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〇〇したい女の子たち  作者: 車男
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お世話されたいかれんちゃん

 「お姉ちゃん、朝だよ、遅刻だよ…」

月曜日の朝、眠い目をこすりながら、隣にある双子のかのんお姉ちゃんのベッドをのぞく。いつもなら早く起きて身支度を済ませて、私を起こしに来るお姉ちゃんが、時間になっても起こしに来なくって、心配になって自分で起きてしまった。時計を見るとすでにいつもより30分チコクだ。急いで準備しないと!

「お姉ちゃん、お姉ちゃん、ねえねえ」

ゆさゆさと布団をお姉ちゃんごと揺らしていると、うーん、ときつそうな声が返ってきた。

「ごめん、かれん、あたし、熱があるっぽい…」

「ふええ、ほんと??」

布団にくるまって寝るお姉ちゃんのおでこを触ってみると、確かにすごく暑くなっていた。汗もかいていて、息もあらい。

「お、お母さん、よんでくる!」

私は慌てて1階に降りて、お母さんをよんだ。風邪かなということで、水枕を作り、おでこに熱さましのシートを貼り、常備薬の中から熱さましを飲ませる。さすが看護師をしているお母さん、手際がすごくいい!

「私も今日は学校休んでお姉ちゃんと一緒にいる!」

という私の主張は簡単に反対され、私は一人、お姉ちゃんのいない学校へ行くことになってしまった。…自分一人ではできることが少ない私。制服の着替えや、バスの乗車などなど、どれもお姉ちゃんについていく毎日だった。現に、いままさに、制服のネクタイがうまく結べない。自分でやるのは、入学して以来初めてじゃないかな…?もう高校2年生なんだけれど…。

「かれん、チコクするわよ、あとでいいから、はやく出なさい!」

部屋に顔を出したお母さんの声にはっとして、時計を見ると、すでにバスの時間が迫っていた。これを逃すと次のバスでは完全に遅刻だ。

「ええ、でも、ネクタイもしてないしタイツもはいてない…」

「あとでいいから、とにかく早く!」

そう言って、手に持っていたネクタイを私のカバンに押し込むお母さん。幸い今日の授業の準備は、昨日の夜のうちにお姉ちゃんがやっていてくれて忘れ物はないだろう。ただ、なんとか制服は半そでシャツにカーディガン、スカートを着ることはできても、ネクタイは結べておらず、タイツも履けておらず、素足のままだった。いつもはお姉ちゃんがしてくれるんだけれど、今日はそのお姉ちゃんがダウンしている。背中までの長い髪はいつも結ばないのでそのまま、ブラッシングをしていく。季節はもうすぐ夏なんだけれど、私はいつも決まって制服にタイツを合わせていたものだから、この時は靴下を履けばいいじゃないという発想がなぜか出てこなかった…。

「ほらほら、いそぐいそぐ…」

「あううううう」

お母さんは私にカバンを持たせて、素足のままローファーを履かせて、

「はい、いってらっしゃい!気を付けてね!」

とぱぱぱっと送り出してくれた。お姉ちゃんのいない一日、心配だよお…。

 最寄りのバス停に着くと、まだバスは来ていないのか、学生や仕事に行く人たちの列ができていた。その一番後ろに並んで待っていると、やがてバスがやってくる。屋根がないバス停で、夏が近づく日差しは朝なのに強い。じんわりと汗をかいていた。特に、いつもと違う足元が気になって仕方ない。素足に、ローファー。足の裏に汗をかいているのか、ぬるぬるした感触を覚える。乗り込むとバスはいつもと同じく満員で、立って手すりを持って、学校近くまで揺られることになる。半分ほどしたとき、ラッキーなことに私の目の前の席が空いた。周りをちらちら見るけれど、他の人は座りそうになかったので、すすすっと私はそこに腰を下ろした。初めてじゃないかな、すごくラッキー♪座るとすぐに、汗をかいてムレムレになった素足をこっそりとローファーから外に出す。バスの中は冷房が効いていて、汗をかいた素足をそのひんやりとした空気がなでていった。脱いだローファーの上に素足を置いて、学校近くまでうとうとしながらバスに揺られる。はっとしたときにはバスはもう着いていて、私は慌ててローファーを履きなおすと、IC定期券をタッチしてバスを降りた。危なかった…!気を付けなきゃ!

