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盗まれた杖と王様の憂鬱

『ソレ』は、傷ついた右手を抑えながら、夜の街を駆けていた。


──油断した!


 奇襲は完璧であったはずだった。

 油断することなく、昼行性(ちゅうこうせい)のグンディの動きが鈍り、『ソレ』の力が一番高まる(うし)の時を選んで襲撃したのだ。


 だが、杖を持つ動物があれほど手ごわいなどとは思ってもみなかった。

 杖を手にするどころか、反撃によって、大きく力を損なうことになってしまった。


 特に、攻撃をもろに受けた右手は深く抉れ、『ソレ』とのつながりの深い宿主にまで傷ついてしまうことになった。

 これ以上の戦いは宿主にまで取り返しがつかなくなることを悟り、喚き散らすグンディを前に『ソレ』は逃亡する羽目になったのだ。

 ほうほうの体で生物園を抜け出し、逃走している事実が、『ソレ』に大きな屈辱を与えていた。


──だが、成果もあった……

 ようやく、宿主の家にたどり着いた『ソレ』は、傷を癒やすため眠りにつく直前に、笑った。

 右手を犠牲にしてまで手にした翡翠色の宝玉は、すでに安全なところへ隠した。

 これで、あの忌々しいネズミも、力を使えないはずだ。


──力が戻るまでは休むとするか

 この傷を治すには、一年は表に出ることができまい。

 それまでは、せいぜい杖を損なったことを嘆いているとよい。

 宿主の内側で、ほくそ笑みながら、『ソレ』は意識を手放した。


***


──丑前(うしまえ)サトシは、いつもより遅い時間に起きた。

 スマートフォンのアラームで目覚めたサトシは、軽く背伸びをして起きると、カーテンを開ける。


 窓越しに見えていた東都電波塔(とうとでんぱとう)の先端は、去年建った高層ビルに邪魔されて今では見ることができない。

 こんな都会でも、再開発で変わってしまった光景に、若干のノスタルジーを感じてしまう。

 随分と、感傷的な気分になってしまった自分に軽い自己嫌悪を感じながら、サトシは洗面所へと向かった。


「やっぱり、生えているよな……」

 グンディのひげが生えていることを、鏡越しに確認したサトシは、ため息交じりにつぶやいた。


 昨日は帰ってくるなり、ベッドに横たわった。

 帰宅した両親が夕食に呼ぶのを尻目に夕方六時前には眠ってしまった。


「飯食うか……」

 腹の虫が鳴るのを聞いたサトシが、リビングへと降りる。そこには公共放送を見ている母親がいた。


「おはよう」

 サトシが声をかけると、母は少し驚いたように振り返った。

「あら、サトちゃん。もう起きたの?大丈夫なの?」

「ん?大丈夫だけど?どうして?」

「どうしてじゃないでしょ!昨日はまだ日も高いうちから部屋にこもって、ご飯も食べなかったんだから」

 彼女は心配そうに言う。サトシはすまなそうに答えた。


「ごめん、母さん。ちょっといろいろあってね」

「いろいろって何があったの?バイト先で何かひどいことでもあったの?」

「そういうわけじゃないけど……」

──昨日生物園に来たしゃべるネズミに呪いをかけられ、1年以内にあなたの息子はネズミに変身します

 そんなこと説明したところで、期末考査のストレスで頭がおかしくなったと思われるのが関の山である。少なくとも自分が聞かされる立場なら、微塵も理解できるまい。


「まあ、あんまり詳しく聞かないで」

「そ、そう……サトちゃん、言い辛いこともあるかもしれないけど、本当に辛かったらバイトも辞めてよいのよ」

「いや、本当にそういうのじゃないから。そういえば、ごはんまだある?」

 サトシがそういって食卓の椅子に座ると、母親が立ち上がり朝食を出してくれた。


 作られてから時間が経っているのか、ややおかずが冷めてはいるが、それでも腹の減っていたサトシはあっという間に半分程食べてしまった。

「そういえば、母さん、今日バイトは?」

 サトシは冷蔵庫からお茶を取り出すと言った。サトシの母は、メルヴィル・コーヒーというチェーン店で働いている。

「今日は休みよ。サトちゃんは?」

「午後からシフト」

「そう。でも、大学のほうはいいの?もうすぐ期末考査って、サトちゃん言っていたじゃない?」

「やることはやっているよ。気にしないでほしいな」

「そう……がんばってね」

 そういうと、母親は再びテレビのほうへ向いてしまった。

 サトシはさっさと食事を食べ終わると、食器を流しへ持っていく。食器を軽く洗うと、足元の食洗器に突っ込むと洗剤を入れてスイッチを押した。


「ありがとうね、サトちゃん」

「どういたしまして。上の洗面所、しばらく使うよー」

 そう言って、サトシはアルバイトのために支度をするため、再び上の階へ向かった。


***


 サトシが生物園に着き、休憩室に入ると、そこには職員と話している園長がいた。

「おはようございます……って、園長どうしたんですかその腕!?」


