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七ページ目 不審者

【REwrite】に黒鉛字が正式入部した翌日、放課後前のホームルームで担任である板書(ばんしょ)せんせーから、今週の土曜日に行われる学園行事【オルタ杯】の各競技で出場する生徒を決めるため、話し合いが行われた。メインイベントである学年対抗リレーやクラス対抗リレー、部活対抗リレーはすぐに決まったが、五十メートル走や百メートル走、借り物競争などの、細々としている競技を今、決めているのだが……今あたしの目の前では、一人の男子生徒を賭けて、かつてない女の戦いが勃発していた。


「…………」

 あたしは不参加の予定の男女ペアの二人三脚走。例の如く、イケメンは半ば強制参加を余儀なくされ、イケメン争奪戦の三種の神器(じゃんけん)を用いた争いが繰り広げられている。


 問題はこの勝負、黒鉛字が提案した勝ち残り戦で決まるのだが、もし黒鉛字が全員に勝った場合、黒鉛字が自分でペアを決めるという条件が先ほど追加された。つまるところもし、いや、何かしらのイカサマで今勝ち残った女子生徒が全員負けた場合、確実にあたしをペアに選んでくると予想出来るからである。ましてあたしは事前に不参加だと言ったが、ここにいる女子生徒全員に睨まれ、囲まれると断言できる。そうなった場合、否が応でも参加せざるを得ない。


 (────……あと三人……頼む、誰か勝ってくれ!)

 他の女子生徒と真逆の願いを込め祈るあたしを前に、黒鉛字が掛け声を上げた。


「それでは行きますよー。じゃーんけーんー……ポン! ──僕はグーです! チョキの方は座って下さい……おや? 誰も居ないようですね。ではこの勝負、僕の勝利ということで! ペアの相手はもちろん、要さんで!」

 ギロッ! グワッ! ギシッ! ゴゴゴゴ……

「……あーもうっ! わーったよ。やりゃあいいんだろ? やりゃあ!」

 ……この状況で断る勇気は、残念ながらあたしにはない。絶対殺される。うん。


「ん。決まったようだな。後半の種目はまた明日のこの時間で決めるから勝手に帰るなよ~。じゃあ起立~……礼」

 せんせーがそう言うと、それまで重く淀んでいた教室の空気が一気に軽くなる。ともあれ、ようやく部室へ行けそうだ。……後方を警戒しながら行くとしよう。どこかにナイフらしき鋭利な刃物を持った女子生徒が突然襲ってくるかもしれない。

あたしがそ~っと教室を出ようとすると、黒鉛字があたしの腕を掴み、待ってと言わんばかりにあたしを止めた。


「待って下さいよ。同じ部員同士、一緒に部室へ向かいま────」

「断る」

「へ?」

「断ると言ったんだ。行くと言っても、寄り道してから行くし」

「なんだ。寄り道ですか。そのくらいなら僕も付き合いますよ」

「……ッ! ……そのくらい……か……」


 あたしは黒鉛字の腕を振り払うと、目に涙を浮かべた少し赤い顔で黒鉛字をキッと睨んだ後、教室から飛び出した。やっぱりそうだ。あいつは良い奴に見えただけだった。一瞬でも信じたあたしがバカだった。あたしのことを何かしらで知っているのなら、今行こうとしているところくらいわかって欲しかった。この時間は奪われたくなかった! 毎日、どこかで必ず行くあの場所に、誰も来て欲しくないから!


「くっ…………!」

 いつの間にか降り出した雨に、あたしは全身を濡らされた。ふと立ち止まり顔を上げる。目には大粒の涙が流れているはずなのに、この雨のせいか、どんなに泣いても枯れない。お気に入りのスカジャンは水分を含んでいき、あたしの肩に重くのしかかってくる。トボトボと再び歩きながら、親友があの日落ちた地面の場所へ向かうと、いつものように綺麗な蒼い花が一輪咲いていた。

 この花の名前をあたしは知らない。でも名前を知らなくてもその健気な姿から、いつも準子が残していった花だということはあたしには、いや、あたしだけが知っている。


「はは……やっぱりダメだあたし。準子がいないと元気が出ないや……」

 その花に話しかける様にあたしは呟いた。当然、花は何も答えてくれない。すると、花ではなく、後ろから声がした。多分、黒鉛字だ。


「……さっきはすみません」

「…………何しに来た」

「僕も彼女にお供えを──」

「ふざけんな! あんたは関係ないだろ!」

「関係なくなんかありません!」

「……ッ!」

「関係があるから僕はここにいます。……あの事件は、()()()()()()()()()()()()……」

「はあ? 引き起こしただと? 当事者でもないお前が────」

 ドォオオオン!

『!?』

 あたしが言いかけた直後、三階の廊下の窓から煙が上がった。なんだ? 爆発?

「……話はあとで。行きましょう」

「…………」


 黒鉛字の話が気になるが、今はそれよりもあの煙だ。一体、何が────

 煙が上がった廊下付近に着いたあたしたちだったが、同じように何事かと見に来た生徒達でごった返していた。こういう時は──

「おい、黒鉛字! こっちだ!」

「え!?」

 一度屋上へ向かい、緊急用の長梯子を煙が上がっていない方向へ降ろし、先端のフックを掛け、下りていく。

「ふん!」

 パリン! と軽く飛ばした文心で窓を割り、薄暗い教室へ侵入する。煙はほとんど外へ出たのか、手で口を覆う必要はなさそうだが、電気が付かないのか少し暗い。よく見ると、二人くらいの教師が火元らしき場所で何やら動いている。消火活動……ではなさそう?


「ん……?」

 あたしが目を細めてその様子を見ていると、教師が一人、あたしがいる場所まで、飛ばされて来た。

「ッ!」

 間一髪、右に転がって避ける。左にいた黒鉛字が「大丈夫ですか?」とあたしを心配する。それより……

「……なあ黒鉛字。アレ何だと思う?」

「……どう見ても不審者、ですね……」


 奥にもう一人何かをしていた教師が、近くの机に勢いよくぶつけられたのか、意識を失っている様に見える。さっきこの二人が動いていたのは消火活動ではない。

二人はこの男と戦っていたのだ。教師として、生徒を守るために。だが力及ばずこうして飛ばされた。アルティクロスをもつ教師がやられたということは、この男も何かしらアルティクロスに匹敵する力を持っているという証。そんな相手を前に、あたしと黒鉛字は対峙していた。

「────許さない……絶対に……。()()()……!」


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