 バスを降りると、学校までは緩やかな坂が伸びている。一緒にバスに乗っていた生徒や、自転車で頑張って坂を上る生徒、その上には緑の葉っぱを茂らせた桜の木が覆っている。足元のムレムレと、首筋に汗が伝うのを感じながら校舎内に入ると、日陰になっていくらか涼しかった。私の学校は土足で入るので、靴は履き替えず、ローファーのまま階段を上る。靴箱はあるけれど、これはグラウンドでの体育で使うシューズや部活用シューズが入っている。…体育?あーーー、体操服と体育館シューズ、忘れてきちゃった…。準備して机の横に置いてあったのに…!見学しよう…。体育は高校生なので男女別にする。女子の方の先生はまだ若い女の先生で、忘れ物をしてもきつく怒られることはないけれど、評価が下げられてしまう。そして忘れたときの体育は、制服のまま見学。けれどたまに作業を任される時がある。今日はどうかな…。

 教室に着くと、クラスメイトのグループが、私の机の周りに集まっていた。いつもの朝だ。

「あ、かれんおはよー」

「今日も眠そうだねー」

「なんか、元気なくない?」

「おはよー、うん、お姉ちゃんが熱出しちゃって…」

私は席に座って、カバンから道具を机の中にしまう。周りにいた子たちがそれを手伝ってくれる。一人の子がネクタイを素早い手つきで結んでくれた。いつもお父さんにしてあげてるみたい。私みたいだな。いつもお姉ちゃんにしてもらってるから。

「そうなんだ、大丈夫そう?」

「うん、お母さんが病院に連れていってくれるみたい」

「ならよかったね!」

「私も一緒に休むって言ったのに…」

双子なので、もちろんクラスは別々。けれど学校にお姉ちゃんがいないのはやっぱり心細い。いつもなら休み時間は私のクラスに来てくれるのに、今日はいないのだ。

「おはよー、みんな、かれんも!」

「あ、おはよー」

「…あれ?かれん、今日タイツは?」

まだローファーを脱いだりしてはいなかったけれど、グループの子の一人に気づかれちゃった。私がわけを説明すると、

「あはは、靴下履いてきたらよかったのに!」

うん、そうだよねー。でも、朝の私はなぜかその考えがなかったんだよ…。周りに集まった子たちを見ても、みんな靴下を履いていて、素足なのは私だけのようだった。それを意識すると、少しだけ恥ずかしいな…。

 朝のホームルームが始まると、みんな席に着く。私は窓ぎわの一番後ろなので、ちょっとだけ靴を脱いでも目立たないかな。先生が話している間、私は椅子の下でローファーを脱いで、またムレムレになった素足をもにもにと動かしていた。授業が始まると、私は素足を机の前や横についてる棒に置いたり、また椅子の下で組んだりしていた。ローファーを履いてるとやっぱり暑くって、授業中はほとんど脱いでしまっていた。ちなみに、タイツの時も同じような感じだ。ずっと靴を履いてるのって、なんか嫌なのだ。お姉ちゃんには、「ちゃんと履かないとおぎょうぎ悪いよ」って見つかった時言われちゃうんだけれど…!

 「え、かれんちゃん、体操服わすれちゃったの?」

「うん、家に置いてきちゃった」

「残念…。一人で先生に言いに行ける?」

 教室での授業を、ほとんどローファーを脱いで過ごして、4時間目はとうとう体育。体操服も体育館シューズも忘れた私は、みんなに心配されたけれど、制服のまま体育館へ向かう。カーディガンは暑くなったので教室に置いて、半そでシャツだけになっている。みんなは体育館の下にある更衣室で着替えて、靴も体育館シューズに履き替えてから体育館へ入る。体育館に着くと、シューズのない私はローファーを脱いで裸足になって入る。ペタシ、ペタシ、と汗で足の裏が床に張り付いて、またはがれる感触。それに砂が積もっているのか、細かなザラザラを感じる。

