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〇〇したい女の子たち  作者: 車男
9/45

回りたいあまねちゃん

 「おねがい!」

「もう、しょうがないなあ。いいよ、ねね、つきあったげる!」

「やった!ありがと!」

私、坂上あまねは、放課後の教室でクラスメイトのねねちゃんにお願いをしていた。理由は来週からの体育の授業。鉄棒で、逆上がりをしなければならないのだ。前回りはまだできるんだけれど、逆上がりは幼稚園のころからやったことがないし、できる気もしない…。

「じゃあ、明日の朝9時に中公園で!」

とねねちゃんと約束をしてその日はばいばい。翌日の土曜日、鉄棒をするんだから動きやすい格好がいいよねということで、さすがに体操服は恥ずかしいし名前が入っているのでやめて、半そでのTシャツにショートパンツをはいて家を出た。どっちかというとスカートの方が好きなんだけれど、鉄棒するのにスカートはNGだよね…!お気に入りの、かかとも留まる動きやすいスポーツサンダルに素足を入れて、中公園に着いたのは9時を少し過ぎたころだった。ねねちゃんはそれから5分くらいしてやってきた。お互いにすこーしだけ遅れるのはいつものことだ。

「おはよ、ねねちゃん!」

「おはよう。ごめんね、ちょっと遅れちゃって」

「ううん、今日はよろしくね!」

「うん、がんばってできるようになろうね!」

ねねちゃんは小さい頃からダンス教室に通っていて、ダンスだけでなく、鉄棒や柔軟がとっても得意だった。前回り、逆上がりだけじゃなくて、いろいろな技をすることもできちゃうらしい。いいなあ。少し分けて欲しいな。

「じゃあさっそく、やっていこうか」

「お願いします、ねねせんせい!」

ねねちゃんは半そでのTシャツに、7分丈のパンツ、スニーカーを履いてきていた。学校では後ろで一つにくくっている髪は、今日は長く伸ばしている。私とねねちゃんは公園の端っこにひっそりと置いてある鉄棒に向かう。よくこの公園には来るけれど、鉄棒で遊んでいる人はあまり見ない。高い、中くらい、低いの3タイプがあって、私たちは中くらいの鉄棒で練習することにした。

「まずは、前回り、できる?」

「うん、それはなんとか!」

と言って、私は両手で鉄棒をグッと握ると、体を浮かせて、ぐるりんと回ってみた。ばたん、と足から激しく着地する。砂ぼこりがもくもく上がった。

「ふむふむ、今度は回って、そのまま着地せずにキープしてみようか?」

「できるかなあ?」

キープ、キープ、と心に唱えて、また回る。一回転して、なんとか体を浮かせたまま、キープできた。

「そうそう、そんな感じ!着地しちゃうとあんまりきれいじゃないから、いったんキープ、だよ!」

「おっけい!」

「じゃあ次、逆上がり…」

「はい…」

私は持ち手の向きを変えて、逆上がりの姿勢をとる。

「地面をけって足をグイッと上げて、同時に手でグッと体を引き寄せるんだよ」

「う、うん」

言葉ではわかるんだけれど、引き寄せるっていうのがなかなかできなくて、地面を蹴るんだけれど、体はちょっと浮いて、また落ちてしまう。そのたびに足が地面にばたん、ばたん、と着地して砂が舞った。何回かチャレンジしていると、晴れていて地面も乾いていたせいか、サンダルは砂まみれになってしまった。

「次は、ねねが背中を支えてみよっか!」

「うん!」

なかなか体が上がらないので、ねねちゃんに背中を押してもらうことに。私が地面をけって足が上がると、ねねちゃんがすかさず背中に手を置く。

「うぐう」

けれどそれもむなしく、また足が地面についてしまう。何回かやっていくうちに、少しずつ体が上がってはきたけれど…。まだ成功とはいかなかった。意味もなくサンダルをはいた足で、鉄棒の下の地面をザリザリ、素足にも砂がかかっちゃって、足全体がなんとなくザラザラしているのを感じる。