 園長の右腕は、ギブスで固定され、アームスリングで吊るされていた。

 昨日までとはうって変わった、痛々しい姿にあんぐりと口を開けた顔を向けたサトシに、園長は笑いながら答えた。


「おおう、ウシ!心配してくれるなんて嬉しいじゃねえか」

「いや、そりゃあ心配しますよ。何かしたんですか?」

 それまで話していた職員が挨拶して休憩室から出ていき、園長と二人きりとなったサトシが言った。


「まあなんだ。今朝、家で足滑らせちまってよ。手をついた途端、これだよ」

「ああ。それは痛いですね。というよりも、もう仕事場に来て大丈夫なんですか?」

「心配ねえよ。医者から痛み止めはたんまりもらってる。まっ、この年になればよくあることだ、仕方ねえ。しばらくはみんなの世話になるぜ」


 そういって笑った園長が、ふと、思い出したように言った。

「そういや、サナが慌てていたぞ。なんでも、グンディの様子がおかしいってな」

えっ、と驚いたサトシに、園長が軽く微笑んで言った。

「ちょっと心配だから、バックヤードまで見に行ってくれねえか?」


 サトシが、バックヤードに来ると、そこには額の汗をぬぐうサナエがいた。


箱音(はこね)さん、何かあったんですか?」

「ああ、丑前くん、お疲れー」

 サナエが、少し疲れた様子で答えた。


「ちょっとね、今朝見たらオスのグンディが騒いでいてね。見たらケガしているっぽいの」

「ええっ!?何があったんですか!?」

「それがわからないの。いったん、ケガしている子は別のケージに入れて様子を見ているけど、どうなるかなぁ?」

 眉毛がつながるんじゃないかと思うほど顰めたサナエが、我に返ったようにサトシのほうを向くと、微笑んで言った。


「ああ、ごめんね。心配かけちゃって」

「いや、大丈夫です。確かにこれは心配ですね」

「そうだよね。わかってくれてうれしいな」

「あの、僕が手伝えることはありますか?」

「それじゃあ、ちょっと、下の倉庫から飼料を取ってくるから、丑前くんは後片付けしてくれないかな?」

 見ると、確かに牧草のチモシーやら敷き砂やらが部屋中に散乱していた。


「わかりました」

 それを聞いたサナエは、ありがとう、と言ってエレベータへと向かっていった。


『遅いぞ、下僕』

 サナエがいなくなった途端、サトシの脳内に王様グンディの声が響いた。

「いったい、何があったんですか?」

 サトシが、床に散るごみを片付けながら尋ねる。


 王様グンディの姿は、一見すると変わりがないように見える。

 しかし、よく見るとところどころ毛が逆立っており、頭頂部など毛が抜けてしまっているところもある。

 一匹別のケージに入れられている王様グンディは、心なしか少しだけ弱弱しく鳴いた。


『フンッ!昨日、敵襲があったから退けたまでよ』

「敵襲!?そんなに物騒なことが起きたんですか!?」

 思いもよらない言葉に、サトシの声も思わずうわずる。その拍子に、持っていたチリトリを落として、ごみをぶちまけてしまった。


『貴様、もっと丁寧に掃除せよ』

「す、すいません」

『まったく、余にも少し飛んできたぞ。次はないと思え』


 少しだけ丁寧に、サトシは掃除を行う。

 しばらくして掃除を終え、王様グンディのほうを向くと、いつの間にか彼は隣のケージのグンディたちとチュルチュルと鳴きあっていた。

『アンドレ、ミルフィ、メウェ!どうしてそのようなことを言うのだ……』

 サトシの頭の中に、必死になって何かを説得しようとしている王様グンディの声が響く。


『確かに、今の余の力は大幅に失われている。だが、そなたたちを想う気持ちに変わりはない!』

 だが、三匹のグンディはチィチィと鳴くと、そのまま巣箱の中に入ってしまった。


「何があったんですか?」

『なんでもないわ!下僕が知るようなことではない。それと貴様の声は耳障りだ。心の声で話せ』

「心の声って、何なんですか?僕にそんなことできませんよ」

『できないと思うからできないのだ。余に奏上しようと思いながら、心で声を発するのだ』

 そんなこと言われても、ピンとこないが、これ以上話しても埒が明かないと思ったサトシは、思い切ってやってみた。

『これで聞こえますか?』

『聞こえておる。問題ない』


 やってみればできるもんなんだ。サトシは、内心ほっとしながら、改めて言った。

「で、何があったんですか?」

『声が出ているぞ!それに、貴様が知ることではないと言っているではないか?』

「ああ、ごめんなさい。でも、なんか手伝いできるかもしれないじゃないですか」

 また声が出てしまったことに気づきつつも、サトシは思わず言ってしまった。そして、言ってしまってから後悔した。

 グンディに痴話喧嘩があるかどうかは知らないが、そんなのにかかわりたくはない。それでも社交辞令的に聞いてしまった己を恨みつつ、怒りの言葉の一つ発してくれればいいなと内心思っていたサトシへ、王様グンディは静かに言った。


