ご奉仕したいメイちゃん その1
「きょ、きょうからお世話になります、土井メイと申します。よろしくお願いします!」
「いいですよ、そんなにカタくならなくて。僕と妹しかいいない家ですから」
「そ、そうですか?えへへ、き、緊張しちゃって…」
あたし、土井メイは、現在18才です。高校を卒業してイラストの専門学校に通っているのですが、なんとこのたび、メイドさんとしてお仕事をはじめました!一日のうち、12時から18時くらいまで程度のアルバイトです。決してカフェではありません。本職の、メイドさんなのです!
あたしがご奉仕するご家庭は、大村さん、というお名前です。ご主人様である若い男の人と、その高校生の妹さんの2人暮らし。どういうわけか洋風のすごく大きなおうちに住んでいます。お金持ち、なのかな…?どんなお仕事をしているのでしょう…?
そして今日は、待ちに待ったお仕事の初日です。ドキドキです…。家の中では専用の服に着替えるから、来るときは私服でいいよって言われたので、あたしは普段専門学校に行くときの格好で行きました。夏っぽく、半そでの白いワンピースに、素足でかかと低めのパンプスを履いていきます。家を出てご主人様のおうちに向かっているときは、いつも通りの服なので特に何も考えていませんでしたが、いざ家の門の前に立ってみると、あれ、こんな服でいいのかな…?と少し心配になってきます。おそるおそるインターフォンを押すと、待ってたよっていうご主人様の声のあと、門が自動で開きました。面接のときにもびっくりしましたが、急にひとりでに開く門にはいつもびっくりしてしまいます。カツ、カツ、とお庭にくねくねと造られた石畳の上をヒールを鳴らして歩き、ようやくおうちにたどり着きました。
時刻はお昼前、半そでに帽子もかぶっているのですが、じんわりと汗をかいています。フットカバーみたいな靴下の類があまり好きではないので、パンプスも素足履きです。足にも汗をかいていて、足の裏がヌルヌルする感じがあります。一応ケアはしてきましたが、ニオイとか大丈夫かな…?ちょっと心配。玄関ドアの前に立って、身なりや髪を整えて、いざインターフォンを…と思ったら、ドアが開いてご主人様の登場でした。あわててのばしていた手を引っ込めて、ご挨拶です!
「さ、暑かったでしょう?こちらへどうぞ。冷たいお茶がありますよ」
「わあ、ありがとうございます!のどがかわいてたんです!」
思えば、緊張からか、朝からあまり水も飲んでいませんでした。おうち1階の応接室のような部屋に通されて、ふかふかのソファに座って、出していただいたお茶をごくごく。ふううう、危なかった!倒れちゃうところでした。お部屋の中はとてもエアコンが効いていて、汗がすぅーっと引いていきました。けれど急に冷えたせいで逆に寒いとかはなくって、ちょうどいい感じに冷やしてくれています。最新式のエアコンでしょうか。快適です。おかげでヌルヌル、ムレムレだった足も、パンプスの隙間から冷えた空気が入り込んで今では乾いてしまいました。パンプスは足首のところをストラップで留めるタイプなので、簡単には脱げなくなっています。そうでないと、あたしはあちこちですぐにクツを脱いでしまうのです…。だって、ムレムレが気持ち悪くって。でも脱いだ時の開放感がすごくって、素足履きはやめられないのです。靴下も、足がきゅってなるのが苦手なので、あまり履きません。そういえばフンイキから当たり前のように思っていましたが、このおうちは家の中でも靴を脱がないみたいですね。ご主人様はおうちの中なのに半そでのピシッとしたシャツにスラックス、そしてピカピカの革靴を履いています。カッコイイ…。
「あらためて、今日からよろしくお願いします。この家の当主、大村トウヤです」
「は、はい!土井メイですっ!よろしくお願いします!」
「今日は妹は学校でね。帰ってきたら紹介します。楽しみにしてたから」
「そうなんですね!あたしも、楽しみです!」
そして少しの間ご主人様とお話をして、いよいよお仕事の始まりです。2階へ上がって、とある部屋の前で止まります。
「ここが、土井さんの専用のお部屋です。ご自分の部屋だから、お仕事の前後や休憩中など、好きに使っていいですよ。家具もそろっています」
「え、ほんとですか…!?」
ドアを開くと、そこには今一人暮らしをしているあたしの6畳のお部屋が2こくらい入りそうな、広い部屋がありました。ベッドも、クローゼットも、机もあります。え、ここに住みたいんですけれど…!
「わ、わあ…、ひろ…」
「ごめんなさいね、ほかに広い部屋もあったんだけれど、すべて客人用になっていて…」
「え、いえいえ!こんないいお部屋、ありがとうございます!!」
あたしはカツカツとヒールを鳴らして中に入りました。アロマディフューザーのいい香り、そしてクローゼットを開くと、そこにはアニメやドラマで見るような、かわいいかわいいメイド服が…!
