れていき、公開できるようにします。慣れない環境への移動ですので、しばらくは重点的に様子をみて、グンディたちの行動に異常がないか確かめようと思います」

 今日は日曜日で、手伏区生物園は月曜日が休みである。つまり、実際に来園客がグンディを見ることができるのは、明後日からとなる。

 休園日となる月曜日に、一度展示スペースに慣らしてみて、問題がないのか確認すると言うことである。


「よし、わかった。それじゃあ、俺も一仕事するかぁ!」

「ひとしごと……何するんですか園長?」

「ああ、グンディを見に来た客のために、グッズを用意しようと思ってよ!」

 ああ、とサトシは納得した。動物にちなんだグッズは売店にいくらでもあるが、グンディ関連のグッズはないはずだ。


「で、どんなグッズを考えているんですか?」

「おう、よく聞いてくれた!今回は、まずはすぐに用意できる食べ物にしようと思っている!」

「おお!いいですね!」

「……どんな物にするんですか、林王さん?」

 唐突に、後ろから冷たい声が響いた。振り返ると、声と負けず劣らず冷めた目線を送る卯月(うづき)がいつの間にか立っていた。


「うっ……おタエさん……」

「園長。グッズ販売の件、私は何も聞いていないんですけど?」

「あー。心配するなって、ダチの店で格安で作ってもらうことになったからよ……」

「では、どのようなものを作るのか、オフィスでじっくりと聞かせていただけないでしょうか?」

「えっと……アッ、いけねえ。ダチとこれから打ち合わせなんだ。サナ、後のことは予定通り、やっておいてくれよ!」

 卯月から激詰めされることを悟ったのか、園長はケガをしているとはとても思えない俊敏さで出口のほうへと駆けていった。


「はあ……あの人ったら、またしょうもないもの作って赤字垂れ流すのかしらね……箱音さん、丑前さん」

 卯月に呼ばれたサトシとサナエは、背をぴんと伸ばして彼女のほうを向いた。

「ここまで、お疲れさま。だけど、これからが大変よ。頑張りなさい」

 そういうと、卯月も展示スペースのある部屋から出ていった。


「……大丈夫、ですよね?」

「たぶん、卯月さんがいるから平気だよ、多分」

 サトシの不安そうな声にこたえるように、サナエは軽く言った。


「そうだ、SNSのほうはどうかな?うまくいっている?」

「はい、一日一回は投稿していますし、今のところ、順調にフォロワも増えています」

「よかった!でも、丑前くんって、ああいった宣伝の才能があったんだね、知らなかったよ!」


(あのツイート、王様グンディの言っていることそのまま言っているだけなんだよね……)

