欲しがりさんを大発見したので、親ごと罰を与えてみた
父が味を占めてしまった。
味を占めた父を持つ、私はモブリーナです。
カザレス帝国から割譲された土地を正式に大公領として賜った五歳児なのですが、最近私が得た側近はとても個性的で楽しい人達が多く。
特に女性陣は皆仲が良い。
だから、父は私と側近の女子達がキャッキャウフフと仲良く話しているのが嬉しいらしい。
対等と言う訳では無くても、媚びや打算とかではなく、ただそこに好意がある感じ。
だから、父は考えたんですね。
私に同じ年齢位の女子を友人に持たせようと。
理由はもう一つある。
私が獣人国ネオガルドから連れ帰った狼族の獣人である烈風が、私の番だという事だ。
同年齢の女子とお話しする方が楽しいじゃろ?大作戦なのだと思う。
まあ…浅はかな企みではあるが、未来の臣民である女子達と関わるのはやぶさかではない。
彼女達にも健やかに育ってほしいものね。
父が警戒しても、リィエは別に私に付きっきりではない。
彼には私直属の暗部としての教育を受けて貰っているし、一日に一回晩餐の後に必ず報告に訪れる。
それは最低限であって、時間が許せば部屋に訪れる事はあるのだけど。
でも、リィエも中々に忙しいのだ。
一緒に連れ帰った獣人達と飲みに行ったり、獣人国から付いてきた商人達の商いの様子を見守ったり。
あと、過去に植えて伐採出来なくて放置していた帝城内の厳龍杉の伐採をしたりもしていた。
ついでに、獣人達なら重い物も持てるし、固い樹の加工もお手の物なので、組み立て可能な家も作って貰ったりした。
これは、何れ軍事転用や商売用にも使えるかな?という目論見。
釘とかは使わずに立てる組み方で、形はいたって単純。
形とか見た目に拘ると流石に釘は必要になって、木組みだけでは無理そうなので。
見張り台とかも材料である厳龍杉という木材の丈夫さがあるから、結構高く作っても大丈夫そうだし。
それはそれとして、園遊会が開かれることになったのです。
皇女殿下のお話相手募集しちゃうぞ☆みたいな感じ。
うーん。
私からしたら、年下の女子の面倒を看る保母さんになった気分になりそう。
だって、年上のはずの冷遇令嬢だったジモーネもお姉さんというよりは、褒めてあげたい妹みたいな感じだし、軍人女子のゾフィーも元気いっぱいの猫みたいで可愛いし。
二十二歳の嫁ぎ遅れ魔導具技師のジビレくらいかなぁ、お姉さんぽいの。
身体は同年代だけど、中身が中身なもんでね。
父も色々考えた末に、募集年齢を五歳以上十四歳以下に絞ったらしい。
ちょうど学園に通い始める前の年齢だね。
これは、何も私の友人だけを集めたい訳じゃなくて、お姉様達の侍女募集も兼ねているのかもしれない。
私はまだ同年代の侍女を募集する年齢じゃないもの。
だからあくまでご友人とかお話相手というやつね。
そういえば、前世の中世時代では王族の子供の代わりに鞭で打たれる係がいたってお話。
友人や側近が罰されるのを見た王子が心を入れ替えたり、または自分の側近を守る為に爵位を与えさせたりと割と面白い逸話が残ってるの。
でも、よくある創作物の中のちょっとアレな王子とかって、心入れ替え無さそうだよね。
基本的に爵位が下の教師陣は、王族を折檻できないからという理由で、一緒にいる友人を鞭打ったりしたという。
普通の貴族だったら結構ビシバシ鞭打たれてたんだろうね。
やだなぁ。
なあんて考えてる間に飾り立てられて、皇女宮の庭に連れ出される。
今日は私がメインだけど、歳の近いお姉様達もいらっしゃるみたい。
最初に子供達の挨拶を受けて、あとは放牧。
お茶を飲んだり、お菓子を食べたり、その辺をうろうろしたり。
皇后陛下とご婦人方も社交。
父は企画したのは良いものの、女性達だけの社交界みたいなもんだから、同席は出来なかった模様。
庭を眺められる何処かから見てるみたい。
探す気ないけど。
もっとグイグイくる子供とかいるのかな?って思ってたんだけど、来ない。
多分、一年近く前の試験の時に、久々の処刑があったせい。
私の側近採用試験で、不正した者達も罰されたけど、そっちじゃなくて。
側近のジモーネを虐待していた中継ぎ当主とその愛人が処刑になってしまったのだ。
二人の間の庶子達は奴隷へ落ちた。
だから、何か粗相をしたらやべぇ……みたいになってるんだと思う。
私は何かする気はないから、のんびりお菓子を食べてお茶を飲んでいる。
けれど、やっぱり中にはいるよね。
やらかす子供は。
だって子供だもんね。
私にだけ気を付けておけばいいや、って事で。
「やめなさいと言っているでしょう」
「だって、お姉様の髪飾り綺麗なんですもの。わたくしにください」
あら喧嘩。
あっっ!!!!!