「え、これって…」
「ああ、そうそう。土井さんにはその服を支給します。制服、みたいなやつかな」
「そうなんですね!ありがとうございます!」
出してみると、黒い生地に白いフリルが付いた、メイド服でした。スカート丈はちょうどお膝くらいです。面接のときに採寸もされたのはこれがあったからですね。
「じゃあ実際に着てもらっていいですか?10分後くらいにまた来ますので、準備をお願いします」
「あ、はい、わかりました!」
そう言ってご主人様はいったん部屋を出ていきました。荷物をベッドの上に置いて、ふわふわのメイド服へ着替えます。あたしの体にぴったりでした。採寸もされたし、もしかしてオーダーメイド、なのかな…?ほかにクローゼットには黒くピカピカなローファーも入っていました。高校生の時に履いていたものより明らかに素晴らしいローファーです。あたしは履いていたパンプスのストラップを外して脱ぎます。隠れていた足の指や足の裏が、涼しい風に当たってなんとも気持ちいい…。この瞬間がたまらなく好きなのです。床にはカーペットが敷かれているので、素足のまま歩いてもとくにテイコウはありません。イメージ的には、ホテルのあの床みたいな感じでしょうか。土足OKだけれど、あたしはいつもすぐに靴を脱いで、裸足のまま過ごすことが多いです。メイド服に裸足のまま、ペタペタとお部屋を観察して、さて靴を履こうかなと思います。それと、靴下もあるのかな…?と思いましたが、クローゼットにはもう1着のメイド服のほかには何も入っていませんでした。素足のまま来てしまったので、手持ちの靴下もありません。こまったなあ。どうしよう、そう思っていると、コンコン、ノックの音が聞こえました。
「はあい」
「土井さん、そろそろ、準備できましたか?」
「え、あ、はい!」
あわてて腕時計を見てみると、すでに15分ほど経っていました。お部屋観察が長引いてしまったみたいです。
「入ってもいいですか?」
「はい、どうぞ!」
そう答えて、あたしがまだ裸足のままだったことを思い出します。ご主人様はあたしのメイド服姿を見て、
「すごいですね、ぴったりです」
「えへへ、ありがとうございます!」
「…あれ、革靴、入っていませんでしたか?」
あたしの裸足の足を見て、心配そうに聞くご主人様。あたしはあわてて答えます。
「あ、いえ、あるんですけど、その、…くつした、忘れちゃって」
「あ、靴下は履かない方向でお願いします」
「…へ?」
「…ん?」
今一瞬、あたしの頭がおかしくなったかなと思いました。え、靴下、履かない、方向…?
「えっと、くつしたは、履かない…?」
「はい、妹たっての希望でして…。お願いできますか?」
「は、はあ…」
えっとこれはどういうことなんだろう…?面接のときはなにも言ってなかったけれど…、と思いながらも、とりあえずOKということにしておきます。このお仕事が決まった時、メイド服もあるよって教えてもらったあたしは、スマホでいろいろ調べてみたのです。アニメのメイドさん、現実のメイドさん、カフェのメイドさん…。足元まで注意深くは見ていませんでしたが、みんな黒っぽい靴に白っぽい靴下を履いていたような気がします。イラストの女の子で、履いてない子もいたような…。
「では、その革靴を履いてもらって、さっそくお仕事、いいですか?」
「あ、わかりました!」
まだ頭があまり追いついていませんが、もうお仕事は始まっちゃうみたいです。あたしはあわてて、素足のままローファーを履くと、ご主人様について部屋を後にするのでした。素足に、ローファー…。高校時代を思い出します。
「では、お願いしますね」
「はい!がんばります!」
あたしの、このおうちでの初めてのお仕事は、お部屋のお掃除でした。ほうきとちりとり…ではなくって、最新式のダ〇ソンの掃除機です。窓枠や家具などの掃除はハンディモップや小型の掃除機を使っていきます。これはらくらく!まだ履きなれないローファーをコツコツと鳴らしながら、まずは2階のお部屋から、順番に掃除していきます。どの部屋も、さっきご主人様が言っていたように、あたしの部屋より広い作りになっていました。家具も、あたしから見てもすっごく高そうです…。お花の入った花瓶や、ガラスの置物などなど…。壊さないように気を付けないと!
「ありがとうございます。そろそろ、お昼にしましょうか」
「あ、そうでした!お昼ごはんの準備を…」
2階の掃除がすべて終わるころ、1階からご主人様が上がってきました。なにやらいい香りが漂っています。レストランで香るようないいにおい…。おなかがすきます!
「大丈夫ですよ、今日は土井さんの歓迎会ですので、準備はさっき済ませてしまいました」
「ええ!ごめんなさい!お掃除に夢中で…」
ホントはメイドさんのお仕事のはずなのに、申し訳ないです。けれど、あたしの歓迎会ってことで、1階にある広間のテーブルには、いろいろなお料理が乗っていました。見たことないような、ゴウカなお料理です…!
「ただいまー!おにい、きてる?きてる?」
あたしがそんなお料理に目をしぱしぱさせていると、元気そうな声が玄関の方から聞こえてきました。パタパタ、という足音とともに、一人の女の子が顔を出しました。
つづく