「ちょっとキューケイしよっか!」

「そう、だね!」

公園の時計を見ると、もうすぐ10時になるころ。いったん近くのベンチに座って、持ってきたお茶を飲む。ごくごく。

「難しいね、逆上がり」

「そうだね、ねねも小さいころ何回もやってたもん!できなくて泣いちゃったなあ」

「えー、ねねちゃんが?」

「うんうん!」

ねねちゃんが小さい頃のことを話していると、急に下を向いて、スニーカーのテープをベリベリとはがして、両足ともスポスポと脱いでしまった。現れたのは赤くなった素足だった。足の指がくねくねと動いている。ねねちゃん、靴下、履いてなかったんだ…。

「あ、えへへ、ちょっと急いでてくつした履かずに来ちゃったんだ」

私が足を見ていたせいか、ねねちゃんが恥ずかしそうにはにかみながらそう言った。いつも学校では靴下をしっかり履いてたから、ちょっと意外だな。

「そ、そうなんだ!でも涼しそうでいいね!」

「私も、あまねちゃんみたいにサンダルで来たらよかったかなあ」

「そうだね、涼しい、けど、砂でざらざらだよ」

そう言って、私も足元に視線を落とす。黒いサンダルだったけれど、砂で全体が白っぽくなっている。足の甲を指で触れると、うっすらと砂が付いてきた。

「そっかあ、砂だもんね、鉄棒の下。…そーだ!」

ねねちゃんはいきなり、裸足のままベンチから降りると、ペタペタと私の前を一周した。

「どーせなら、ハダシでやらない?ねね、昔ハダシでやってたんだ、鉄棒!」

「え、裸足?」

それはさすがに…、と思ったけれど、ねねちゃんが言うならそちらの方がいいのかな。裸足になるのは別にイヤではないし。

「うんうん、そのほうが足のカンカクもつかみやすいと思うよ!」

「わ、わかったよ、じゃあ私も…!」

私はそう言って、サンダルのかかとの固定を外して、素足を砂の地面につけた。足の裏全体に、細かな砂のざらざらや、小石のちくちくを感じる。そのまま立って歩くと、小石がちくちくと刺さって、

「あいて、あて…」

足取りがおぼつかなくなって、ヘンな歩き方になってしまった。ねねちゃんはすたすた歩いてて、すごいな。

「あはは、あまね、あんまりハダシになったことない?」

「う、うん、家の中くらいしか…」

「ねねは、ダンスのときけっこうハダシだからねー。足の裏はじょうぶなんだよっ」

「あ、そうなんだ…」

2人そろって、ベンチの下に靴を脱いで、鉄棒と向き合う。ねねちゃんが鉄棒の下の地面を足でならしてくれて、小石のちくちくはなくなった。

「じゃあ、さっきと同じように、地面を思い切りけって、手でグイッと引き寄せるんだよ!ねねが支えるからね!」

「うん、おねがい!」

「じゃあ、あまねのタイミングで!」

私は数回深呼吸をした後、裸足で地面をけって体を浮かせる。同時に腕に力を込める。背中側では、同じく裸足のねねちゃんが支えてくれる。

「ふんぬうう…やっ」

「わ、まわったよ、あまね!」

「はあ、はあ、う、うん…!」

自分でも驚いたことに、ねねちゃんのサポートはあったけれど、初めて、逆上がりをすることができた!

「やったね、できたよ!」

自分ではまだ実感がなくって、ねねちゃんが喜んでくれたことで私もすごくうれしくなった。

「うん、できた、できた!」

「何回かやって、そしたら支えなしでもやってみようか!」

「うん!」

その後、何度かねねちゃんのサポートありで逆上がりできるようになると、

「じゃあ、次はねねのサポートなしで、やろうか!」

「う、うん…!」

裸足で地面をけったり走ったりしているものだから、足の裏がだんだんじんじんしてきていた。そろそろ成功させないと…!

