一緒に行きたい桐乃ちゃん
「じゃ、いってきまーす」
「あ、まって、まってよ、お兄ちゃん!」
あたしが洗面所で髪のセットをしていると、玄関からお兄ちゃんの声が聞こえてきた。え、ウソ、さっき起きたと思ったのにもう出て行っちゃうの!?あたしは大声でお兄ちゃんを待たせておいて、すばやく部屋に行って荷物をとるとまた階段を下りて1階に向かった。ぺたぺたという素足の足音を響かせて玄関へ。いそいで作り上げたサイドポニーがふりふり揺れる。
「お兄ちゃん、なんでそんなに早いのよ!」
「桐乃がおそいんだろー。いくぞー」
お兄ちゃんはそんなことを言いながらも、スマホを見ながら待ってくれていた。あたしはいつも通り靴下を履かずに、素足のまま、いつもの通学用のスニーカーに足を通す。見た目はしっかりしているけれど、通気性がよくって、素足で履いてもあんまりムレない靴だ。すっごく履きやすくって、毎日でも履きたい気分。でもそんなことするとさすがにニオイが気になって、2日に1回履くことにしている。別の日はふつうのローファーとか、別のスニーカーだ。靴下は履かないのかって?だって、苦手なんだもん!素足の方が楽でいい。お兄ちゃんにとってこれは毎日のことなのでもう何も言わない。最初のころは、足が臭くなるぞーとか、でりかしーのないことを言っていたけれど、ちゃんとケアしてるもん!スニーカーを履いて、つま先をトントン、としたところで、お兄ちゃんと一緒に家を出る。歩く速さも速いお兄ちゃん、ついていくのが大変で。
「えいっ、つかまえたよ、お兄ちゃん!」
「…朝からハイテンションだなあ、暑いからくっつかないでよ」
「えー、だってくっつきたいんだもん!」
そうしてお兄ちゃんの腕にぎゅっと抱きついて一緒に登校。暑い、とかうっとおしい、とか言いながらもひっぺがさないお兄ちゃんは、まんざらでもないのかな?
あたしは中学2年生、お兄ちゃんは高校2年生。同じ私立の学校に通っている。中高一貫教育の学校で、中学校から高校へはエスカレーター式?に進学できるみたい。一応、進学テストはあるけれど、お兄ちゃんによるとそんなに大変じゃないみたい。お兄ちゃんは成績がいいからなあ。あたしもがんばらないと!
学校までは電車で向かう。並んで改札に定期をタッチして、ホームで電車を待つ。次の電車はいつも通り。ホームの列に並ぶと、あたしは一度スニーカーを脱いで足を出す。通気性はいいとはいえ、さすがに素足のまま歩いていると汗をかいてたまらなくなってしまう。
「ふー、今日も暑いねー」
片方ずつスニーカーを脱いで、空中で足の指をくねくね。朝の風にさらしていると、列車が近づくアナウンスが。すぐにぐいぐいと履きなおして、滑り込んできた電車に、お兄ちゃんと一緒に乗り込んだ。
「あ、あそこあそこ!」
朝のラッシュの時間帯だけれど、あたしたちが乗る駅からはけっこうな確率で座ることができる。
「桐乃、座りなよ、俺はいいから」
「えー。もー」
ほんとは並んで座りたかったのに、お兄ちゃんはあたしの前に立って、ブルートゥースイヤホンをつけて自分の世界に入っていってしまった。あたしは足を小さく座席のところにおいて、自分のスマホでSNSをチェックする。すぐ横には女子高校生さんが座っていて、前にはお兄ちゃん。さすがにこの中で靴は脱げないので、あたしはムレムレしてくる足を我慢して座っている。有名なインスタグラマーさんのインスタを次々とチェックしていると、学校の友だちからラインが入った。今日の放課後、カフェに行かない?いく!あたしは秒で返信をして、またインスタに戻る。
いつの間にか電車の中はぎゅうぎゅうになって、学校の最寄り駅に到着した。お兄ちゃんの後ろをついて、人をかき分け外に出る。
「ぷはあ。人、多いね」
「大丈夫だった?いこっか」
人の多い中、お兄ちゃんはあたしの手を引いて、改札へ向かってくれる。それがちょっとうれしくて、あたしはただただ後ろをついていった。
液から学校は目の前で、校門をくぐると、残念ながらここでお兄ちゃんとはお別れになってしまう。中学校と高校では、校舎が違うのだ。
「じゃあ。今日は遅くなるから、気を付けて帰りなよ」
「えー。うん、わかった…」
お兄ちゃんはあたしに小さく手を振って、高校の方へ入っていった。部活に、勉強に、お兄ちゃんは今日も忙しそう。あたしも、中学校の昇降口へ向かう。脱げる機会がなくって、ムレムレになった足をスニーカーからだすと、気持ちいい風が足を撫でていく。うん、この瞬間がやっぱりとってもすき!
「桐乃ー、おはよー」
「あ、おはよ!」
靴箱前に置かれたすのこの上に素足を置いて、少しの間快感に浸っていると、友達に呼ばれて我に返る。あたしは靴箱からスリッパタイプの上履きを取り出すと、そこに素足を入れた。これだと通気性がよくって、授業中も脱ぎやすくって(ちょっとお行儀悪いけど)履きやすい。パタパタ、ペタペタと足音を鳴らして、あたしは校舎の階段をのぼっていった。
つづく