 おそらく、サトシがなりきりツイートしていると思っているサナエが感心したように言うので、サトシは気まずそうに目をそらした。


「それじゃあ、明日から公開することも投稿しておいてね。ロイヤル・グンディさん!」

 そういうと、サナエも別の動物の世話のため外の飼育スペースへと向かって行った。


 一人残されたサトシは、スマートフォンを取り出すと、砂漠スペースの写真を何枚か撮った。

 そして、このスペースでグンディたちが走ったりのんびりする姿を想像する。

「……悪くないな」

 そう独り言を言ったサトシは、バックヤードへと行った。


***


『ふむ、悪くない』

 スマートフォンで撮った写真を見た王様グンディが、満足げにチチチと鳴いた。

 王様の意見を取り入れ、登りがいのある岩や来園客の目線を避けることのできる丸太を設置したことが功を奏し、王様たちも上機嫌であった。


『ふんっ……だらしない下僕にしてはよくやったじゃない!』

 王様グンディの横から、一匹のメスグンディが飛び出してきた。

 彼女──アンドレは、メスグンディの中でも一番大きく、輝くような明るい毛色をしているのが特徴的である。


『見ただけでも、アタシにピッタリな空間ってわかるわ。早く入りたいわね!』

 ケージ隅の餌置き場にいるグンディ──ミルフィは、チモシーをほおばりながら愉快そうに言った。

 彼女は、グンディたちの中でも一番の健啖家で、大体何かをほおばっているため見分けがつきやすい。


『こんな大きな岩場、メウェたちと王様だけで使ってもよいのですか?』

 一番小柄なメスグンディであるメウェが遠慮がちに鳴く。

 グンディたちの中でも唯一サトシに命令することがないため、彼の心の癒しとなっているのだった。


 最近になって、サトシには王様だけでなく、ほかのグンディの声もわかるようになっていた。

 このことを王様に話したところ、『順調に呪いが進行している』という有難くもない解説を受けた。


『これで貴様は、妃たちの世話もできるようになったわけだ。今まで以上に励むがよい』

 王様から受けた訓示を思い出しながら、サトシは改めて聞いた。


「この呪いって、本当に治るんですか?」

『無論よ。杖が元に戻りさえすれば、すぐにでも解呪してやろう』

 サトシは内心ため息をつく。

 顔を鏡で見るたびに、グンディのようなきな粉色の毛が増えているのがわかる。

 いつ、自分の顔が完全にグンディとなってしまうか、一人でいると不安で不安で仕方なくなってしまうのだ。


「本当にこの生物園にあるんですか?」

『無論よ。まだ、杖と宝玉との距離に変化はない』

「せめて、どこら辺とかわかりませんか?」

『それほど都合よいものではないと、言っているではないか。せめて、このケージから解放せよ。さすれば、余を連れて探すことを許そう』

 貴重なグンディを勝手に連れ出し、あちこちへ持っていく。それこそ、不可能である。


「無理ですって。わかるでしょう」

『なら、せいぜい当てもなく探すことよ』

 そういうと、王様グンディは、ミルフィのいる餌置き場へと行ってしまった。


「あー。じゃあ今日も、何かつぶやいてくださいよ。結構人気あるんですよ」

 SNSに乗せた、王様グンディの言葉は思ったより人気となっており、ほかの生き物の時よりも、ビュー数もいいねの数も一桁違うのだ。


『断る。そのような気分ではない』

「でも、みんな王様の声を聴きたがっていますよ」

『断る、といったではないか。貴様が代わりにやるがよい』

 こうなってしまうと、王様グンディはテコでも動かない。ここ一ヶ月付き合ってきて理解したことである。

 仕方がないので、サトシは代わりの文章を打つ。


 最初こそ、いまいちマネすることができず往生したものであるが、今ではすらすらと打てるようになっていた。

「こんな内容でどうですか?」


 サトシが見せた下書きを、王様グンディが見ると、そっけなくチチチと鳴いた。

『好きにするがよい』


 そういわれたサトシは、SNSへ投稿する。まもなく、タイムラインが更新され、正常に投稿されたことがわかった。

『ロイヤル・グンディである。

いよいよ、余の高貴なる姿を、貴様らへと披露する日が決まった。

来週の火曜日、余の下僕となりたいものはこぞって馳せ参ずるがよい。

参上したものには、下賜品を買うことも許す。

