冒険者親子のクリスマス
「サンタクロス?」
「サンタクロースだよ」
深まる夜、年の瀬を控えたある日。
ある冒険者の親子は自宅にて夕食後、リビングで団欒していた。
父リチャードはこの時期、幼少の頃母から「赤い衣を纏った老人が聖夜にやって来て子供の欲しい物をプレゼントしてくれる日がある」という話を聞いたと娘のシエラに教えた。
シエラの母、エルフのアイリスはシエラに「もしサンタさんが何かくれるなら何が欲しい」と聞くが、シエラは一緒のソファに座る父と母に手を伸ばして「二人がいるなら何もいらない」と答えて二人の服の裾を握った。
「嬉しい事を言ってくれるなぁ。だが、彼も仕事らしくてね。ちょっとしたアクセサリーなんかでも良いんだよ?」
「そうそう、こんな服が欲しいなあとか無い?」
「服もアクセサリーもいらない。あ、でも貰えるなら」
「お、何かあるのかい」
「新しい剣が欲しい」
「そ、そうかそうか。剣かぁ」
うーむ、10歳の女の子が欲しがるにしては少し厳ついが、丁度新調したばかりの新しい剣を隠してるし都合は良いか。
父リチャードはそんな事を考えながら婚約者のアイリスと目を合わせ、アイコンタクトをするとお互い頷く。
「じゃ、じゃあシエラちゃん。パパがサンタさんに新しい剣をくれるようにお願いしてくれるみたいだから、今日はママと一緒にお風呂に入って一緒に寝ようね」
「パパは一緒に寝ないの?」
「ああ、パパはサンタさんに手紙を書かなければならないからね。手紙を置いておけばサンタさんがやって来て、眠ってる間に剣を届けてくれるさ」
「それじゃあお礼言えないけど。ん。でもパパとママが言うなら、そうする」
そう言って納得したかのかは分からないが、シエラはアイリスと風呂へ向かっていった。
その間にリチャードは自宅の武器庫へ向かうとシエラ用の新しい剣を取り出してリビングに戻り、棚に置いていたリボンを柄に巻き付けてソファの下に隠した。
そして、風呂から上がったシエラとアイリスを寝室へ送ると、リチャードはリビングでシエラが寝付くまで小説片手にコーヒーを口に運びながら今の状況を楽しんでいた。
思えばこの時期はサンタクロースを捕まえるだのなんだのと、父さんや母さんを困らせた事もあったな。
今は亡き父母を思い出しながら、リチャードはカップに入ったコーヒーに写る自分の顔を見てニヤリと笑った、つい笑みが溢れたと言う方が正しいか。
「さて、ではそろそろ行くかな」
リチャードはソファの下から剣を取り出すと、2人が眠る寝室に抜き足差し足忍足で向かい、出来るだけドアノブの音が鳴らないようにそっと扉を開けた。
「剣届いたの?」
爆睡しているアイリスの横、リチャードの気配にハッと目を覚ましてシエラが布団を蹴り飛ばす勢いで飛び起きた。
「ま、まだだよシエラ、早く寝ないとサンタさんは来ないぞ?」
間一髪剣を後ろ手に隠すリチャードが冷や汗を流しながら苦笑する。
「そっかあ。でもお礼言いたいから起きてたいなあ」
「お礼ならパパが言っておくから」
「えー、でも新しい剣嬉しいから、ちゃんとお礼したい」
寝てないとは。子供は元気だなあ。父さん母さんもこんな心境だったんだろうか。
リチャードはなかなか寝付かない娘の横、ベッドに入りながら幼少の頃を再び思い出し、当時の父母の心境と今の自分の心境を重ねた。
結局、シエラが寝付いたのは一時間二時間と時間が過ぎて、廊下の柱時計から鐘が3回聞こえてきた頃。
リチャードはやっとこさ背中に隠していた剣をベッドの横に立て掛けるとシエラの腹をポンポンと優しく撫でながら気絶する様に眠りに落ちたのだった。