表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〇〇したい女の子たち  作者: 車男
40/45

感じたいみかんちゃん その1

 「えー、工事中…?」

学校からの帰り道、私、不知火しらぬいみかんは、いつもの通学路を歩く途中で立ち止まってしまった。大きな国道バイパス沿いの歩道。右は車がビュンビュン走り、左は大きな工場のカベがそそりたって、クレーンやそのほかの機械の音が聞こえてくる。朝はそんなことはなかったんだけれど、急に工事中になったらしい。

「ごめんね、足元、気を付けて」

工事の入り口に立っていたおじさんに声を掛けられる。私は会釈をして、一歩踏み出そうとした。

 けれど、目の前にある道の状況に足がすくんでしまう。晴れていて普通の道なら何でもないのだけれど、あいにく今日は大雨。学校からずっと傘をさして歩いてきて、お気に入りの運動靴は中がじんわりと湿ってきている。おまけに、工事の関係でアスファルトがはぎとられ、土や砂、というよりもはや泥のぬかるんだ地面になっていた。引き返そうにも、大きな国道沿いの歩道なので学校近くまで戻らないと反対側の歩道には行けない。ほかの道を行こうにも、大きな工場があるせいで、大回りをしなきゃいけなくなる。雨の中、いったん戻って遠回り…は気持ち的にイヤだな。車が猛スピードで走る道路を横切る勇気はないし、第一交通違反だし。いろいろと考えていると、休憩なのか、いつの間にか工事のおじさんもいなくなってしまって、歩道には私だけが残されていた。

「…しかたないか…」

しばらく考えた後、その考えをまとめた私はその場で運動靴を右左と脱いで、白いソックスだけで地面に立った。少し短めの、みかんのワンポイントが入ったソックス。雨のせいでもう濡れていたものの、濡れたアスファルトの地面に立つとじんわりと雨がしみこんでくる感触を足の裏に感じる。お気に入りの運動靴を泥まみれにするよりは、このソックスをギセイにした方がまだまし、と考えた。靴下も脱いじゃって裸足になって…は、何か落ちてたら危ないし、せめてソックスは履いておこう。

「…よし、いくぞ…!」

泥の道を裸足(ソックスは履いてるけれど)のまま歩くなんて初めて。小学校の運動会で、グラウンドで裸足でダンスをしたけれど、その時は晴れていた。運動靴を手に持って、一歩ソックスの足を泥に踏み入れると、ぐちゅ、という何とも言い難い音とともに、一瞬で白ソックスは茶色く染まっていった。べちゃ、ぐちゃ、ぐちゅ、びちゃ、と泥があまりはねないようにゆっくり、そろそろと歩いていく。走り去る車の人からは靴を手に持った女の子がソックスのまま歩いてるという不思議な光景が見られるだろう。

 初めての感触に、うげえ、と思っていた私だったけれど、歩みを進めているうちに、その気持ち悪い感触を次第に受け入れていく自分に気が付いた。言葉で表すのがなんとも難しいけれど、気持ち悪いのが、クセになる…?そんな感覚。決して嫌ではない、むしろ、ずっとこうしていたい、ような…。

 そのまま、いつもの通学路が何倍もの道のりに感じて、工場の壁が垣根に変わって、住宅街へと続く交差点に差し掛かると、なんとか工事中の区間を通り過ぎることができた。途中深く沈むところもあって、ソックスは甲の部分にも泥はねがついてしまっていた。足の裏や側面は全体が茶色く染まっている。これはもうさすがに洗っても無理だよな…。というか洗いたくないな…。それは、このソックスをこのままとっておきたい気持ちも、どこかにあったんだと思う。家まではもうあと徒歩5分ほどだ。アスファルトの地面になったけれど、こんなソックスじゃ運動靴は履けないし、脱いでもその脱いだソックスをどうなるか問題が発生するし、私は靴を手に持ったまま、そしてソックスのままで家への道をパシャパシャと歩いて行った。途中、振り返ってみると、恥ずかしいことに泥の足跡が残っているではないか。もっと雨が降って、早く流れてしまえばいいなと、静かに願った。

 家に着くと,両親は仕事のためまだ帰っていない。庭の芝生に泥だらけのソックスのまま足を踏み入れ、そこにあった水道の蛇口をひねる。透明な水が流れてきて、私はソックスを脱ごうと手をかけた。その時に、ポケットに入れたスマホの感触をうける。そうだ。せっかくなら…。私はソックスにかけていた手をスマホに持ち替えて、鮮やかな緑色の芝生に乗った自分の足元を上から撮影した。カシャ。側面や甲の部分まで、もう全体的に茶色くなってきている。そして今度は膝をまげて足の裏も撮ってみる。交差点で見たときにこびりついていた泥の大まかな汚れは取れたけれど、繊維の間に入り込んだ泥がまだまだ茶色く残っている。その上に、庭の土がついて、まだら模様になっていた。これもまた何枚カシャ。せっかくだから、足だけじゃなくって自撮りもしたいな…。私は庭から続くウッドデッキに上ってみた。雨でぬれているけれどどうせシャワーを浴びるしということで、膝をウッドデッキについて、斜め上から自分の顔や体から足の裏まで入るように角度を決めて、パシャリ。…うん、なかなかいいかも。これは自分の中だけでとっておこう。

 その後、私はソックスをようやく脱いで、少し考えたけれどそれは写真を撮るだけにして、処分することにした。床を汚さないように浴室へ移動してシャワーを浴びる。足を洗っているうちに、初めてのあの感触を思い出す。…また、やってみようかな…。


つづく


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