さあ、楽しみにしているがよい

#グンディ #展示開始日決定 #余に仕えよ』


 早速、閲覧数が増えたことを確認したサトシは、王様のほうを向き直った。

「では、また夜に来ますね」


 王様グンディは、軽くチュルリと鳴くと、ミルフィとともにチモシーを食べ始めた。

 その姿に少し癒され、サトシはバックヤードを後にした。


***


 生物園の閉館時間は、日曜日は17時である。

 最後の来園者が出ていったことを確認した、スタッフたちは動物たちの様子を見回り、あわただしくなる。


 一方で、サトシは卯月のレジ締め作業を手伝っていた。

 レシートを読み上げ、現金を数え、帳簿ソフトに転記する――古いシステムゆえの手作業だ。


「今、レジの中に12万8730円あります」

「了解。問題ないわ、ありがとう」


 台帳と照らし合わせ終えた卯月が、ねぎらいの言葉をかける。

 サトシは、ふと気になったことを聞いた。


「どういたしまして、卯月さん。ところで園長が言っていた、とっておきのグッズって結局何だったんですか?」

「あら、気になるのかしら?」

 ややひんやりとした声にびくつきながらも、サトシはうなずいた。

 その様子に、軽くため息をついた卯月が、サトシのほうを向いて言った。


「実を言うと、私もわからないの。あの人、今日はどこかへ逃げ出したみたいね」

 そういうと再びため息をついた。


 卯月タエコと、園長の仲がどのようなものであるか、サトシは知らないし今まで知ろうとも思わなかった。

 だが、こうしてみると好奇心が妙に疼いてくるのだった。


「あの、ところで、卯月さんって、いつからここで働いているんですか?」

 唐突な質問に少し目を見開いた卯月は、すぐに元の表情に戻ると答えた。

「ずっとよ。この生物園に、ホタルしかいなかったころからね」

 手伏区生物園が、この地域で少なくなっていたホタルの飼育をする施設であったことは、バイトを始めたときの研修で習っていた。

 しかし、それは40年以上前の話であり、そのころから働いている人が園長以外にいること自体初耳であった。


「す、すごいですね……たしか、園長もここが始まってからずっと働いているって聞きましたけど」

「そう。あの人は、もともとホタルの飼育員だったのよ」

「それじゃあ、ずっと一緒だったってことですね」

「そんなんじゃないわよ。腐れ縁よ、あんな人」

 そう軽く言い切った卯月に何があったのか、サトシは知らない。

 ただ、その横顔には、長い時間を共に過ごした者だけが持つ、複雑な感情が浮かんでいるように見えた。


「はい、今日はこれでおしまいね。お金は私が金庫にしまってくるから、丑前さんは箱音さんの手伝いに行ってきなさい」

 お金を封筒にしまいながら卯月が言った。サトシは一礼すると、バックヤードへと足を向けた。


***


「じゃあ、ケージを台車に乗せるよ!せーので、ゆっくりと上げてね」

 サナエの掛け声とともに、二人はグンディの入ったケージを持ち上げた。


『下僕、丁重に扱うのだぞ』


 王様グンディの心配そうな声が響く。


「丑前くん、もっとゆっくりでいいよ」

『揺れたぞ貴様!このうすのろが!』

「す、すいません」


 どっちに謝っているのかよくわからない声が漏れる。


「大丈夫だよ!じゃあ、このままゆっくりと台車に乗せてね」


 そして乗ったエレベーターで下へ降り、慎重に台車を押していたその時――


『……杖が、動いた』

「!?何がですか!」

「丑前くん?どうしたの?」

 不意打ち気味にかけられた言葉に、サトシは思わず声を出した。

「な、何でもないです。ごめんなさい!」


『この程度でうろたえるでない。今、杖がわずかに反応した。

宝玉はまだ近くにある……だが、どこかまではわからぬ』

『それって、この建物の中ってことですか?』

『おそらくな。だが今は急ぐな。余たちを運ぶことを優先せよ』


 断片的な情報ではあるが、少なくとも宝玉はまだこの生物園のどこかにある。

 おそらく、ダウジングマシンのようなものなのだろう。なんとなくイメージがつかめてきたサトシへ、王様グンディが続けた。


『礼ならば、行動で示せ』

 次回のおやつタイムは、ちょっとトウモロコシを増やしてあげよう、そう思っていると、サトシたちはグンディの展示ケースまでたどり着いた。


