一人きりのパーティ
氷だ!
諦めていた氷だ。
私がいない間に看護師さんが置いて行ってくれたのだ。
ああ、この氷は、何と美しい輝きを放っているのだろう。
そして、何と言う優しさなのだろう。
看護師さんの思いやりが、ひしひしと伝わってきた。
私は、完全に忘れていた。
手術後まだ、1週間も経っていないことも、
点滴をしたまま、眠りにつかなければならないことも、
まだ、何も食べることも、飲むこともできないことも。
嬉しさが、体中からあふれ出るようだった。
そうだ、パーティーだ、パーティーをしよう。
私は、慌ててCDを取り出した。
入院の時、持ってきたバイオリンコンチェルトが入っているはずだ。
チャイコフスキーか、メンデルスゾーンか、どちらが入っているのか
分からなかった。
どちらでも良かった。
とにかく、バイオリンコンチェルトを聞きたかたのだ。
氷を一粒口に入れる。
イヤーホンから、バイオリンコンチェルトが流れ始める。
メンデルスゾーンだった。
真っ暗やみの中で、バイオリンが奏でている。
優しく、悲しく、荒々しく、そして、歓喜を。
今まで、これほど素晴らしいパーティがあっただろうか。
私は酔いしれていた。
暗闇の中、たった一人きりのパーティー!
T病院の10階で聴くバイオリンコンチェルト!