『では、貴様に一つ命令する』

「へっ!?命令っ!?」

『下僕よ、余を襲った敵から、杖の宝玉を取り返してまいれ』

「何言っているんですか!?」

『仕方ない。よく見よ』

 そういって立ち上がった王様グンディが、どこからともなく杖を出す。


「杖がどうした……あれ!?ビーズみたいなものがない!」

 昨日見たときに杖の先端についていた緑の宝玉が、ついていなかった。


『見ての通りよ。余は敵を退けた。しかし、代償は大きかった』

「そのビーズがついていないと、どうなるのですか?」

『ビーズと言うでない。宝玉は、杖の最も大事な部分。それが敵の手に落ちてしまった以上、余の神通力は十分に発揮できない』

「えっと、よくわからないのですが……」

『例えば、貴様の呪いを解いてやることはできない』

「ええっ!?昨日は呪いを解いてくれるんじゃないですか!?」


 ずっとこのままになってしまうことにびっくりしたサトシに、王様グンディがチチチと鳴く。

『そんなことは問題ではないわ。もっと大きい問題がある』

「僕の呪いよりも大きい問題なんてあるんですか?」

『無論よ。あの杖は、神通力をもたらすだけでなく、この世界を守るために不可欠なものよ』

 突然語られた話のスケールの大きさに、サトシは、はあっ、と声が出た。それを咎めるでもなく、王様グンディは続けた。


『あの杖は、神より賜った御物よ。そして、受け取ったものは、冬至の日に世界のために力を使わなければならぬ』

「力を使うって、何をするんですか?」

『杖の力は壮大にして深遠。その力で一度、世界に奉仕しなくては、破滅の危機に陥ってしまう』

「破滅の危機ってまた、大げさな……」

『大げさではない!杖の加護を失った世界では、言うことさえおぞましい災厄が起こると伝えられておる』

 そういって、王様グンディは身震いをした。


『百年ほど昔のこと、余の祖先が杖の力を使うのを、誤って一日遅らせてしまった。そうしたところ、世界に大きな病がもたらされ、世界中の生き物が苦しんだそうだ』

「それって、偶然とかじゃないでしょうか?」

『偶然などではない!それまでになかった病は瞬く間にこの世を覆い、数年は疫病が続いたそうよ』

 またまた、と思ったサトシが、たわむれにスマートフォンを開き、ブラウザで検索をする。

 そこには、確かに、百年ほど前に世界中で西国(さいごく)風邪という病気のパンデミックが起こったことが記録されていた。


──それは、西の国から発生したインフルエンザの一種である。

 それは、瞬く間に世界を覆いつくし、多くの人を苦しめた。

 老若男女問わず、その猛威から逃げることはできず、結果として当時の世界人口の三分の一が感染し、一億人以上の死者がでた、大惨事として語り継がれていのである。


 唖然としつつも、それでもまだ信じられないサトシに、王様グンディは言った。

『凡夫たる貴様に、理解しろとは言わぬ。しかし、この杖が冬至までにもとに戻らないのであれば、貴様のネズミ面など些細と思えるような災いがもたらされるぞ。あるいはもっといろいろと話したほうがよいか?』

「結構です!わ、わかりましたよ。でも、どうやって探せばよいんですかね?」

 ビーズのように小さい石を当てもなく探していたら、冬至までどころか百年経っても見つからないだろう。念のために聞いてみるサトシに、王様グンディはチチチと少し明るく鳴いた。


