表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

公爵は黒髪黒目がお好き

「ハァ」


 洗面所で鏡を見ながらため息を吐いた。これが公爵家に嫁入りに行く人間とは、誰も思わないだろう。そりゃそうだ。欠片も喜んでなど無いのだから。


「きっと公爵もこの容姿を見たら、嫌な顔をするでしょうね」


 長い黒髪と黒目を見て、再びため息を吐いた。


「せめてドレスは、仕立て屋に一番似合うと言われた物にしましょう」


 部屋の外に出て、近くにいたメイドに命令する。


「ねえ、あなた。ハートに部屋まで来るように伝えてちょうだい」


「かしこまりました」


 メイドが遠くで舌打ちをしたのを、私は聞き逃した事にしてあげた。




「お嬢様、お待たせしました」


 ドレスの着付けが終わり、鏡で全身を確認する。


「やっぱり灰色のドレスを選んで正解だわ。これを着ていると良い気分になれる」


「お似合いですよ。お嬢様」


「ありがとうハート。忙しいところごめんなさいね。私が頼めるのは、貴女しかいなくて」


 ハートは私が信頼できる唯一のメイドだ。私が悲しんでいるとき、自分のことのように親身になってくれる。こんなにいい子は他にいない。


「お気になさらないでください。お嬢様の立場は存じております。今まで色々ありましたが、お嬢様にお仕え出来て良かったです」


 ハートは腰を折って頭を下げた。


「私が料理長に侮辱されたとき、お嬢様だけは助けてくれました。貴女はでたらめな噂とは似ても似つかない、とてもいい人です。お嬢様の幸せを心から願っています。公爵家でも、どうかお元気で」


 彼女との別れは辛い。でも、涙の別れにはしたくない。私はとびっきりの笑顔で返事をした。


「ええ、あなたも元気でね」


 私は懐中時計を確認した。今は11時、まだ迎えの馬車が来るまで時間がある。


「ねえハート。よかったら昼食は二人で食べない? 今日だけは使用人と主の立場なんか忘れて」


 ハートは楽しげに笑い、優しく微笑んだ。


「ふふっ、分かりました。喜んでご一緒させて頂きます」


 それから私はハートと他愛のない会話を楽しんだ。


(こんなに気軽な会話が出来るのは、これが最後かな)


 なんて思いながら。




「やっとクロノを追い出せた。あのバカ娘が居なければ、サターン家も安泰だ」


 小さい頃から腕白ではあったが、子供故だろうと甘く見ていた。言葉使いこそ大人びたが、貴族に相応しい振る舞いとは程遠い。妻も肩の荷が下りてホッとしているだろう。


「やったわね、あなた。今馬車が出ていくのが見えたわ」


 嬉しそうに報告してくれた妻だが、すぐに心配事がありそうな顔をした。


「でも本当に良かったの? わざわざ公爵に迎えに来てもらうなんて、失礼じゃないかしら」


「私もそう思ったのだが、ペルー公爵がどうしてもと言うのでな。断るのも失礼だろう。しかし嫁の貰い手が公爵とは、本当に幸運だ」


 他の貴族は皆断ったのに、ペルー公爵だけは快諾してくれた。本当に嬉しい誤算だ。


「そうね。家柄もいいし、優しいって評判だもの。あんな子でも娘よ。悪い人には嫁がせたく無い。その点公爵なら、安心して送り出せるわ」




 公爵家に向かう馬車の中、私の心は沸々とした怒りと悲しみで満ちていた。誰もが羨む公爵の妻として送り出す。そんな名目で厄介者は家から追放された。


「ウッ……グス」


 一人でいると涙が堪えきれない。


「お父様……お母様……私はそんなに駄目な子でしたか? だから嫌いになってしまったのですか?」


 誰にも聞こえない言葉が零れでては消えてゆく。

 でも何時までも悲しんではいられない。もう直ぐ屋敷に到着する。


「しっかりしなさい私。もう悲しむ時間は終わりよ」


 頬を叩いて気合いを入れ直した時、馬車がゆっくりと減速して、やがて停車した。御者が扉を開けると、執事の老人が私を出迎る。


「お待ちしておりましたクロノ様。ペルー公爵がお待ちです。部屋までは私がご案内します」


 きっと公爵も私の黒髪と黒い目を見て、蔑視の目を向けてくるだろう。私は陰鬱とした気持ちで公爵の元へ向かった。




「どうしよう。今になって緊張してきた」


 客間でクロノさんを待つ間、僕の心臓はバクバクと鼓動している。婚約の話しが舞い込んでから、ずっと今日を待ち望んでいた。だけどいざ顔を合わせるとなると、やっぱり緊張する。


「大丈夫ですよ! ペルー様の初恋。私がメイドとして、しっかりサポートしますから」


「ありがとうティラ。頼りにしてるよ」


「任せて下さい。必ずやペルー様のお役に立ちます」


 ティラは胸を張って、自信満々に宣言した。


「でも、どうしよう。そもそも好みじゃないって言われたら」


「ペルー様は魅力の塊だから大丈夫です! 思わず撫でたくなる金髪。宝石のような赤い目。少し幼さの残る顔。少し低めの身長は抱きしめるのに丁度いい。こんなに可愛いショタっ子に、魅力を感じない人なんていません!」


 聞いてもいない事までベラベラと語るティラ。その勢いに軽く引いた。


「あ、ありがとう。褒めて貰えるのは嬉しいよ」


 そんなやり取りをしていると、客間のドアが開いた。彼女はゆっくりと部屋に入ってくる。

 その姿を見た瞬間僕は衝撃を受ける。目の前に立っているのはまさに女神だった。

 サラサラとした黒髪、神秘的な輝きの黒目。真っ白い肌に整った顔立ち。灰色のドレスがとてもよく似合っている。


「綺麗……」


 思わず口からこぼれ出てしまった。




「えっ……」


 部屋に入って早々、予想外の自体に頭がパニックになる。

 聞き間違えで無ければ、この男は私の事を綺麗と言った。

 珍しいが故に好奇の目で見られた、この容姿を。


「綺麗……私が? バ、バカじゃないの! この私が……綺麗だなんて」


「綺麗です! 今まで見たどんな女性よりも美しいです!」


 公爵は顔を赤くしながら、強い口調で言い切った。

 それからお互い顔を赤くして、何とも言えない空気が流れた。

 ご覧頂きありがとうございます。金色軌跡です。今回「いいな!」と思うストーリーが浮かんだので、初投稿してみました。美しい女性を見て、思わず本音が溢れる。そんなシーン、良いですよね! 短編、連載問わず投稿して行こうと思います。何卒よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