これは!
もしかして!!
かの有名な!
欲しがりの妹さんですわね!!!!!!?
私のメーターがトップスピードでギュインッと振り切れた。
お、おち、落ち着いて、邪魔はだめ、まだ駄目よ!
よく、確認してからでないとっ!
声のした方を見れば、メーベルト伯爵家の姉妹が揉めている。
姉は割とこの帝国に多くいる赤茶色の髪に、緑の瞳。
妹はふわふわの金髪に、青い瞳。
キツめの姉の見た目に反して、妹は可愛らしい系統。
でも、いきなり髪飾りをとろうとしたのか、姉の押さえた髪が崩れかけている。
しかも妹の方は手を離していない。
九歳の姉に七歳の妹。
「これを渡したら、髪が崩れてしまうわ」
「その位大丈夫ですわ。ほら、あそこにいる令嬢だって髪を結っていませんもの」
「わたくしは結っているのよ」
誰かが呼びに行ったのか、伯爵夫人が駆け付けた。
「まあ……何て事」
お、まともか?
妹を注意するか?
「貴方はお姉様なのだから、妹に譲っておあげなさい」
はい、アウトーーーー!
こんな場で強奪しようとするんだから、そりゃ、躾する側に問題があるよね。
それでそれで!?
そこからどうなるの!?
私は紅茶片手に興味津々で眺めていたのだけれど、強制終了のお知らせ。
「何の騒ぎです」
皇后陛下のお出ましです。
さっと、道が割れて、皆が頭を下げる。
そんな中、使用人の一人が、皇后に耳打ちした。
あの人暗部かしら?
私は別の方向で興味が湧くけれど、皇后陛下の裁定も気になる。
「ふむ。メーベルト伯爵夫人。其方の家では他人と自分の持ち物の区別をつけるよう教育はしておらぬのか」
「い、いえ。ただ、先に生まれた姉として、妹に優しさを持つようにとは教えております」
何とか言い訳をしているが、皇后陛下の眼は厳しい。
「姉にばかり我慢をせよ、と?」
「そんな……そんな事はございません。きちんと姉にも我慢した分与えております」
だが、姉の方はその言葉にキュッと眉根を寄せている。
夫人の言葉は言い逃れの為の嘘なのだろう。
皇后陛下もそれは分かっていると思うけれど、嘘だと断じる事は出来ないし、踏み込み過ぎる事も出来ない。
少なくとも姉妹の衣装に格差はなく、二人とも美しい衣装を着せられているし。
ジモーネみたいにヨレヨレだったりはしない。
「……そう、その言葉に偽りはないですね?」
「……はい」
あー嘘ついてる。
嘘ついちゃってますね。
まあ、一年前のあれこれを考えると、周囲の目も厳しいしね。
嘘つかないと保身出来ないから仕方ないけど。
姉もまた、保身のために髪飾りを取ると、妹に渡した。
崩れかけた髪が、ふぁさりと解ける。
「まあ、優しいお姉様ですこと。皇后陛下、わたくしが彼女に褒美を取らせても?」
私が前に進み出ると、皇后は目を和ませた。
あの人も我慢した分与えるって言ってたし、いいよね?
