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縁緣廻る  作者: 無玄々
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第2話『限りなく黒に近い白』


「起きてください、樂緣様」

 清々しく晴れた日の午前。神使は布団に丸まる上司を起こしに来ていた。

「ぅう、……サクラダファミリアが完成するまで眠らせて……」

「馬鹿言ってないで起きてください。高縄村で変死体が見つかったそうです」

 人が死ぬのは日常茶飯事である。が、態々神に救いを求めてくる偏狭な奴は稀なのだ。そしてこうした声を頼りに樂緣達は到骨と呼ばれる人を襲う敵を探す。全てはその背後にいる黒幕へ辿り着くために。

 神使が布団をひっぺがす事で漸く樂緣は起き上がった。目をしょぼしょぼさせながら大欠伸を一つ。

「前回の奴らに行かせればいいじゃん」

 前回は轟雷と呰坤と言う二人の鬼を神使が雇って来て派遣した。弱かったけど、何もしなくて済むからアレでいいやと概ね許容範囲だった。それをまた使えと樂緣は言った。しかし

「一回きりの契約ですよ。せめて部下の管理くらいしてくださいよ」

 短期も短期、日雇いのバイトであった彼らはすでに此処にはいない。連絡先は知っているがそれをかけるのは神使ではない。本来こう言う仕事は樂緣の仕事である。樂緣は頭を抱えた。

「えぇー、どうすんのそれ。今回は無かった事にするしかないか」

 下界の民より自分の身。自分が探しにいくなど欠片も考えない樂緣は早々に諦め様と(面倒くさいので)布団に戻ろうとする。しかし、そこは出来る部下事神使の前。そうはいかない、布団を渡さず舌打ちし、屑を見る目を樂緣に向ける。

「使えないですねこのゴミ。……お二方入ってきてください」

「おっ、流石神使ちゃん。有能な部下を持てて私は嬉しい」

「何度も言いますが私は悲しいです」

 既視感と共に引き戸が滑りの良い音を立てて開く。そして部屋へと入ってきたのは前回と同じく二人の男だった。

「雇主だな? 俺は夜討ちの大将、月向(つきなた)様。力を貸してやらんこともない」

「加藤です」

「違います。コイツはぽんこつ……じゃなかった日影(ひかげ)だ」

 黒く癖のある長髪の4つ目の男と白く艶やかな髪を持った4つ目の男。月向と名乗ったのは黒い方、日影は白の方だ。黒い方はまだ話が出来そうだが白い方は……と樂緣はこの人選に疑問を抱かずにいられなかった。

「なんだこの変な奴ら。神使もっと仕事出来そうなの雇えよ」

「樂緣様よりかは使えるので黙ってもらって良いですか。それではお二人には此方の投書の対応をしていただきます」

 聞く耳持たぬと上司をすっぱり切り、神使は手に持っていた三つ折りの投書を日影へ渡した。どうしてそっちに? と言う樂緣の疑問は裏切られ、二人は覗き込むように読み始める。あ、あの白い方そこは普通に読めるんだ……と失礼な事を考えながら見ていた。

「変死、まぁ普通だな。到骨の生死は」

 月向が手紙から視線を外し、仕事内容を確認しようとする。

「もう全部そちらにお任せします。前回もやりましたそのくだり」

 何のことだかわからない二人をそのままに、神使は『さっさと行け』と入り口を指差す。

 まさか此処から自力で? 今から山越え? と言う月向の真っ当な疑問は日影が腕を引いて部屋を出ようとするものだから飲み込まれた。


 部屋に残った樂緣は一仕事終わったとばかりに伸びをし、神使へ先程の二名について聞く事にした。

「神使ちゃんちょっと人選おかしくない? 前回は弱そうだったし今回話通じなそうなんだけど。てか今回もヒョロヒョロじゃん!! 弱そう」

 樂緣は先程の二名を思い出して抗議の声を上げる。服で正確なラインはわからないが、袖から覗く腕の細さや声の高さ、そして色白の肌……顔こそ四つ目だがどう考えても未成年、労基に訴えられるのではと樂緣の懸念はそこにもある。もっと大きなところは直感的に弱そうだった、以上である。

 そんな上司の声に

「先程の2名は400年は生き延びている鬼です。多分大丈夫でしょう」

 と神使は淡々と返した。目も向けない。

「400年も成仏しないとか飛んだ未練たらたらお爺ちゃんじゃん。大丈夫なのそれ」

「生前の事を忘れてしまうあまりに未練が解決しないのが鬼の特徴ですよ。そこではなくて生き延びている事が凄いんですよ」

 へー、とさして興味もなさそうに返した樂緣へ、全くこの上司は、と見下す視線を投げながら神使はその羽で宙へと座る。

 鬼。そう呼ばれる彼等は一般的に想像される人を襲い角があり赤や青だったりする鬼とは違う。むしろ幽霊、魂の残り滓、怨霊が近い。生前の強い意志が彼等を鬼として現世に留めてしまう、と言う話だ。当の本人たちは生前を覚えておらず、なりたちの真偽は定かでは無い。何もせずとも怪異と言うだけで討伐対象にされたりもする為(一応陰陽師や退治屋は存在したのだ)自然な成仏をする前に消される鬼も少なくなかった。