「それじゃあ、ここからは手で運ぼう」

 サナエが、展示ケースの扉を開けて、言った。

 再び、サナエの合図とともにケージが持ち上がる。今度こそ丁寧に持ち上げたからか、王様グンディからのクレームはなかった。


「今、開けるの手伝います!」

 近くで見守りに来ていた職員の一人が、扉を開けてくれたので、サトシたちは、そのまま展示ケースへ入っていった。


 展示ケースは、二重扉となっている。2つ目の扉も職員が開けてくれたので、2人は特に問題なく展示ケースに入ることができた。


「ありがとうございます、立実(たつみ)さん。もう、扉閉めてくださって大丈夫です」

 サナエの言葉で、立実と呼ばれた男性職員が、扉を閉めて外に出る。


 サトシたちは、ケージを展示ケースの少し奥まった場所へ運び、そこに下した。

 その際、グンディたちがチーチー鳴いたが、その声にかき消えそうな小さな声でサナエが言った。

「丑前くんは、展示ケースから出てくれる?ケージを開けるのは、一人でやったほうが良いから」

 サトシは黙って、展示ケースから出ると、改めてドアを閉めた。


「それじゃあ、ケージを開けるよ」

 サナエは、ケージのカギを外して、出口を開放する。そして、素早くしかし静かに展示ケースの出口へと向かった。

 グンディたちは、チュルチュルと言いながら新天地を見つめていた。


『ここが、余たちの王国であるか……』

 王様グンディが震えた声で言った。その横ではしゃいでいる3匹のメスグンディたちにすら気付いていないようであった。


『わるくないじゃない!あったかくて気持ちいいわよ』

 アンドレが嬉しそうに鳴いた。

『アタシの岩場!その岩はアタシのものにするわ!』

 ミルフィは興奮した様子で、擬岩に飛び乗る。

『感無量です。下僕さんありがとう』

 メウェが小さな可愛らしい声で鳴いた。


 妃たちは3者3様で想いを発している。

 グンディたちのために作った空間を喜んでもらえたことに、サトシは胸にこみあげてくるものがあった。


「ところで、あのケージはどうするんですか?」

 ふと、展示ケースの中に置きっぱなしとなっているケージが気になったサトシは、サナエへ聞いた。

「あれは、1日くらい置いておくの。いきなり環境が変わると、グンディたちも驚いちゃうでしょ」

 グンディに限らず、動物というものはいきなりの環境の変化ではストレスがたまる。

 それを防ぐため、今までの環境もしばらく残して、いざというときの避難所のようにするのだ。


「思ったより、元気に動いていますね。結構最初は怖がっちゃうものなのですが」

 ガラス越しにのぞき込む立実が、つぶやく。

 サトシには、新天地を喜ぶ声が聞こえるが、ほかの人にはそれがわからない。

 そのため、何か言おうかどうか悩んでいた時、サナエが答えた。


「そうですね。思ったより早く慣れてくれそうですね」

「きっと、箱音さんたちが、良い環境を作ったからですよ」

「ありがとうございます。ふふっ、そうだとよいですね」


 職員たちが、思い思いに初展示されたグンディを眺めている中で、サトシの頭に声が響いた。


『下僕にしては上出来である。誇るがよい』

『それはどうも。ありがとうございます』

『あとは、宝玉を……』


 そこで、王様グンディの声が途切れた。

 サトシが振り返ると、王様グンディは新しい展示ケースの中央で、じっと動かずにいた。


『……おかしい』

『どうしたんですか?』

『ここへ来た途端、杖の反応が……消えた』

『消えた!?』

『近づくにつれ、反応は強くなっていた。しかし、この部屋に入った瞬間から、何も感じられぬ』


 王様グンディはぎこちなくあちらこちらを動きながらも、不思議そうに首をかしげる。


『宝玉がどっか行ったということですか?』

『……そういうことかもしれぬ。あるいは』


 王様グンディは言いかけて、口を閉じた。


『あるいは?』

『今は、何も言うな。余には、考える時間が必要だ』


 それきり王様グンディは黙り込み、ミルフィたちの方へと歩いていく。

 周りでほかの飼育員が盛り上がる側で、サトシは何も言えないまま立ち尽くすのであった。

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