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〇〇したい女の子たち  作者: 車男
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たわむれたい猫谷さん

 「あ、ネコカフェ…」

学校帰り、なんとなくぶらぶらしたいなと思って、家とは逆方向の電車に乗り、そこそこ大きな駅で降りて歩いていると、静かな路地裏の一角に、ネコの形をした看板を見つけた。気づいたころから猫が好きな私。ツイッターでは猫のアカウントをフォローして、日夜ネコ動画やネコ画像を漁っている。県内のネコカフェはだいたい網羅したつもりだったけれど、こんなお店は知らなかった。さっそく、ネコの形のカバーを付けた自分のスマホを取り出して、マップからお店の情報を調べてみる。

「あった、ネコカフェ『かくれが』…」

お店の雰囲気にぴったりなネーミング。私が知らないお店、まさに『かくれが』だ。

「入ってみようかな…、でも、タイツだしな…」

学校帰りなのでもちろん制服。夏が近づいて暑さで汗がにじむけれど、私は普段から黒タイツを履いていた。なんとなく素足を人の目に出したくなくって。冬用はさすがに暑いから、夏場でも履ける、比較的薄手のものを履いている。私の中では決まりがあって、ネコカフェに行くときはタイツやストッキング類は履かないようにしている。ネコの爪が引っ掛かって破れるのを防ぐためであり、そういう時は必ず、パンツスタイルに靴下を履くようにしていた。ネコカフェはだいたい靴を脱いで入るため、靴下も必須アイテムだ。

「うーん、どうしよう…」

しかし今日はタイツを履いているし、制服のスカートだし、替えの靴下も持っていない。体育のある日だったら体育時に履く靴下は持っているけれど、今日は残念ながらそれもなかった。あきらめてまたくるか…、いやその『また』が来なかったらどうしよう…。以前、行こう行こうと考えていたネコカフェが急に閉店してしまい、悲しい思いをしたことを思い出す。

「よし、がんばって、行こう…!」

私は結局、『かくれが』へ足を踏み入れることにした。ただその前準備として、やっておきたいことがある。念のためマップで、近くにコンビニがないか調べてみたけれど、あいにくさっき電車を降りた駅にしかなさそうだった。他は歩いて10分はかかるところばかり。近くにあったら、替えの靴下くらいは買おうかなと思ったけれど、また駅まで戻って、またこのネコカフェへ戻ってくるのはめんどくさい…。しかもよくよく見たら、閉店までもう時間がなさそう。意を決して、私はその格好のまま、ネコカフェの扉を開く。

からん、ころん、からからん。

入り口の鈴が鳴る。中へ入るとその先はいきなり階段になっていた。お店は2階にあるみたい。ただ、靴は1階の入り口で脱がなければならいらしく、私はスニーカーを脱いで靴箱に入れた。スリッパの類はないみたいで、暑さでホカホカとなっていた黒タイツの足を階段に乗せる。2階まで階段を上ると、ようやく受付らしいものが。『不在の時はおよびください』のベルを鳴らすと、大学生みたいなお姉さんが奥からやってきた。私よりも、背が小さくて、かわいい人。

「おまたせしました!いらっしゃいませ、『かくれが』へようこそ!」

元気なお姉さんと5匹のネコたちがお出迎え。テンションが上がってくる。受付を済ませると、はやくネコたちとたわむれたい思いを抑えて、

「すみません、トイレ、どこですか?」

「はい、あちらになります!」

お姉さんの指した方へ、足を進める。その足元に、ネコたちがくっついてくる。ちょっとまってね、私はネコたちに声をかけながらトイレへ入る。用を足したかったわけではなく、私はその場で黒タイツをグイッと脱いでしまった。人前で素足になるのはかなり恥ずかしいけれど、ネコとたわむれるためなら仕方ない…!幸い、店員さんは女の人だったし、他にお客さんもいなかったから、幾分か恥ずかしい気持ちは和らいだ。脱いだほかほかタイツはまた履けるようにたたんでスカートのポケットに突っ込み、素足をまた外に出す。すると、ネコをじゃらして遊んでいた店員さんとぱっちり目があってしまった。一度私の足元に視線を送り、また私の目を見る店員さん。やっぱり、気づくよね…!

