夏っぽくいたい夏奈ちゃん その2
「今日は雨かー、やだなー」
「ほら、カナ、遅れるよー」
「はーい」
課外の2日目、昨日はぴっかぴかの晴れだったけれど、今日は一日中雨らしい。そんなに暑くないけれど、濡れるのはやっぱりヤだよなー。
「まあ、しゃーないかー」
私は制服を着て、靴下は履かないまま、レインコートをかぶって家を出る。昨日の宣言通り、足元は素足に、つっかけタイプのスポーツサンダルを履く。雨だし、濡れてもいい靴で行かなきゃね!
レインコートは足元まではおおえずに、自転車をこいでいるとすぐに足元はびしょびしょ。学校について自転車を止めて、レインコートをその上に干し、昇降口へたどり着くと、すっかり足は雨に濡れてしまっていた。冷たくって、じとじとして、なんとも気持ち悪い。
「今日も、裸足かなー」
一応、靴箱に汚れた上履きはあるものの、履く気にはなれず、結局今日も裸足のままで過ごすことにする。持ってきたタオルで足の水分をふき取ると、サンダルを靴箱に入れて裸足のままペタペタと校内に入る。課外中は掃除をしないみたいで、廊下のザラザラは昨日と同じくらい。今日も足の裏は汚れちゃうんだろうなあ。まあ最後に洗えばいいけど!
教室に着くと、雨のせいか昨日より集まりは悪くって、私は1列目の窓から2番目の席になった。すぐに隣に誰かが来て、見てみると同じクラスの仲のいい子、夏美ちゃんではないか!
「あ、なっつんだ!おはよ!」
「おはよー。雨、すごかったね!」
見ると、夏美ちゃんはタオルを頭にかけて、濡れた髪を拭いているようだった。夏の制服はじんわりとしている。
「なっつんって、自転車だっけ?」
「ううん、電車だよー。駅から学校に来るので、傘さしてたんだけど濡れちゃうよね」
「そうなんだ!」
そう言いながら、席に座る夏美ちゃん。見ると、紺色の靴下も濡れているみたいで、ところどころ色が変わっている。上履きを脱いで、机の棒に置いていた。足の指がくねくねと動いている。足先の部分はぐっしょり濡れちゃっているみたいだ。
「あれ、カナちゃん、どうしてハダシなの?濡れたから?」
私が夏美ちゃんの足を見ていると、あちらも気づいた様子で聞いてきた。うん、やっぱり気になるよね…。
「うん、濡れたのもあるけど、暑くって靴下履いてきてないんだー」
「えー、マジ?上履きも?」
「そうそう」
「え、きちゃなくない?」
「まあ、汚れちゃうけど、洗えばいいし!」
「そ、それはそうだけど…」
夏美ちゃんはそんな私の足を見て何やら考え込んでしまった。昨日も裸足でいたのにすごく新鮮な反応だな。あれ、そういえば夏美ちゃんって…。
「そういえばなっつん、昨日いたっけ?」
「あ、ううん!昨日は用事があって休んでたんだー」
なんだ、だから昨日は見当たらなかったんだ。夏美ちゃんがいたら、きっと気づくはずだもんね!
「…よし、決めた!ナツも裸足になる!」
「え!」
夏美ちゃんは高らかに宣言すると、紺色の靴下をするすると脱いでいった。現れるのは傷のないきれいな素足。部活のせいか、ほどよく日焼けしている。
「ふー、ほんとだ、脱いだらすっごく涼しいね!」
「でしょ、でしょ!」
夏美ちゃんはそのままもう片方の靴下も脱いで、両足とも裸足になってしまった。気持ちよさそうに、足の指をぐねぐね,ぐーぱーと動かしている。その足先を見ると、足の爪が何やら青い…?
「あ、なっつん、それってもしかして…」
夏美ちゃんの足の爪には青色のペディキュアが塗られていた。おしゃれさん!
「え…あ、これ?えへへー、夏だし、こっそり塗っちゃったんだー」
そういって、足先をこちらに向けてくる。これは見てもいいよってこと?