「すみません先生、2年A組の武井です。ごめんなさい、体操服と体育館シューズ、忘れました…」

「はい、わかりました。A組の武井さんね。今日は見学です。記録もとっておきます」

体育の女の先生は淡々と出席簿に何かしらチェックをしていた。忘れ物で怒られるのもヤだけれど、こう、事務的に済まされるのもなんかヤだなあ。

「武井さん、授業が始まったら頼みたいことがあるんだけれどいい?」

着替えを済ませたクラスメイトが入ってくる中、一人、制服に裸足で座っていた私に先生が話しかけてくる。

「…はい?」

「5,6限目でスピーチ大会があるでしょ?そのイスと机を、もう一人のあの子と準備してほしいの。椅子8脚と机2つだからそんなにかからないかなと思って」

そう言って先生が指さした先には、私と同じく、体操服を忘れたのか制服姿の女子生徒が立っていた。体育館シューズは置いてあったみたいで履いているけれど。隣のクラスで、私の知らない子だった。お姉ちゃんと同じクラスかな。

「わかりました…」

「じゃあ、お願いね!」

見学でも、始めと終わりはみんなと同じ列に並んで話を聞く。みんな体育館シューズを履いている中で私だけ裸足なのはかなり恥ずかしかったけれど、すぐに今日の種目、バレーボールの授業が始まって、私ともう一人の子、川谷さんはイスと机の準備のため、ステージ下の倉庫へ向かっていた。

「…もしかして、武井さん?」

「あ、うん、私、武井かれん」

「ホントに双子だったんだね、顔、よくにてる!」

ぺたし、ぺたしとステージに向かって歩く途中、川谷さんが話しかけてくれた。お姉ちゃんのことを知っているみたいで、ほんとに似てるねえ、と感心していた。ステージに上がる階段の横にある小さい扉を開けて中へ入る。高さは1メートルくらいかな、電気を点けると、意外と広い倉庫の中に、パイプ椅子と長机が重ねて置いてあった。油断して裸足のまま足を踏み入れてしまったけれど、体育館と違ってコンクリートのたたきの床はホコリや砂が積もってけっこうざらざらしていた。足、汚れちゃうよ…。

「これを持っていけばいいんだよね?」

「う、うん、そうみたいだね」

足の裏のざらざらを感じながら、一人だけ外で待っているわけにもいかないので、普段使わないキンニクをいっぱいいっぱい使って、川谷さんと2人で机やいすをステージの上へ運んでいく。数はそんなに多くなかったので、意外とすぐに作業は終わった。けれど私にとってはかなりの重労働。最後のイスを運んだところで疲れてへたへたと座ってしまった。

「おつかれさま、武井さん。残りは見学しとこうか」

「う、うん、そうする…」

また裸足のままステージを下りて、体育館の壁際へ。体操座りだとスカートの中が見えてしまうので、足を横にした女の子座りをする。足の裏が見えて、やっぱりさっきの作業でホコリが付いて灰色に汚れてしまっていた。後で足、洗っておきたいな…。

 「ありがとうございました!」

体育の授業が終わり、次は昼休み。普段はお姉ちゃんと一緒に学校のどこかでお弁当を食べるのだけれど、今日は一人。どうしようかなと思いながらローファーに素足を入れようとして、足の裏が汚れていたのを思い出す。

「かれん、どうしたの?」

裸足のまま入り口のところに立ち止まっていた私に、クラスの子が声をかけてくれた。わけを説明すると、

「あ、じゃあ1階の足洗い場で洗っといでよ。はい、タオル。汗かかなかったから、キレイだよ!」

「あ、ありがとう…!いいの、足、拭いちゃって…」

「うん、いいよいいよ、使って!」

「洗って、かえすね」

「べつにいいのにー」

というわけで、ローファーを手に持って裸足のままみんなと一緒に体育館外の階段を下り、1階にある足洗い場へ。こんなとこがあったんだ。足を洗うなんて機会がないから意識したこともなかったな。蛇口をひねると、冷たい水がじゃばじゃばと出てくる。そこに汚れた足を差し出す。

「つめたっ」

思ったより冷たくって、でも気温が高くなっていたからずっと洗っていると気持ちよくなってきた。両足を、たまった水の中に浸して、パシャパシャ。ほてった体が一気にクールダウンしていく。足もきれいになった。水を止めて、借りたタオルで足を拭き、ローファーに入れる。またすぐにムレてしまいそうなくらい暑くなってきた。