そして、皇后は私の意を汲んで鷹揚に頷く。
「良いでしょう」
許可を得たので、私は姉の方に話しかけた。
「ついていらっしゃい」
「は、はい」
近くの客室へと場所を移し、小間使いに命じてある物を取りに行かせる。
「少し待っていらしてね」
「仰せのままに」
「ナディヤ・メーベルト嬢、貴女は妹のマリーナ嬢に何でも与えてしまうの?」
私の質問に、ナディヤはびくりと肩を跳ねさせる。
何と答えたものかと、今必死で考えているのだろう。
余計な事を言えば、家が没落しかねない、とも。
ちょっとかわいそう。
そういう意味で聞いたんじゃないんだけど。
「いえ、伯爵家を罰するつもりはありませんのよ。この話は貴女への褒美で終わらせる心算ですもの」
彼女はほっとしたように肩を落として頷いた。
「全てではありません。あげても良いと思った物は、譲っています」
「そう……マリーナ嬢は、貴女から貰った物を大事になさってる?」
逡巡した後で、ナディヤはいいえ、と首を振る。
「多分、ですけれど。手に入れた事で満足してしまうのでしょう。わたくしが取り戻しても再びそれを目の前で使わない限りは無くなった事も気づきません」
「……そう。貴女から奪う事が楽しいのかしらね」
欲しがりの妹って、色々なタイプがいるよね。
大別すると、姉だけじゃなくて誰にでも欲しがるタイプと、姉の物にだけ執着するタイプ。
これは別にすっごい差ではないけれど、後者が許されて前者に移行するケースもありそう。
身近な女子にマウント取りたい系か、単なる物欲系かの違いはある。
どっちにしてもちょっとお行儀も悪いし、品性も悪いんだよね。
ナディヤは私の言葉にしゅん、としている。
今日の様子を見てると、ただ流されるだけじゃなくて注意はしてたもんね。
母親が引っくり返してたけど。
でもその後、母親の保身に従って髪飾りを放棄してたのは、矜持だ。
妹の我儘に屈した訳でも、母の嘘にただ従っただけでもなく、家を守る為の苦渋の決断。
あの場で実は、と皇后陛下に申し出れば、彼女は救われる。
でもそれはナディヤだけで、家はどうなるか分からない。
だから、冷静に考えれば、ああするしか家ごと助かる道はないと思ったのだ。
「でも、どんな気持ちで居ようとも、今からわたくしがあげる物は誰にも奪えなくてよ」
「……殿下……」
「そうよ。皇女殿下から下賜された品、ですものね」
じわ、とナディヤの眼に涙が浮かぶ。
「でも、そんなに希少な物ではないのよ」
綺麗な箱を手にした小間使いが戻ってきて、机の上に恭しくそれを置く。
中にはいくつかの宝飾品があって。
その中の金に緑の石を嵌め込んだ髪飾りを手に取って、ナディヤに見せた。
「地金は黄金だからそれなりの価値はあるけれど、この宝石に見える緑色の石は色硝子なの」
「まあ……とても美しいですわ。緑柱石かと思いました」
「でしょう?でも天然の緑柱石は内包物があるから、形状や切子面にも制限があるのだけれど、色硝子なら色々な形に出来るのよ。女王の国の宝石には敵わなくても、技術を磨くためにこうして色硝子で色々な試作品を作らせているの」
「……そんな貴重な物をわたくしに……?」
貴重ではあるけど、希少ではないし、あまり高価な物をあげてプレッシャーをかけたくはない。
「そんなに畏まらないで。先程も言ったけれど、そこまでの価値は無いの。偽物だと思えば、貴女の気も楽になるかと思ったのですわ」
「……殿下がお心を砕いて下さった事、わたくし一生忘れません。宝物にいたします」
彼女の手に渡した髪飾りは、意匠も秀逸で美しい。
抱きしめるようにして、ナディヤはほろりと涙を零した。
おーーーい!スパダリ!!
お前はいっつもいっつも何処で何してるん!?
ここに妹に色々奪われて泣いてる女子がいるんだが!?
「さ、髪を結い直して、宴に戻りましょう。そうね、どうせだからわたくしと同じ髪形に結ってあげて」
小間使いがささっと用意して、彼女の髪を結い上げていく。
「ふふ、やっぱり貴女の髪色に似あいますわね」
「そう仰って頂けると、嬉しゅうございます」
はにかむナディヤは可愛らしい。
誰だ、キツめの顔とか言った奴は!
私か!
でも、キツめだと思った女子のはにかみ顔ってさ、落差で萌えるよね!?
可愛い!
