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4. 慣れた日常

寄宿学校に入学してから、何も変わらないなんてことはなかった。

案の定というか、セオはBクラス、私はEクラスで別のクラスだったのだけれど。

同じ敷地内とはいえ、想定以上にクラス毎の校舎が離れているので、道ですれ違うようなこともない。

体育や専科など合同クラスもあるけれど、基本的に隣のクラスと組み分けているので、授業も全く被らず。授業時間内に校内で見かけることすら、ほとんどなかった。


授業が終われば自由時間なのだけれど、寄宿舎もクラス毎になっているせいで、新入生は特に、なんだかんだとみんな同じクラスの子たちと集まっているようだった。

そもそも携帯もないような中で、時間や場所の約束もなしに会えるほど狭い敷地でもないというか。

上級生に聞いた話では、学年が上がれば他のクラスとの交流や全体で集まる時間も増えるらしいけれど、新入生はまずクラスで人脈を作るのが先とのこと。

確かに、小さいコミュニティ内の方が人との繋がりが生まれやすいというのは、聞いたことがある。

クラスが離れたらとセオが心配していたのを、マンモス校でもないのに気にし過ぎじゃないかと実は思っていたけれど、本当にその通りだったなんて。

何度か遠目に見かけたことはあってもわざわざ声をかけるような距離でもなく、セオとは入学後はほぼ会話していなかった。


「イライザ、次の授業は教室移動でしょう」

「そろそろ行こうよ」


とはいえ、私もひとまず声をかけてくれる友人も二人できて、なんとか二度目の学校生活に慣れてきたところだ。

わかったと返事をして、刺繍道具だけ持って席を立つ。

次の授業は一クラスでは人数が少ないので、隣のFクラスと合同で。教室は隣の校舎になるので、少し歩かなければいけなかった。


実のところ、学校では依梨として残っている知識が少しは役に立つこともあるかもしれないと思っていた。

けれど、そもそも寄宿学校というもの自体が学業優先ではないようで、勉強的な教科は大体が学術研究の一環に近く、選択制の授業。

試用期間の授業に参加してもみたけれど、世界ごと違うから地理や歴史は役に立たないし、語学は当然まだ人並み以下。

生物化学や物理は大丈夫かと思ったら、中世的な世界観のこの国では学問としてまだ発展途上で、こちらの知識も逆に使えない。

早くも修学的な道は閉ざされたように思いつつも、ひとまず決めなくてはいけなかったので、一般的な貴族子女が受けるような、規律教養や芸術の授業を選択しておいた。

家庭教師にも教えてもらっていたとはいえ、教室移動までして刺繍の授業なんて。

思い描いていた学校生活とは、やはり違うものね。


「今日からは、来月の国王祭で飾るガーランドとかオーナメントを作るって言ってたわよね」

前を歩くケイトが、振り向きながら言う。

そういえば、前回そんな話をしていような気もするけれど。

「もう国王祭の時期なのね、この前入学したばかりな気がするのに」

この世界で目を覚ましてから、常に慣れるのに必死だったせいもあるけれど、学校が始まってからの3ヶ月も、なんだか考える間もなく、あっという間に過ぎ去ったように思う。

確かに、入学の頃に比べると、少し風が冷たくなってきたような。

「でも国王祭が終われば冬季休暇でしょう、やっと家に帰れるわ」

感慨深い気持ちになる私の横で、アミが思い出したように休暇の話に話題を変えた。


時の国王の誕生日を祝うのが、この国の国王祭。

首都だけでなく全ての町や村で、数日前から近くの木々に色とりどりの飾り付けの準備をして、当日はご馳走様を食べてお祝いするらしい――陛下が見て周るわけでもないので、多くの人にとっては多分、ただの騒ぎイベントだと思われる。

今の国王陛下は12月生まれなので、冬の訪れを感じる季節の行事のようにも扱われているらしい。

私自身は話に聞いているだけで、実際に経験したことのない行事なので、今は話を逸らしてくれるのは有難い。


「そうね。アミのご実家はここよりずっと南で、暖かいのよね?羨ましいわ」

ただ、帰省といっても実家という感覚でもないので、楽しみというよりは複雑な部分もあって。

それよりも、3月まで続いたのあの寒さが待っていることを思い出して、冬なんて来ないで欲しいとさえ思ってしまう。

暖炉があるとはいえ、ストーブもエアコンもない北方の冬は、未経験の私には辛かった。

「イライザはここから少し北なんだから、まだいいじゃない!うちなんて、川も湖も凍るほど寒いんだから」

思い出して怯えていると、ケイトに怒られる。

彼女の家の領地は首都よりずっと南東の内陸にあって、乾燥して土地も痩せ、できるのは芋の栽培くらいと常に嘆いている――それを改善する方法を学びたいのだとも。

まあ確かに、ハーヴェイ領はもう少し緑豊かかもしれない。

そんなケイトにアミはくすくす笑って、それなら来年の冬には二人とも是非遊びに来てねと言ってくれた。

貴族が出てくる漫画や小説にありがちな階級イジメ的なものもなく、こうして来年の話もできる友人ができるなんて。

思い描いていた学び方にはならなさそうだけど。

セオと心配していたよりはずっと楽しく、これからの学生生活が送れそうだわ。


「三人とも、のんびりしてると遅れるわよ」


同じ授業をとっている先輩に声をかけられ、慌てて中央棟の時計に目を向けると、もう授業開始まで数分しかない。

それぞれのクラスの校舎は、職員室のある中央棟を中心に円状に配置されていて、背の高い中央棟の屋根下の時計は、どこからでも見えるようになっている。

隣の棟に歩いて行くだけでもそこそこ時間がかかる距離ということもあって、時計から視線を下げても、反対側の棟の様子は全く伺えなかった。

セオも元気でやっているのかな――いや、私なんかが心配するような立場でもないか。

ふと見ると先生が扉を開けて出てくるのが見えて、それこそ関係ない心配をしている場合でもないと、三人とも走らないように教室まで足早に急いだ。

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