『伝え聞くところによると、この杖と宝玉は一心同体のものである。すなわち、互いに引き合うとのことよ』

「引き合う?」

『そのとおり。そして、引き合う強さで互いの距離を推し量ることができると聞いておる』

「な、なるほど……」

 スマートフォンとGPSタグのようなものを想像しつつ、サトシは答えた。


「その、そうしたら、いまその宝玉はどこら辺にあるんですか?」

『ふむ。この震え方からすると、おそらくそれほど遠くではあるまい。この建物の中にあると思われる』

「この建物の中ですか!?随分と近いですね」

『その通り。ゆえに下僕よ、はよう探すのだ』

「でも待ってください。ということは、盗んだ犯人は、まだこの建物にいるということですか?」

 そういいながら、サトシはゾッとする。グンディたちを襲った、犯人が誰であれ、運動音痴なサトシではなすすべもなく打ち負かされてしまうだろう。


『可能性はほぼないな。あの気配を感じられぬ。それにあの下手人も、手負いである。わざわざ余の所領に残るより、立て直しに専念するであろう』

「んー、なんかよくわかりませんが、まあ可能性は低いんですね」

『その通りよ。安心して、捜索に励むがよい』

「でも、王様を襲った相手って誰なんですかね?」

『見当はついておる。あやつは、原初の猫に違いあるまい』

「ゲンショノネコ?なんですかそれ?」

『もの知らずにもほどがあるぞ、下僕。仕方あるまい。原初の猫とは余の一族の因縁の相手であるぞ』

『因縁の相手?そんなのがいるのですか?』

『そうよ。あやつは……』


 そういいかけたその時、エレベータが着く音がした。慌てて、サトシが向かうとエレベータの扉が開き、台車を持ったサナエが降りた。

「手伝いますよ」

「ありがと、丑前くん。じゃあ、台車を押してくれるかな?」

 サナエから台車を持つ係を交代したサトシは、そのままバックヤードの物置きへと向かった。


「この飼料、棚に置いておけばよいですか?」

「おねがーい。助かるわ」

「でも、ずいぶん遅かったですね。何かあったんですか?」

 飼料の入った袋は、それほど遠いところにはなく、通常は戻ってくるのに時間はかからない。思ったより時間がかかったことが気になったサトシはふと聞いてみた。


「ああ、大したことじゃないんだけど、袋を載せるのに時間がかかってね」

「園長にでも絡まれたんですか?」

「いやいや。今日、ちょっと体の調子がおかしくてね。寝てるときにでもひねったみたいで」

 サナエが、右腕をグルんぐるんと回しながら言った。

 その動きは、いつもの力強さがなく、どこか痛みをこらえているようにも見えた。


「だったら、僕が、飼料を棚に置いておきますよ」

「ありがとう丑前くん!本当に助かるよ!」


 サトシは、飼料の入った袋を棚に乗せる。決して軽くはない、袋を持つ作業を紛らわせるため、サトシは、台車を片付けているサナエに話しかけようとした。


 その時、ふと気づいた。

 サナエが、毛づくろいに励んでいる王様グンディのケージをじっと見つめている。

 その表情は――いつもの明るさとは違う、何か複雑な感情が浮かんでいるような――


「箱音さん?」

「あっ、ごめん。ぼーっとしちゃった」

 サナエは慌てたようにわざとらしく笑って答えた。

 だが、その姿は、いつものサナエらしくなかった。


「そういえば、グンディはどうするんですか?あのまま、ずっと別々にするんですか?」