「さあ、参りましょう」
「はい、殿下」
私達は手を繋いで庭に出て行く。
先触れを出したから、皇后陛下自らが出迎えてくれた。
優しい微笑みを讃えて。
「戻りましたか、モブリーナ」
「はい。大母様。わたくしの作らせた髪飾りを下賜いたしましたの」
「うむ。良く似合っておるではないか」
髪飾りを見て、満足そうに皇后陛下は更に微笑んだ。
恥ずかしそうにナディヤは膝を屈する。
「一生、大切にして参ります」
まあ、ここで終われば良かったんだけどね。
二か月後、やっぱりというか何というか、欲しがりの妹はやらかした訳です。
小さな宴に、姉から奪った皇女殿下の下賜した髪飾りを着けて出てしまった。
はい、大問題。
不祥事だから、勿論私の耳にも入ったし、多分皇后陛下も知ってる。
だから、皇后陛下の許に行く事にした。
「大母様、髪飾りの件はお耳に入っておりまして?」
「聞いています。何かするつもりかや?モブリーナ」
「はい!」
優しく頭を撫でられて、元気よく私は答えた。
「大問題にする気はございませんが、皇后陛下の御前で嘘も吐いたのですから、嘘を真にして差し上げようかと」
「ふふ。聞かせて貰いましょうか」
私の内緒話に、呵々とお笑いになる大母様。
「それは実に面白い。良い、わたくしが許しましょう」
「では、行って参りますね!」
私はある人々を呼び出して、引き連れて、メイナード伯爵家に突撃した。
まずは、私だけ伯爵夫妻と姉妹を集めて、応接室でお話をする。
「この度は拙宅にお越し頂きまして、恐悦至極に存じます」
そう言った伯爵は顔色が冴えない。
そりゃそうですよね。
だって友好的とは程遠い訪問ですもんね。
「わたくしの訪問が何故か、心当たりはございまして?」
「は……御下賜品の髪飾りの件でございますと……」
「ええ」
ちゃんと分かってる。
ナディヤは、ふるふる震えながら、頭を下げた。
「申し訳、ありませんっ!大事に……仕舞っておいたのですが、でも……」
「ちょっとお借りしただけなのに、大袈裟ではありませんか?別に貰った訳ではありませんのに」
「そ、そうね。借りただけですものね」
私はあら、と横槍を入れた二人をみる。
「マリーナ嬢にあの髪飾りを着ける許可を、わたくしがいつ与えまして?あれはわたくしがナディヤ嬢に贈った物ですのに。妹の教育がしっかりしていないのは、伯爵夫人のせいかしら?悪いと思っていないようですものね」
「いえ、あの……申し訳、ございません」
まあ確かに、貸借までは文句言う筋合いじゃないと思われるかもしれないけど、私があげたものだもの。
言う権利はある。
別に、全然問題ない人々だったら、そこまでは言わないんだけどね。
ただこれ、両陛下の下賜品だったら、ちょっと借りたじゃ済まされない。
私は褒美としてあげたから、本人が貸してもいいって言えば、許されるっちゃ許されるけど、陛下たちの場合は忠義に対する恩賜だから、完全アウトになってしまう。
でも、子供への教育としてはよくない。
帝室からの下賜品をぞんざいに扱ってると周囲に思われても仕方ないんだよね。
「夫人は今でも、姉は妹に優しくするべきだとお考えですわよね?姉妹愛は美しいですもの」
私が笑顔で言うと、許されると思ったのか、夫人は何度も首を縦に振る。
「ええ、ええ。姉と言う者は目下の保護すべき妹に対して寛容でなくてはなりません」
「では妹が欲しい物を姉が持っていれば、与えるべきだと今でも思うのですね?」
「はい。あの今回のご下賜品だけは、例外でございますけれど、ええ、妹が欲しいというのならば出来るだけ応えるのが姉と言う者です」
「まあ、宜しゅうございました!」
私がにこにこ笑えば、夫人とマリーナもにこにこ笑う。
伯爵とナディヤは疑問符を浮かべて、怪訝な顔でこちらを見る。
そこへ、執事が慌てて部屋に入って来た。
静かに最敬礼をすると、執事は伯爵に耳打ちをする。
さっと伯爵の顔が蒼褪めた。
夫人の部屋が今、大変な事になっているだろう。
私が夫人の妹と伯爵の妹達を呼び寄せたのだ。
「ま、まさか……皇女殿下」
「ええ、その通りです、伯爵。夫人が娘に強いるのならば、手本を見せて頂かないと」
次々に、執事の開け放った廊下を使用人達が衣装を持って通り過ぎる。
「え?あ、貴方、あれは……わたくしの衣装では……」
夫人は席から腰を浮かせるが、伯爵は苦虫を噛み潰した顔で、座れ、と命じる。
そこへ、伯爵夫人の実の妹達と義理の妹達が現れた。
「お義姉様、衣装も宝飾品も欲しい物は好きなだけくださるなんて、本当にお優しいですわ!以前から欲しかったのですよ、この首飾り」
伯爵の妹であり、夫人の義理の妹である女性が、数々の宝石を見せびらかした。
実の妹である子爵家の令嬢……から平民になった妹もにこにこする。
「わたくしも何かと入用で、生活が厳しかったものですから、嬉しゅうございますわ!お姉様、ありがとう」
彼女も山と衣装を抱えて、急ぎ足で外へと持って行く。
多分これ、根こそぎコースですね、うん。
「わた、わたくしの、衣装と宝飾品が……!」
「そうですわね、夫人の姉としての寛容さには非常に頭が下がる思いですわ。本当にお優しいこと」
私の声にハッとなって、夫人がまた立ち上がりかけていた姿勢から、座り直す。
がたがたと震えながら、ちらちらと廊下を見たり、窓の外を見たりと落ち着かない。
まあ、そりゃそうか。
大事に貯めていた宝飾品や衣装を持っていかれているのだもの。
でも他人事だからと妹のマリーナはどこ吹く風。
「お姉様もわたくしにくださるのだから、お母様も叔母さま達にあげるべきですものね」
なあんて言ってる。
夫人は傍らの愛しい娘を化け物でも見たかのように目を見開いて見ていた。
まあ、そういう教育をしてきたのだから、仕方ない。
私は良いけど貴方は駄目、なんて二枚舌のご家庭も多々あるけども。
でも参ったなー。
妹の意識を変えない事には、妹VS母の構図になるだけだ。
愛玩子VS毒親ファイッ!