「あれ、タイツ、脱いじゃったんですね!」

にっこりほほえんで店員さんが言う。とたんに恥ずかしくってドキドキ。そんな、はっきり言わなくても…!

「やぶれちゃったら悲しいですもんね…。では、存分に楽しんでください!」

悪気はないんだろうけれど、とっても恥ずかしくなっちゃうよ…。私は顔を真っ赤にしながら、素足でペタペタと歩き、近くのソファへ。その足元をネコたちが歩き回る。素足にネコのふわふわっとした毛が触れて、とっても気持ちいい。ソファに座ると、そのふとももに一匹が乗り、その足元に2匹がすりすり、ふわふわ。また一匹は私の横にちょこんと座る。なんだこれ、みんなすっごく愛想がイイ…!

「お客さん、すごく、気にいられてますね…!」

そんな様子を見て、店員さんが目を丸くしていた。

「…いつも、こんな感じじゃないんですか?」

「はい、他のお客さんには、おやつがないとそんなに寄り付かないんですよ」

なんと。ネコ好きの私だけれど、別にすっごくにネコに好かれるというわけでもない。なんでこんなに寄ってきてくれるんだろう…。まあ、いいか。難しいことは考えずに、今日はネコとたわむれよう。太ももの上にのって丸くなったネコをナデナデ、足元に来るネコたちは足でたわむれる。足の指をくねくねさせたらそこにじゃれついてくる。うん。すっごく楽しい…!しばらくそうしていると、私の横に寝ていたネコが、なにやらもぞもぞ。

「ん…?」

どうやらポケットを探っているらしく、何か入っていたかなと考えていると、しゅぱっとポケットの中のものを口にくわえてソファから飛び降りた。その口元には黒いものが。

「あ、タイツ!」

その黒いものに向かって群がる3匹のネコたち。やがて黒タイツは伸び、それぞれのネコたちがかみついていった。太ももにネコが乗っかっていて動けない私。どこかに行っちゃった店員さん。それをただ見ているしかなかった…。やがて私の黒タイツの争奪戦が始まる。3方向から引っ張られて、ぐいーっと伸ばされる黒タイツ。やがて、ビリリっとなってしまった…。

「あわわわわ、こらこら、すみません、お客さんのタイツが…」

その騒ぎを聞いてか、さっきの店員さんが現れて、黒タイツを回収してくれた。けれどネコにかみつかれてもうぼろぼろ…。もう履けそうにはない。ダメージタイツとしてはいいのかな…。

「いえ、いいですよ、私も止めたらよかったんですけど…」

なんだか私のタイツの取り合いをしているネコたちを見ているのも心地よくなって、ただただ見入ってしまっていた。

「すみません、おわびに、これ、一つどうぞ」

「え、いいんですか?」

ぺこりとお辞儀をしながら店員さんが差し出したのは、『かくれが』オリジナルというネコクッキー(人間用)。チョコで顔が書かれていて、とてもかわいい!

「ありがとうございます!」

「こちらこそ、ありがとうございました!それにしても、大人気でしたね、お客さん」

いつのまにか時間が来ていて、私は黒タイツをまた丸めてポケットに入れると、素足のまま出口へと階段を下りる。店員さんはわざわざ出迎えについて来てくれていた。もう閉店の時間で、私が最後のお客さんだったみたい。

「他のお店ではこんなことないんですけど…、ここのネコちゃんたちがひとなっつこいんですかね?」

「うーん、そうですね、でも、お客さんみたいな、若い女の人はけっこう人気な気がします!」

「え、そう、なんですか?」

「はい!あと、私的に、ウチのネコちゃんたちは足が好きなのかなって思いますね!」

「え、足…?」

きょとんとして、自分の足元を見る。確かに今日は素足だったけれど、ネコがみんな足が好きなんて聞いたことはないな…。

「また来てくださいね!」

一階について、靴箱からスニーカーを取り出す。少し抵抗はあったけれど、仕方ないのでそのままスニーカーに足を入れた。素足で履くのは、初めてだ。恥ずかしいな。

「…はい、また、きますね」

今度はちゃんと靴下を履いて…、と思ったけれど、また素足で来てみようかな、なんて考えていた。ネコカフェ『かくれが』。また私の行きつけのネコカフェが増えちゃった。


つづく

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