「んー。あんまり、群れからグンディを離したくないかな。あの子たち、群れであることがとても大切なの」

「社会性の動物だからですか?」

「おおっ!昨日の書類読んでくれたんだね!」

「まだ、完全ではありませんが、少し……」

「そうなんだよね。グンディって、群れからにおいが消えちゃうと部外者になっちゃうの。で、部外者になるから群れから迫害されちゃうっていう報告があるの」

「迫害……ですか?」

「そう。最悪、死ぬまで追いかけまわされちゃうみたい。そうなったら大変だから、早めに群れに戻してあげたいわね」

 あの王様が妃たちに追い回されるところは想像できないが、嘘というわけでもあるまい。

 社会性生物というのは、一度敵認定されてしまえば、追い回されてしまうのだろう。何やら、過去にいじめられのけ者にされていた自分と重なり、サトシの胸がわずかに痛む。


「そういうものですかね?」

「そうなの。でも、すぐに戻して、群れが崩壊することもあるらしいから、悩ましいの」


 その時、話が聞こえていたのか、サトシの脳に直接王様グンディの声が響いた。

『おい、下僕。余はもう平気だから、早く元に戻すように言え』

『いや、良いんですか?あんなに喧嘩してたじゃないですか?』

 サトシが心の声で返事すると、王様グンディは慌てた口調で返事した。

『……余の問題は、余で解決する』

 王様グンディの声には、わずかな迷いが混じっていた。

『それよりも、今戻らなくては、妃たちは余のにおいを忘れてしまう。早く、元に戻すようにその者に伝えろ』


 ここまで言われては仕方ない。一か八か、サトシは、思い切って言った。

「あの、箱音さん!もしできることなら、早めに元に戻してあげたほうが、僕はいいと思いますよ」

 その言葉に、サナエが手を止めて言った。

「えっ!?丑前くんはそう思うの?」

「あっ。ええっと。ごめんなさい、素人のくせに出しゃばったこと言って」

「いや。ただ、なんでかなーって思って」

「本当に、素人の発想なんで、忘れてください」

「いやいや。続けて」


 押し負けたサトシは、必死に頭の中で言い訳を組み立て、しどろもどろに言った。

「な、なんていうか、ロイ……いや、引き離されたグンディが群れのほうにずっとチュルチュル鳴いているのが見てられなかったんです。昨日まであんなに仲良かったのに」

「私がいない間、そうだったの?」

「はい。なんか、本当にかわいそうで何とかできないのかなって」


 少し黙って左手を口に当てたサナエが、再び口を開いた。

「そうだよね。確かにそれなら早く戻してみようか」

「あと、もしにおいの問題があるなら、例えば互いの敷き砂を頻繁に入れ替えてみたら多少はマシになるのではないでしょうか?」

 サトシは、何気なく言ったアイデアに、サナエはポンと手をたたき顔を明るくして言った。

「あっ、確かに。それいいアイデアかも。このあとやってみようか。丑前くんも手伝ってくれないかな?」


 そして彼女は、にっこりと笑いサムズアップする。

 自分の意見が通ったことが何やらうれしいような恥ずかしいような、そんな気持ちで、サトシの胸と顔が熱くなった。

次の章から、いよいよ、プロローグに出ていた、迎江イロハが出てきます。

乞うご期待ください。

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