それはそれで見ていて楽しそうだけど、でもね。
夫と姉はまともだから、そうも言っていられない。
二人は真面目だし優しいから、こうして母親が酷い目に遭っていると一緒に青い顔をしているの。
平和な家庭にするにはもう一押し。
「夫人は、マリーナ嬢には慎ましやかな女性になるような教育をされておいでですの?」
私の問いかけに、夫人は疑問符を浮かべる。
まあ、そうね。
だって欲しがりの妹だもの。
どちらかと言えば強欲。
「わたくしはお姉様達が沢山居りますけれど、一度として物を強請った事はございませんのよ?素敵な物をお持ちなら父上にお願いして同じ物を手に入れますわ。だって、姉とはいえ他の者が使ったお下がりなど使いたくないのですもの」
にっこり微笑んで、マリーナに蔑む眼差しを向ける。
「だってまるで、物乞いみたいですものね。いえ、良いのですよ?清貧を貫く慎ましやかな女性として、姉のお下がりを頂くのも。でも贅沢を旨とする貴族としてあるべき姿とは程遠いのではないかしら?と疑問に思いまして」
さすがに直接的な表現を含めたからか、マリーナは分かりやすく真っ赤になって俯いた。
どうやら、とても恥ずかしい事だと認識できたらしい。
はっと顔を上げたナディヤも私の意図に気が付いたみたい。
「ナディヤ嬢も優しいからと言って、妹に施すばかりじゃ駄目ですわよ?癖になってしまいますもの」
「はい……妹が物乞いにならずに済むよう、お母様の教えには反しますがこれからは厳しくいたします」
二重の意味で過失を犯していた夫人は唇を噛んでワナワナと震える。
だから、駄目押しをした。
「夫人も、ご自分が妹達に優しく施すのは良いとしましても、ナディヤ嬢への強要は宜しくありませんわ。もしまた、わたくしの下賜した品を許可なく貸借するような事があれば、貴女の優しい施しを見に立ち寄らせて頂きますわね」
「………は、重々心に留め置きます」
夫人は先程よりも少し生気を取り戻した顔になり、しっかりと頭を下げた。
マリーナをまた甘やかしてやらかしたら、夫人の衣装と宝飾品を再び妹達にバラまくという宣言である。
買いそろえた衣装と宝飾品をまた手放すのは嫌だろうな。
マリーナももうやらないとは思うけど、念の為ね。
私は、続けて伯爵にお願いをする。
「伯爵も。夫人が妹達に与えた分、新しい衣装と宝飾品を買い揃えてあげてくださいましね。宴に出られなくなってしまいますもの」
「はい、それはもう……」
この出費は伯爵への罰だ。
教育を妻に任せているとはいえ、育児に関わらないのは良くない。
こうして下賜品が杜撰に扱われる結果を見れば一目瞭然。
本来なら家を継がせる息子だけでなく、嫁に出す娘達の様子をもきちんと見るべきなのだから。
痛い出費かもしれないけれど、かといって家が傾くほどでもない。
新しい物を買えという命令は、夫人の妹や義妹に渡った品は取り戻してはいけないという意味でもある。
ぺこりと頭を下げた伯爵を見て、私は一つ頷いた。
「では、帰城いたしますわ。またご縁がありますよう」
「は、有難き幸せ」
本当はもう来て欲しくないだろうけども!
これで妹も夫人もまともになるなら安い物だと思ってね。
皇女ならではの剛腕解決。本当は他のシリーズでやろうと思ったのですが、モブちゃんが一番自然かなぁとモブちゃんに。
5歳のモブちゃんに諭される両親。改めて皇女への畏敬の念を抱く。
従者から報告を受けた皇后だけじゃなく、側妃達にも話は伝わり皆楽しみました。平和。




