番外編:落ちながらの説明
(※第1話「落ちながら説明しよう!」の“説明”が、実はこうだったという話です)
風が顔を切り裂くように吹き荒れていた。
空中。落下中。俺と大地は、まさにデスダイブの真っ最中。
――だが、そのとき、私は語っていたのだ。魔力を込めたテレパシーで、風を貫くようにして。
《まず、この世界は七つの階層に分かれている。上層は浮遊、下層は実体。つまり我々は、霊的空間から物質空間へと“落ちて”いるわけだ》
大地の頭の中に、直接響く声。だが彼は混乱の渦中にあり、全く理解できていない様子だった。
《我が名はリヴェルト・グロール、かつて大地の王と呼ばれた魔王だ。が、諸事情により現在は旅人の身》
大地は目を見開いて、風に巻かれながら「うわああああ!!」と叫んでいた。
……聞こえてはいる。だが、心に届いていない。
《この世界では、“堕落”とは進化でもある。重力に従うことで、己の真実に近づく。よって落下こそが――》
ビュオン!!と突風が横から叩きつけ、大地が一瞬横回転した。
《――ふむ、説明が早すぎたかもしれん》
私は魔力の出力を少し落とし、ペースを調整することにした。
《あとで暇ができたら文書にまとめよう……というわけで、ここまでが“この世界の基本説明”だ。以上》
視界に、近づいてくる都市の影が映る。
「おっと、そろそろ着地の準備をせねばな」
こうして私は、全力で説明したつもりだったのだ。
届かなかったのは……重力のせいである。
(※この説明は“本人のつもり”であり、記憶と現実には差異があります)