「じゃ、じゃあいくよ…」

「うん!」

私は勢いをつけて地面をけると、裸足の足を浮かせる。高く伸ばして、同時に腕で体をグッと鉄棒に引き寄せる。そしてそのまま回る…ことはできなかった。足が再び、地面に戻ってっくる。

「うあー、おしい!」

「もういっかい!」

「うん!」

その後何回か繰り返した後の一回。次こそは、という一心でやった一回。裸足の足を地面にググッとつけて、一気に駆けだす。地面からけり上げて、足が上がると同時に、ぐぐっと体を引き寄せる。そしてそのまま…!

「あまね!」

裸足の足を地面につける。私は鉄棒を握ったまま、はあ、はあと息をついていた。まだその実感はなくって、だんだんと嬉しさが込み上げてきた。

「で、できた…!」

「できたね、あまね!」

「うん、うん!」

ついに、自分一人で、逆上がりができた!私は嬉しくって嬉しくって、自然と泣き出してしまう。

「あまねー、あはは、なくなよー」

「だって、えへへ、やっとできたんだもん!」

落ち着いたころに、もう一度やってみる。一度つかんだ感覚は忘れないのか、そのときもしっかりと回ることができた。

「やったね、あまね!」

「うん!ホントにありがとう、ねねちゃん!」

「えへへ、どういたしまして!」

「…あ、もうそろそろかえらなきゃだね…」

「あ、ほんとだ!」

公園に立つ時計を見ると、時刻はもうすぐ12時。いつのまにか3時間も、練習してたんだな。それに気づくと、裸足の足の裏もじんじんとしてきた。見てみると、土で全体が茶色くなっていた。表側も砂で白っぽくなっている。ねねちゃんもけっこう汚れていた。

「足、どこかで洗わなきゃだよね」

「あ、そのトイレのとこにあるよ、洗うとこ!」

ねねちゃんの指さした方を見ると、水飲み場と一緒に、蛇口のついたところがあった。ひねると、冷たーい水がざぶざぶ。足を差し出すと、ひんやり。暖かくなった体を冷やしてくれた。

「うはあ、つめたいね!」

「うん、でも気持ちいい!」

パシャパシャとして足の土を落とすと、持っていたタオルでそれぞれ拭いて、私はサンダルを、ねねちゃんはスニーカーを履く。かかとまで履くのはきゅうくつに感じて、ストラップは留めずに履いた。ねねちゃんも、靴のかかとをつぶしていた。ちょっとだらしないかもだけど、今日だけは!

「じゃあね、また学校で!」

「うん、今日はホントにありがとう!」

ねねちゃんとお別れをして、その日は家に帰った。夜になると、筋肉痛が身体を襲った…。

 そして月曜日、体育の時間。逆上がりの授業だった。

「ではそれぞれ、練習を始めてください!」

私とねねちゃんは同じ鉄棒でそれぞれ逆上がりを練習する。ねねちゃんはさすがにもう慣れていて、あっというまに成功させてしまった。私も、できる、できると信じながらチャレンジ。…でも、公園で練習下みたいにはできなかった。なんでだろう…。

「あまね、ひょっとしたら…」

「え?」

何度か挑戦してもできないままの私に、ねねちゃんが言う。

「ほら、あのとき、ハダシでやってたからさ、もしかしたら…」

「裸足の方が、できる?!」

そっか、あの時成功したのはずっと裸足でやってたときだったっけ。ということは、裸足になればできるかも!そう思った私は、鉄棒に手をついて、靴を脱ぎ、靴下も脱いでしまった。

「あれ、あまねちゃん、ハダシだ!」

「ホント!どーして?」

「あ、あはは、逆上がり、このほうができるかなって…」

1人だけ裸足になった私に、他のクラスメイトが不思議そうな目を向ける。少しだけ恥ずかしさを感じながら、私は鉄棒をグッと握る。隣では、ねねちゃんが見守ってくれている。

「ふう、はあ…」

「がんばれ、あまね…!」

そして私は、裸足の足で地面をけった。


つづく

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