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6. 晩餐会の約束

なんだか途中、きな臭い話は聞こえたけれど。

晩餐会自体はつつがなく始まって、つつがなく終わった。

途中でケイトとアミには会えて、お互いに家族を紹介し合うこともできたのが、今回の私の収穫だろう。

来週もまだ授業があるからと私は両親を見送ったけれど、ケイトは領地が首都から遠いこともあって、冬季休暇までの残りの日数は自主休暇にして、家族と一緒に帰省するらしい。

アミも両親と別れるのが名残惜しいらしく、馬車でまだ少し話をすると言って――これまで本人はあまり言っていなかったけれど、私やケイトの家より遥かに豪華な馬車だった――行ってしまった。

急に一人になってしまって。このまま寄宿舎に帰るのも寂しくて、いつもより明るいのをいいことに、あまり人がいない校舎側にふらふら歩く。


「こんな暗いとこで、一人で何やってんだ」


ふいに後ろからかけられた言葉は責めるようなのに、口調は優しくて。

その声に、なんだかすごく懐かしいような気持ちになりながら、声のした方へ振り返る。

「セオ…」

この数ヶ月はもちろん、今日の晩餐会ですらなかなか会えなかった相手が立っていて。

声でわかっていたのはずなのに、驚いてかけ寄る。

「久し振り、こんな所でどうしたの?」

私は久し振りに会えて嬉しくて声が弾むのに、セオは怒っているというより気が抜けたような声で窘めてくる。

「どうしたはこっちのセリフだけど…こんな所に一人で、危ないだろ」

終電を逃してタクシーで帰っていたような社会人にとっては、この時間にこんなに明るい場所なんて、危ないうちにも入らないのだけれど。

でもこの体は私ではなくイライザなんだから、同じように考えるのはよくないか。


「みんな帰っちゃって、寂しくて…セオは?ご家族はもう帰ったの?」

一応は反省した顔をしてから、話を変える。

会場では全然見当たらなかったけれど、きっとセオのご両親も来ていただろう。

「さっき帰ったよ、イライザにも会いたがってたけど、休暇の時にまた会いに行くって」

「そう…私もお会いしたかったから残念だけど、年末にまたお会いできるのなら楽しみにしてるわ」

伯爵夫人にはセオと仲良くさせてもらっているだけで既に有難いのに、お母様と同じように私のことも気にかけてくださっていて、感謝しかない。

休暇の時にうちに来てくださるのなら、また色々とお話もさせてもらいたいわ。


「セオとも、寄宿学校に入ってからは本当に全く会えなかったものね。寄り道して、今日会えて良かった」

彼にとっては私の行動は心配だろうけれど、それで今日久し振りに会えたのだから、私にとっては正解だった。

そう笑って目を向けると、セオは私から視線を外して明後日の方を見ながら後ろ頭に手を当てて、長く息を吐く。

これはため息なのだろうか。照れ隠しかもしれない。

「俺はお前のこと探してたけど」

小さく言われて、少し驚く。

「そうなの!私も、国王祭のこと全然知らなかったから、セオがいてくれたらなって思ってた」

思わず大きな声が出て、セオが驚いたように少し頭を引く。

ケイトやアミに色々と聞いてはいたけれど、寄宿学校での国王祭にはどうも暗黙の了解のようなものがいくつかあるようで、それがよく分からなかった。

単刀直入に聞いても良かったのかもしれないけれど、なんだか憚られて、今回必須そうなことしか結局聞けなかったのだ。

やはりセオも、それを見越して心配てくれていたんだろう。

今の間に聞いてしまおうかと口を開く前に、さっきよりも盛大なため息が響いた。

「…ご両親と一緒なんだから、今日は大丈夫だろ?」

「それはまあ、今日はなんとかなったけど」

さっきからどうも呆れられているように感じて、自然と言い訳のようにもごもごと返してしまう。


「誰とも踊ってはないんだよな?」


今度は私が気まずくて視線を外していたところ、セオがそんな私と目を合わせるように、向き直って聞いてきた。

「もちろん。保護者以外と参加するのも踊るのも、4年生しかダメなんでしょう?」

それがタブーだということは、聞いていた。

社交界デビューするための礼儀作法が身についていなければ学校主催でも禁止で、4年時にはダンスも含めて参加資格試験があるらしい。

進路に直接関わる教育機関だから、私の考える中高や大学のイメージよりも、ずっと厳しいようだった。

私が聞き返すと、セオは少しだけ眉を寄せる。

「ちょっと違う…エスコート()()()のが、4年生だけなんだ」

含みのある言い方で訂正をされるけれど、何が違うのかよくわからず首を傾げる。

エスコートできないなら、一緒ではないのだろうか。

「誘われることは、できるってこと」

今度は端的に言い換えられて、うーんと逡巡してから、やっと理解した。

「ああ、4年生に誘われたら、何年生でもエスコートしてもらえるってことね?」

クラスは学年で別れてはいないので、違う学年の男女が親しくなったりもするのだろう。

まだ入学して半年で、他学年の方の名前すら怪しい私には、確かに今回は全く縁のない話ではあるけれども。

仮に私が4年生の誰かに誘われたら、お受けすることはできるということだ。


「でも確か、晩餐会で誘う相手は本命の人でなくても構わないのよね?」

エスコートの話で盛り上がってしまった私に、ケイトが冷静に言ったことを思い出す。

「まあ、そういう人も多いとは聞くけど」

確認するとセオも同意するので、その話自体は正しいらしい。

なら、そこは私の礼儀作法さえどうにかなれば構わないのではないかと思ったけれど――私の礼儀作法の未熟さを心配されたということか。

確かに半年ではまだまだ付け焼き刃で、仮に4年生に誘われていたとしても、相手に恥をかかせる可能性は十分にある。

セオは相変わらず心配性なんだからと、生暖かい気持ちになった。


「じゃあ、セオに許してもらえるまでは、もし誘われても誰とも踊らないわ」


そもそも年に一度しかない会で、次は来年にはなるのだけれども。

それでなくても、私が淑女の身のこなしや礼儀作法を身につけるのは、まだまだ時間がかかるだろうし。

それでも心配されている限りはと約束すると、セオは「今そんな話してたか?」と訝しげな表情をするだけだった。

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