表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された勇者の俺、残されたスキルは【パン焼き】でした。辺境で焼いたパンが世界を救うことになるなんて――  作者: 妙原奇天


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/20

第7話 パン屋の軍勢、出陣

 夜空を焦がす戦炎の赤は、王都の人々の顔を不安に染め上げていた。

 だが城壁の下、広場に集った兵士たちの表情は、かつてと違っていた。

 彼らの腰の袋には――剣と一緒に、私が焼いたパンが詰められている。


 癒やしの白パン。眠りパン。爆裂パン。硬焼きパン。勇気パン。

 それぞれが窯の熱と風の精霊の加護を宿した、“焼き立ての武具”だ。


「パンで戦うなんて馬鹿げてる」――最初は誰もがそう笑った。

 けれど、今の兵士たちの瞳に浮かぶのは、確かな希望だった。


「これなら戦える!」

「勇者はいなくとも、パンがある!」

「聖なるパン職人に続け!」


 そんな声が次々と広場を埋め尽くす。

 兵士だけじゃない。病に伏せていた者も、家族を失って泣き崩れていた者も――今やパンを握りしめ、立ち上がっていた。


 私はその光景を見渡し、胸の奥が熱くなるのを感じた。

「……パン屋の軍勢か」


『うん! ねえレオン、行こう!』

 肩にとまる風の精霊ミルが、楽しそうに髪を揺らす。

『あなたの焼きは、もう村や王都だけのものじゃない。世界を守る炎だよ!』


◆城門前の布陣


 王城の巨大な鉄門がゆっくりと開く。

 夜風が吹き込み、戦炎の赤が流れ込む。

 先頭に立つのは、かつての仲間――勇者アルド。


「レオン。……俺は剣を取る。おまえはパンで支えてくれ」


「もちろんだ。勇者が切り拓く道を、パンで繋いでみせる」


 聖女マリアは頷き、兵士たちの列に祈りをかける。

 宮廷魔術師ザイラスは苦い顔をしながらも杖を掲げ、兵たちを強化する呪文を唱えた。

 そして兵士たちは一斉に叫んだ。


「おおおおおお!」


 パンと剣を掲げる軍勢の声が、夜空を震わせる。

 ――“パン屋の軍勢”の出陣だ。


◆開戦


 地鳴りが迫る。

 魔王軍の最前列、巨大な鬼型の魔物が咆哮を上げた。

 その声に圧され、兵士たちの足がすくみかける。


「勇気パンを食え!」

 私は叫び、籠を開けた。

 兵士たちが次々と口にすると、震えていた手が力強く剣を握り直す。

 鬼型の魔物に立ち向かい、火花を散らして斬り結んだ。


 次いで飛来する鳥型の魔物。

 翼を広げ、炎を撒き散らす。

「眠りパンだ!」

 私は投げ、風に乗った丸パンが鳥型の口へ吸い込まれる。

 瞬間、魔物の瞳がとろんと霞み、真っ逆さまに墜ちていった。


 爆裂パンは、敵の群れを吹き飛ばす。

 硬焼きパンは、兵士たちの盾代わりに使われる。

 そして癒やしの白パンは、倒れた兵士をすぐさま立ち上がらせた。


 戦場に広がるのは、剣戟と咆哮、そして――パンの香ばしい匂い。


◆仲間たちとの共闘


 アルドが前線で鬼型を斬り伏せる。

 マリアが祈りを兵士に重ねる。

 ザイラスが炎の呪文で敵を焼き払う。


 かつて私を追放した三人と、今こうして肩を並べて戦っている。

 皮肉だが、不思議と憎しみは湧かなかった。

 胸にあるのはただ一つ――


「このパンで、世界を守る!」


 私が窯の火をさらに焚き上げると、ミルが風を巻き、炎を大きく揺らした。

 その熱は生地に染み込み、新たな焼き立てを生み出す。

 戦場でパンを焼く――常識外れだ。

 だが、その香りは確かに兵士たちの心を支えていた。


◆戦局の変化


 魔王軍は後退せず、次から次へと押し寄せる。

 地平線の赤はますます濃くなり、まるで夜そのものが炎に呑まれるようだ。


「持ちこたえろ!」

 アルドが叫ぶ。


「白パンを回せ! 傷を癒せ!」

「爆裂パンをもう一籠!」


 兵士たちの声が飛び交い、私は窯に向かって手を止めることなく生地を叩く。

 風の精霊ミルがその作業を助け、焼き上がりを加速させる。

 パンの香りが、戦場の喧騒を塗り替える。


 そのとき――戦炎の向こうに、ひときわ大きな影が現れた。

 全身を黒鉄の甲冑に覆い、頭には巨大な角を生やした魔将軍。

 その背後に控える軍勢の旗には、魔王の紋章が掲げられている。


 兵士たちの喉が凍りついた。

「まさか……魔王軍の将が自ら……!」


 私は窯の火を見据えた。

「まだ焼ける。俺には剣はないが、パンがある」


『そうだよ、レオン』

 ミルが囁く。

『あなただけの“究極のパン”を焼くときが来たんだ』


 私は深く息を吸い込み、粉袋を広げた。

 戦場のど真ん中で、窯の炎が轟々と唸りを上げる。


 ――聖なるパン職人の逆転劇は、ここからが本番だ。


次回「第8話 魔将軍と究極のパン」

ついに姿を現す魔王軍の将。その圧倒的な力に、レオンは“究極のパン”で挑む!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