 昼休み、教室で、どうしようかなと、さっそくローファーを脱いで席に座っていると、着替えて帰ってきたクラスメイトたちがお昼を誘ってくれた。

「かれんも一緒に食べようよ!」

「なんか、初めてだよね!」

「いつもお姉ちゃんと一緒に食べてるもんね」

というわけで、私の近くの机をくっつけて、4人でお弁当。みんな好きなものや流行りの話を聞けて、とても楽しかった。途中、机の棒に乗せていた素足に、何かさわさわしたものが触れる。

「あ、ごめんね」

「あ、ううん」

どうやら、向かいの子の足が触れちゃったみたい。感触的に、この子も靴を脱いで靴下になっているのかな?机がくっついているので、足元は見えないけれど。お話が落ち着いたところでスマホを確認すると、お姉ちゃんから元気にやってるかな、と心配のラインが来ていた。大丈夫だよ、体操服忘れちゃったけれど、と返信すると、おバカだねーと返ってきた。何も言い返せない、うぐう。

「これ、みんなで食べよ―よ」

一人の子がカバンから取り出したのは、いろんな焼き菓子。親戚からもらったものみたい。

「かれん、お姉ちゃんにももってってあげたら?」

ということで、私の分ともう一個もらえた。大事に大事に、カバンに入れておく。

 5,6時間目は、さっき準備したスピーチ大会。再び体育館へ向かう。土足はできないので、みんな入り口で靴を脱いで、靴下のまま入っていく。気になる子はわざわざ体育館シューズを持ってきて履いていた。私も履きたかったけれど、ないので、ローファーを脱いでまた素足になって入る。周りをみてもみんな体育の後は靴下を履いていて、ここでも裸足なのは私だけみたいだった。ちょっと恥ずかしい。途中10分の休憩をはさんで、2時間連続のスピーチ大会は終了。聞くだけだったけれど、けっこう納得できる内容だったなと思う。また教室に戻って、ようやく長い一日が終わる。

「かれん、今日放課後ヒマ??」

さっき一緒にランチをした子が誘ってくれたけれど、

「お姉ちゃんが家にいるから…!」

ということで行きたい気持ちはあるけれど、やっぱり早くお姉ちゃんに会いたくて私はホームルームが終わるとすぐに教室を出た。お姉ちゃんと一緒に所属してる家庭科部も今日は休みなので、まっすぐ家に帰ることができる。学校近くのバス停でバスを待つと、意外とすぐにやってきた。お姉ちゃんによると、学校前のバス停からはどのバスに乗っても家の近くのバス停に連れていってくれるらしい。乗り込むと、朝と違って座り放題。後の方の2人掛けのシートにゆったり座る。ローファーからこっそり素足をのぞかせて、でもほかに人もいないしということで全部脱いで座席の前に伸ばす。何とか一日乗り切ったな。お姉ちゃんに自慢しちゃおう。スマホのラインで、もうすぐ着くよ、とお姉ちゃんにメッセージを送ると、すぐに返信は来て、具合も朝よりはよくなったみたいだ。そうだ、コンビニでお見舞いを買っていこうかな、と考えたけれど、あいにくお金を持っていなかった。スマホで払えるヤツ(なんとかペイ?みたいな?)も、よくわからなくて全然やっていない。残念…。

「あ、そうだ…」

一つ思い出して、かばんをごそごそ…。あった。さっきもらった焼き菓子。喜んでくれるといいな。

「ただいま!お姉ちゃん!」

「おかえりー、かれん、手、手!」

「あとであとで!」

家に着くと、汗でぬるぬるするローファーを玄関に脱ぎ捨てて、わたわたと2階の私たちの部屋へ向かう。お姉ちゃんはベッドの上でスマホをいじいじしていた。

「あ、かれんおかえりー」

「よかったー、もう大丈夫?」

「うん、薬飲んだら、ちょっとよくなった」

「一人でさびしかったよううう」

私は頭をぐりぐりとお姉ちゃんの胸元へ押し付けた。しばらくぶりのお姉ちゃんだ。いっぱいいっぱい甘えたい!

「…かれん、まずはおちついて、お風呂入って来たら?」

「え、おふろ…?」

どうしてだろ?いつもは入らないんだけれど…。不思議に思っていたらお姉ちゃんが顔を近づけて、

「あし、ちょーっとにおうかも…!」

「ふ、ふえええ」

私はバタバタと、お風呂場へ向かった。


世話をする=take care (Google翻訳より)


つづく

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