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〇〇したい女の子たち  作者: 車男
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観測したい星野さん

 「センパイ、すみませんおそくなりました!」

「もー、先生も待ってるよ!いこう!」

私、星野キララと、後輩の星宮ヒカリは、夜の学校の校門前で待ち合わせをしていた。時刻は午後10時ちょっと過ぎ、もちろん学校には誰もいない。夜間ずっとついている街灯以外は真っ暗だ。

ぎぎぎいいいい。

夜の人気のない場所で、校門の音がとても大きく響いた。近所の人が出てこないか心配だったけれど、私たち1人分が通れる幅だけ開けて、するっと通り抜けた。

「…ちゃんと、制服なんだね」

「センパイ、言ってたじゃないですか!ちゃんと着てきましたよ」

学校に入るし、念のため制服着用で。外を歩いているところを見つかっても、塾帰りって言い訳ができるだろう。

「えっと、職員室に行けばいいんでしたっけ?」

「うん、顧問の赤星先生がこっそり待っててくれるはずだよ」

私とヒカリは学校の地学部。といっても実質活動してるのは私たちくらいで、名前はあってもほとんど来てない部員だらけだった。部長は私。まあ自分が活動できればいいかなって思って、来てない部員に何か言うこともない。今日の活動は、星を見ることだった。数十年ぶりに日本で観測できる彗星を、私は見たかった。

「こんばんはー…」

星宮先生も、こんな夜遅くの活動は公式に許可が出せないらしくって、こっそりとOKしてくれた。あらかじめ示し合わせた職員室の入り口。その扉は本当にあいていた。星宮先生のものか、扉の近くに光る懐中電灯が置いてあって、私たちはすぐに見つけることができた。

「やあ、きたね」

「ひゃっ」

「あ、はい、ありがとうございます…」

暗闇の職員室の中で急に声がして驚いた。星宮先生は自分の机でなにやら作業をしているみたいだった。

「…そろそろ時間だ。その望遠鏡とか一式、持っていっていいよ」

「わあ、準備してくれたんですか!」

「…といっても、地学教室にあったものをクリーニングしただけだけれど」

「ありがとうございます!」

「…センパイ、くつ、ぬがないと」

「あ、ホントだ…」

先生は望遠鏡や折り畳みいすなど、観測に必要なものも準備してくれていた。テンションが上がった私はローファーのまま校舎内に入ろうとして、後輩に注意されてしまう。落ち着け、私!

「靴はそこに置いてていいよ。望遠鏡重いけど、気をつけて」

「はい!」

「あとこれ、屋上のカギね」

「ありがとうございます」

「くれぐれも、気を付けて!!」

私とヒカリは靴を入り口のところに置いて、靴下のまま校舎内へ入った。上履きは昇降口に置いてあるけれど、取りに行くのは面倒だ。第一、隣の校舎で、鍵も開いていないだろう。

「センパイ、わたしそれ持ちますよ」

「え、いい?じゃあお願い!」

同じく白い靴下のままのヒカリに望遠鏡を持たせて、私はカギと観測のものをもって、廊下へ出た。行き先は、この校舎の屋上だ。楽しみ…!

 私の学校は一部5階建てになっている。屋上はその5階の廊下から出られるようになっていた。もちろん、普段はカギがかかっていて、一般の生徒は入れない。静かな廊下に、私とヒカリの、靴下を履いた足音が響く。とん、たん、とん、たん…。

「…靴下のまま歩くのって、変な感じですね」

「ほんとだね、初めてかも」

「…冷たくて、なんか気持ちいいです」

「そう、かな…?」

今の今まではテンションが上がって忘れていたけれど、靴下のまま校舎の中を歩くのは初めてだ。普段みんなが上履きを履いて歩くところを靴下のままって、考えてみればちょっと汚いかもしれない。けれど、足の裏に感じる廊下のつるつるとした感触や、ひんやりとした感触は、ヒカリの言う通り、気持ちよくも感じていた。真っ暗な階段を、スマホのLEDライトを頼りに上っていく。先を行くヒカリをしたから照らすと、足先だけをつけてトントンと階段を上がっているものだから、白い靴下の足の裏が照らされているのに気が付いた。職員室からここまで廊下を歩いたせいか、足の裏には,灰色の足の形がうっすらと浮かび上がっていた。普段過ごしているだけでは絶対につかない汚れ。私もあれくらい汚れてるのかな…。少し心配になった。

 トントン、トントン、と階段を上がり、いよいよ5階。屋上へつながるドアへと歩いていく。足元を照らしていると、歩くたびに細かなほこりが舞っているのに気が付いた。普通は鍵がかかっているせいで、誰もここには来ないのだろう。掃除もしてないはずだし、ほこりが積もっていたのかな…。私はそれまでペタペタと足の裏全体をつけて歩いていたところを、この部分だけはつま先立ちになって通り過ぎた。前を行くヒカリは、気にせずペタペタ歩いている。

「センパイ、カギ、カギ!」

「はいはい、いまあけるよー」

ヒカリが目を輝かせて私を呼ぶ。先生から預かった鍵は、少し重たかったけれど無事に開いた。ギギイイイ、という不気味な音を響かせて扉を開けると、強い風が髪をかき上げる。

「わああ…!」

そこはとても開放的な空間で、空が見渡せるようになっていた。学校の周りは住宅街で高いマンションもない。遠くの山まで見通せる。

「センパイ、望遠鏡、セッティングしましょう!早くしないと、始まっちゃいます!」

ヒカリはすっかりテンションが上がってしまって、ソックスのままコンクリートの床の屋上へ飛び出していった。しまったな、靴、下に置いてきてしまった…。このまま外に出るのはなんかテイコウが…。

「…な、なんか濡れてます…!」

先に飛び出していったヒカリが、ぴょんぴょん飛び跳ねて、あわててこちらへ戻ってきた。ソックスに包まれた足の指をくねくねと動かしている。確か夕方まで雨が降っていて、今夜の観測ができるか心配だったのだ。いまは晴れているけれど、雨がしみこんで床がまだ濡れているらしい…。

「ヒカリ、大丈夫??」

身をかがめて、靴下の足先を手でもにもにするヒカリ。懐中電灯で照らしてみると、すっかり灰色になった足先が見える。

「うー、気持ち悪いけど、はやくしましょう!」

ヒカリはそう言って、再び濡れた地面へと望遠鏡を持って駆け出していく。つ、つよいな…。はて私はどうしようかと、屋上の入口で考えていると、

「センパイ、きました!」

「え!?」

ヒカリが空を指さす。私は屋上へと飛び出す。靴下が濡れていく感触があるけれど、そんなのはもう気にならない。一つの彗星がすうううっと空を横切っていく。そしてそのあとからいくつも。

「すごいですね!みえました!」

「うん、すごい」

私とヒカリはしばらくの間、空を見上げていた。


つづく

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