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知られていない寝物語

 これは、私、迎江(むかえ)イロハがまだ小さかったころ、おばあちゃんから聞いたお話です。


──おやおや、まだ眠れないのかい。

 えっ、お母さんがいなくて怖い?ははは。ふだんは腕白なくせに、そんな可愛いところもあるじゃないか。

 でものう、お母さんは用事があって、もう少し帰ってきそうにない。だから今夜は、おばあちゃんが眠るまで、そばにいてあげよう。


 そうじゃ、とっておきのおはなしもしてあげようかね。

 これはな、おばあちゃんが、またそのおばあちゃんから聞いたお話なんじゃよ。

 だから、どんな絵本にも載っておらんし、どこにも書いていない。ほんとうに、ほんとうに、とっておきのはなしさ。


 そうかい、そうかい。それなら、話してあげようかの。



──むかし、むかし、まだこの世界に、かみさまがほんとうにいたころのお話じゃ。


 そのころのかみさまは、とてもやさしくてのう。生まれたばかりのこの世界が、わるいほうへ転ばぬように、毎日せっせと見て回っておったそうな。


 あっちでけんかの声が聞こえれば、すぐに駆けつけて間に入り、こっちで泣いている子がいれば、その小さな背中をそっとなでて、安心して眠るまで見守ってあげておった。


 けれども、そんなことを何百年も、何千年も休まず続けていたかみさまは、だんだん、だんだん疲れてきたそうな。

 そしてある日、とうとう思ったのです。

「少しだけ……少しだけ、眠ろう」と。


 困ったのは、世界じゅうのいきものたちでした。


 かみさまにとっては、ほんのひとまばたきほどの時間でも、いきものたちにとっては、とてもとても長い時間です。

 かみさまが眠っているあいだに火事が起きたら、だれが消してくれるのでしょう。

 かみさまが眠っているあいだに争いが起きたら、だれが止めてくれるのでしょう。


 そこで、いきものたちはかみさまのもとへ行って、泣きながらお願いしました。


──どうか、かみさま、眠らないでください。

──どうか、わたしたちを見捨てないでください。


 困ったのは、かみさまも同じでした。

 体はくたくたで、少し休みたい。

 けれど、やさしいかみさまは、目の前で震えるいきものたちを、どうしても放っておけなかったのです。


 そこで、かみさまは、ひとつ良いことを思いつきました。


 かみさまは、自分のいちばん大切な持ちもの――光る杖を、じぶんで折りました。

 そして集まってきた十二匹のいきものたちに、やさしく、こう言ったのです。


『みんな、安心しなさい。この杖が、わたしの代わりになって、お前たちを守ってくれるだろう』


そう言って、折った杖を十二に分け、集まったいきものたちひとつずつ、手渡してあげました。


『この杖は、お前たち十二の一族が、代わりばんこに守りなさい。そうすれば、わたしが眠っているあいだも、世界は守られるだろう。大切に、代々受けついでいくのだよ』


 いきものたちは、ぱっと顔を明るくして喜びました。

 その様子を見たかみさまは、ようやく安心して、深い眠りについたのです。


 それ以来、世界では、その杖の破片を受けついだいきものたちが、代わりばんこに見張りをして、かみさまの代わりに、この世界を守ってくれているんじゃよ。


──おやおや、あくびが出てきたかい。


 それなら、もう大丈夫。さあ、安心してお眠り。かみさまの残した杖とそれを守るいきものたちがあんたを守ってくれるさ。


 ほら……明日も、きっと、いいことが起きるさ。


***


 この話を聞いて、何年も経ちました。

 私はこのお話を、もう二度と聞くことができません。

 でも、おばあちゃんのやさしい声と、あのお話だけは、今でもはっきりと覚えています。

はじめまして、三田春日と申します。

楽しんでいただけたら幸いです。

どうぞお付き合いください。

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