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〇〇したい女の子たち  作者: 車男
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手当てしたい那須さん

 「保健委員さん、ちょっときて!」

体育の時間、グラウンドで楽しくサッカーをしていると、先生が私を呼んだ。

「ごめん、ちょっと抜けるね!」

クラスの保健委員は私ともう一人は男子。男子は向こうの方でサッカーの試合をしてるから、私が行くことにした。

「那須さん、鈴木さんがこけちゃって、出血してるから、一緒に保健室に行ってもらっていい?」

「わかりました!」

見ると、先生の前には膝からけっこうな血を流す鈴木さんがうずくまっていた。やや茶色がかったショートヘアで、大人しい女の子。背は私と同じくらいで、クラスの女子では真ん中あたり。顔立ちはかわいくって、男子の間ではひそかに人気があるみたい…。それにしてもこれは痛そう…。

「リンちゃん、立てる?」

「う、うん、いける…」

おそるおそる鈴木さんは立ち上がると、私の肩を借りて保健室へ向かう。

 「こんにちはー、すみません、けが人です!」

保健室にはグラウンドから直接入ることができる。窓を開けて声をかけると、そこには誰もいなかった。靴を脱いで、靴下のまま中へ入って探しても、誰もいない。あれ、先生は…?気になって廊下側の扉を見ると、会議のため席を外してるということだった。けが人の手当ては保健委員の研修で習って、実戦練習もしたから一応できる。やってみるか…!

「先生、会議みたいだね。リンちゃん、中に入ってそこ、座ってて?」

「う、うん…」

鈴木さんはゆっくりと靴を脱ぐと、裸足になって中へ入ってきた。あれ、靴下は…?靴と一緒に脱いだのかなと思ったけれど、なんだかそれを聞くのも気が引けて、私は見て見ぬふりをした。

「このイスでいい?」

「うん、そこ!」

みると、まだまだ血は止まらなくて、ふくらはぎを伝って血のラインがかかとにまで達していた。

「痛い、よね?やっぱり…」

「うん、じんじん、する…」

鈴木さんは普段からおとなしくって、あまり目立たない女の子。私の仲良しグループとは違うグループだから、基本的に話すことはなかった。

「じゃあ消毒して、ガーゼと包帯、つけていくね。液がしみるかもだけど、がんばって…!」

「うん、お願いします…」

私はイスに座る鈴木さんの正面にしゃがんで、まず消毒液を傷口に吹きかけた。シュ、シュと吹き付けるたび、鈴木さんは表情をゆがめて、体をぴくぴくさせていた。痛みからか、足の指がしきりにくねくねと動いている。ごめんねー、痛いよね…。でもこれをしないと化膿してもっとひどくなっちゃうかもだから…。

「よし、と。じゃああとはガーゼと包帯をつけるね。ちょっと足、伸ばせる?」

「こ、こう…?」

鈴木さんは恐る恐る、足を床から浮かせて私の方に伸ばした。包帯を巻きやすいように、ということだけれど、足が伸ばされて私に近づいたせいか、消毒液の匂いに混ざって、なにか酸っぱいような、汗のような、そんなものが混ざったニオイが鼻をついた。くん、くん…。これはもしかして…?

「あ、ご、ごめんね、足、ニオうよね…」

「…え?」

鈴木さんの膝に包帯をまきまきしながら、そのニオイをクンクンしていると、急に鈴木さんが口を開いた。驚いて顔を見上げると、頬を真っ赤にして背けるようにする鈴木さん。私の体の横にある足の指が、恥ずかしそうにきゅっと丸まっている。

「あ、ううん、そんなことない、と思うよ…」

「ううん、そうだよ。だって、だって、私もニオってるし…。ごめんね、今日、靴下忘れちゃって、ハダシで靴履いてたから…」

「そ、そうなんだ…?」

私も実際、気になっていはいたけれど、まさか鈴木さんの方から言ってくるなんて。もしかして、鼻をクンクンさせてたのが聞こえちゃったのかな…?

「今日体育あるのに、間違ってストッキング、履いてきちゃって…。かわりの靴下もないから、裸足でやってたんだ。それで靴もぶかぶかで、こけちゃって」

「あ、それでこけちゃったんだね…。ストッキング、脱いじゃったの?」

「うん、体育は靴下でしなきゃいけないんだよね?」

「そうなんだ、知らなかったな」

普段からタイツやストッキングなんて履かないから、そんな決まりがあるなんて知らなかった。そっか、冬とか、気をつけなきゃな。でも、ちゃんとそれを脱いで体育を受けるなんて、鈴木さんはまじめだな。あまり記憶にないけれど、確か今日は黒いタイツみたいなのを履いていた気がする。

「それに、ストッキング履いててこけちゃって破れちゃうの悲しいし…。はあ、なんで靴下忘れちゃったんだろ」

鈴木さんはそうつぶやくと、また恥ずかしそうに足の指を丸めていた。慣れたのか、裸足になったおかげで汗が引いたのか、ニオイはもう気にならなくなっていた。

「次は、気をつけなきゃね…。はい、できたよ!」

「ありがとう。うん、なんか、あまり痛くなくなったかも」

「ちゃんとお風呂入るときはとって、また新しい包帯、つけるんだよ?」

「うん、わかった。ありがとう」

鈴木さんは裸足のまま立ち上がると、ペタペタとその場で足踏みしている。

「どう?歩ける?」

「うん、でも痛くて膝、曲げられないかも…」

「そうだよね…。この後の体育は、見学だね」

「うん、そうする…」

その後、会議から戻ってきた保健の先生にお礼を言って、私たちは靴を履いてグラウンドに戻った。鈴木さんは痛む膝をかばいながら、素足をそのままぐいぐいとスニーカーに突っ込んでいた。

 体育が終わって、私はグラウンドの校舎側で座って見学していた鈴木さんのもとへ。一応手当てしたのは私だし、その後の経過が気になっていた。

「リンちゃん、足、どう?」

鈴木さんは立ち上がって、膝のあたりに手をかざしながら、

「うん、ちょっと痛くなくなったかも…。ありがとう、那須さん」

「ううん!階段とか、気を付けて!なんなら、一緒に行こうか?」

「ありがとう、そうしてもらえると、助かるかも…」

ということで、私は鈴木さんの横をついて、教室へ戻ることにした。靴箱のところで靴を履き替えて、階段を上がる。もちろん、素足で運動靴をはいていた鈴木さんは、素足のままで上履きを履くことになる。階段を上るときに手を貸しながら、ようやく教室へたどり着いた。

「もう大丈夫かな!」

「うん、ありがとう、那須さん!」

すでに着替え終わった女子もいて、私と鈴木さんは急ぎ足で着替えて自分の教室へ戻る。包帯をはいた足ではストッキングを履けないようで、着替えた後も鈴木さんは素足のままで上履きを履いているのだった。


つづく


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