 そんな中で四百年以上を生きている、と言う事実は大きなポテンシャルである。

 尤も樂緣の言う様にいつまでも自分を思い出せない哀れな奴、と言ってしまえば間抜けに思えてしまうが実力はあると言う事だ。


「で、今回はカメラマンもいないし実況は無しでしょ? じゃあ寝るわ」

 前回はつまらないリアルタイム番組を見せられる、その上転落すると散々だった! 早々に席を立ち自室へ戻ろうする。

 その時だった。

『はいはいみなさんこーんにーちわー!! 司会の月向お兄さんと』

『ゲストの水○ヒロです』

『ギャラが払えなくなるのでお帰りください』

「嘘ぉ! なんで? なんで勝手に電波ジャックしてきたのこいつら」

 モニターが勝手に付き、先程の2名が浮かび上がった。ノリはさながら出来の悪い教育番組、日影に至ってはさらりと問題発言をしている。愛想の悪いゲストだ、怒られるぞ。

 樂緣が驚き神使に目をむけるがこれまた無視。此方の声が聞こえているのか月向は日影を放置して樂緣に目を向ける。

『画面に花が足りないと思ってな。前回は報告を兼ねて録画したと言う報告書を読み、例に倣ってやってやったんだ。感謝しろ』

「要らないよ、私寝るから本当にいらないよ」

 轟雷が書き残した業務報告書である。そんなものが何処にあったのか、樂緣は目を通していない。

『バイトから目を離すとは管理者のクズめ。その隙に不祥事は起こるんだぜ、人間の業は恐ろしいなぁ』

『不祥事が起きたら謝罪ストレッチだな。楽しいことになるぞ』

 真顔で楽しそうに樂緣に警告の様な何かを言う日影と笑い顔で平坦に不謹慎なことをかましてくる月向。樂緣の印象的にもう最悪である。

「悪意だ……悪意の鬼がいる……!! 神使ちゃんこいつら早くどうにかしろ!」

「樂緣様、スーツとピンマイクを用意しておきましたよ。これでいつでも号泣会見が出来ます」

 頼みの綱の神使に助けを求めるも、両腕にスーツと机へマイクを設置した姿に何も期待は持てなくなった。八方塞がりである。

「あぁ! 無能しかいない!! いいから早く仕事しろよこの白黒パンダ共!!」

『せめて囲碁とかオセロとかチェスとかあるだろ』

『それもないが。安心しろ、相手の居場所は分かっている。雇われた以上仕事はする』

「その仕事に実況は入ってないから本当に消していいよ。むしろ消すから勝手に付けてこないで」

『事務手はちゃんと制定してくれ本当に』

 プツン、と映像が切れた。いや、消した。モニター裏の主電源から消すことにした。なんだかとても疲れた。

 ふぅ、と一息ついて樂緣は神使に問いかける。

「神使ちゃん、何あいつら。怖いんだけど。カメラまた渡したの?」

「いえ、カメラは今回渡していません。多分自前でしょう、熱心な方ですね。無能そうですが」

 さりげなく直球で貶しながら神使はモニターを仕舞い始める。このあと使う気がないのだろう。これで静かに眠れる……と喜んだ。


 それから二時間程度後の事である。一眠りし(不思議な事に神使から怒られなかった!)寝起きの顔を洗っていた時、入り口がノックされた。

「戻ったぞ。開けていいか?」

 どぞー、と返事して持ち場に戻る。扉が開き、先程の二名が部屋へと入ってきた。

「仕事は終わりだ。流石だな開始二時間で全てを終わらせてくるなんて」

「相手が刺身のつま並に弱かったからな」

 謎の自画自賛をしながら月向は手に持っていた風呂敷を机に置く。お土産か?! と早る気持ちを抑えずに開けたら普通に首だった。残念である。

「変死の正体も衰弱死。雑魚到骨特有の現象だったな」

「柔らかかったな、ボールみたいに刎ね飛んでた」

 何事もないかの様に報告してくる白黒にそんな簡単だったなら給料少し減らしても良くない? とケチな考えが浮かんだり消えたりする。いや払うけど

「とりあえずこの汚い物どかしてもらっていい? 私女の子だから首とか触りたくない」

「お前人の首に向かって失礼だな」

 風呂敷に包み直し今度は日影がその包みを持つ。そしてそのまま部屋から出て行った。

「なんか相方出てったけど大丈夫なん?」

「処分しに行っただけだろ。……さて、それじゃ俺もそろそろ帰るかな。口座に金はよろしく」

 月向も同じように部屋から出て行く。

「はいはい、お疲れちゃん。なんか全く進展してないけどまぁ最初はこんなもんだよね」

 今日もしっかり働いたな、と伸びをして樂緣も立ち上がる。そういえば神使は何処に行ったのだろう、とやけにスムーズな会話の違和感に気がついた。しかし神使いなくても部下に対する私はちゃんとした上司の受けごたえが出来てるな、と違う方へ思考が進んだため特に気にならなかった。


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