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〇〇したい女の子たち  作者: 車男
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ごまかしたいチトちゃん その5

 荷物を持って、多目的室から一番近くのトイレの前に立って、中の様子を見てみる。電気は点いたままで、床は思った通り、手洗い場あたりは水滴がかなり飛んでいる様子だった。個室の方も、ペーパーの切れ端があちこち落ちている。私はもう一度廊下に出て、誰もいないことを確認すると、靴下のままその中へ足を踏み入れた。ペタペタと奥の方へ歩いていくと、飛び散った水滴のせいで、靴下の裏がじんわり濡れていくのを感じる。気持ち悪くて、気持ちいい。そんな感覚。そのまま、いちばん奥の個室へ入る。扉を閉めると、どういうわけか洋式のトイレの周りにも何らかの水滴が飛んでいた。少し気になりつつも、私は用を足して外に出る。手洗い場へ近づくと、その周りもかなり水滴が飛んでいて、自分の靴下でそれを吸い取っていく感覚があった。人のいる前では決してできないことで、ドキドキがまた高まっていった。明るいトイレの電気の下で、ひざを曲げて足の裏を確認する。足の形に真っ黒に、汚れが浮かび上がっていた。今まで見たことのないほどの真っ黒さで、感動さえ覚えてしまう。

 多目的室に戻ると、誰かが電気を消していったようだった。けれどドアのカギは開いていて、私はこっそり開いて足を踏み入れた。誰かに見られてはいけないので、電気は点けないようにする。荷物を近くの席に置くと、まずはしゃがんで床に手の指をはわせてみた。つーっと滑らせて確認すると、ニノちゃんの言う通り、掃除をしていないためか、細かな砂やホコリで指先はすぐに灰色に汚れてしまった。私の靴下の汚れの原因はこれだったのだ。ふつうの教室では、模試を受けただけだとそこまで真っ黒にはならないはずだ。多目的室、いいところを知ってしまったな。

 私は二つのことを考えていた。今日このまま、多目的室の中を歩き回って、もっともっと靴下を真っ黒にしちゃうか、楽しみを後に取っておいて、後日また靴下のまま歩き回るか、だ。なんでそんなどうでもいいことを、と自分でもちょっと思っちゃうけれど、やりたいんだから仕方ない!今日歩き回ってしまったら、せっかく積もったゴミを一日で消費してしまう。後日に取っておけば、長く楽しめる。じゃあ…。私は今日もっと歩きたい思いをぐっとこらえて、楽しみは後に取っておくことにした。今日はもう靴下をかなり汚してしまったし、満足はできていた。

 靴下のまま、暗くなった廊下をペタペタと歩いて昇降口へ。今日は靴下生活するなんて思ってもみなかったものだから、替えの靴下なんてなくって。汚れた真っ黒な靴下のままでスニーカーに足を通す。スニーカーの中まで汚れちゃうかもだけど、それもそれでドキドキ…。次履くときに、白い靴下だとすぐに汚れちゃうんじゃないかな…!?

 模試を受けていた人たちはみんな帰ってしまったようだけれど、まだ時間に余裕があったものだから、ちょっと遠回りをしてみることにした。校舎の裏側、窓から見下ろすと2階建ての古い建物が建っている。授業で使うこともなく、今まで一度も近づいたことがないところだ。昇降口から校舎裏へ向かう。思った通り、中には誰もいないようだった。まさかな、と思って、入り口のドアを引いてみる。すると、ギギギ、と音を立てながら扉は開いた。カギ、かかってないんだ…。中をのぞくと、もちろんのことだけど電気は点いておらず、人の気配もなかった。

「はいって、いいのかな…」

入り口をよくよく見るけれど、立ち入り禁止などの張り紙はなく、鍵も開いているということは、入っていいってことなのかな…?私はごくりと息をのんで、一歩中へ足を踏み入れてみた。中はひんやりとしていて、何となくホコリっぽい。普段過ごしている校舎よりはるかに古い。旧校舎、なのかな。もっと中まで行こうかどうしようかと考えて横を見ると、靴箱のような棚があって、その一か所、私の目線の高さにある棚に、1足のローファーが置いてあった。きれいに並べられており、昔からあるという感じではない。もしかして誰かいるのかな…?なんでこんな真っ暗な建物のなかに…?私は何となく怖くなって、今日はやめておくことにした。もうちょっと情報収集して、再チャレンジしよう。くるりと振り向いて、開くかどうか不安を感じながら扉に手をかけると、無事に開いた。外に出ると、空気が気持ちよく感じる。2階を見上げると、何となく明るくなっているような気がして、私は身震いをしてその場から立ち去った。


つづく

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