「わー、きれいな色だね!」
私もこちらに伸ばされた夏美ちゃんの足に顔を近づける。クンクン…。意外とニオイはしない。
「あ!カナちゃんいま足におったでしょ!もう、やめてよー」
「え、いやいや!してないしてない!きれいだなって見てただけだよ!」
あわててそれらしく否定する。夏美ちゃんは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに、
「ほ、ほんと…?濡れたまま靴とか履いてたから、きっとクサイよ、ナツの足…」
そう言いながら,足をぎゅっと椅子の上で抱いて,体操すわりの格好になった。スカートがめくれて,その中が見えている。
「いやいや!そんなことなかったよ!ニオイしなかったし!」
「あー、やっぱりにおってたんでしょ!」
「…あ!」
そんなやり取りをしていたら、いつの間にか時間がたって、1時間目の始まる10分前。
「ちょっとトイレ行ってくるねー。カナちゃんもいく?」
「うん、じゃあいっとく!」
ということで、一緒にトイレへ向かう。席を立った夏美ちゃんは、その足を床に置いていた上履きに入れる。濡れた靴下のまま履いてきたせいで、上履きの中も濡れてしまったみたいで、
「わ…、上履きも濡れちゃってるよ…。気持ち悪い…」
「それじゃあさ、私みたいに、裸足でいたら?」
「えー、それは,ちょっと…、うーん…」
そう言いながらも夏美ちゃんはまたなにやら考えて、何かしらカクゴを決めたような顔をした。
「うん、わかった!最後に洗えばいいもんね!」
そう言って、履いていた上履きをまた脱いで、机の下に足で押し込んでしまった。濡れていた紺色の靴下は、椅子についている棒に干してある。
「あ、もうすぐ時間だ!早くいっとこ!」
トイレのことを考えたらとたんに尿意がやってきて、私と夏美ちゃんはペタペタとあわてて近くのトイレへ向かった。そして入ったところで、あることに気付く。
「あれ、スリッパ、一つしかないの…?」
昨日は一人で入ったから意識しなかったけれど、このトイレにある専用のスリッパは一組だけ。裸足の私たちは、一人ずつしか入れない。けれど、私の尿意は意外と限界で…。
「どうしよう…」
「なっつん、使っていいよ!私、このままでいいから!」
裸足のままいることを誘った手前、私が譲ることにした。
「え、カナちゃ…ってマジ!?」
私はもじもじとする夏美ちゃんを横目に、裸足のままペタペタとトイレへ入っていった。さすがに足の裏全体をつけて歩くのはテイコウがあったので、つま先立ちで。床は廊下からずっと同じリノリウムで、白いからほこりやごみの様子がよく見える。幸いにも最近きれいになったため、すべて洋式だった。用を足す間は、少しだけ足を床から浮かせていた。
「ありがとね,カナちゃん」
「いいよいいよ!特に汚くなかったし!」
確かに、見た目はそこまで汚くはなかったけれど、トイレに裸足のまま入るっていう、心理的なテイコウはあった気がする。手を洗うところは、何人か前に使っていた生徒が飛ばしていたみたいで、床がちょっと濡れていた。なんにせよ、これで安心して授業を受けることができる。トイレを済ませた私たちは、またそれぞれ、教室に戻って席に着いた。
授業中、夏美ちゃんは足の裏を床に着けるのが嫌なのか、最初から最後まで机の棒において受けていた。まあ、当たり前だよね…。私はというと、棒に置いたり、机の脚を指の間で挟んだり、床にコシコシしたり、無意識のうちに足を動かしてしまっていたらしい。
「次で終わりだね!」
2時間目のあとの休み時間、夏美ちゃんがぺたぺたと裸足のままやってくる。数時間だけだけれど、裸足のままでいることに慣れてくれたのかな?
「ほんとだねー、また明日もあるなんてやだなー」
「がんばろうよ!…カナちゃんって、もしかして明日も裸足で来るの?」
お?なにやら気になる質問。夏美ちゃんを見上げると、私から視線をそらして何やらもじもじしている。もしかして、夏美ちゃんも、明日も裸足で過ごしたいのかな…?
「うん、課外中は、裸足で来るって決めてるんだ!」
「そ、そうなんだー…」
「なになに?なっつんも,裸足で来る?」
「ふえ?!えっと、うん、考えとく!」
そう言って、パタパタと席に戻る夏美ちゃん。あわたただしく次の準備をしていた。これは明日も、期待できるかも…?
「…はい、今日はここまで!宿題をしっかりやっていくように!」
最後の英語の授業が終わると、一日終了。3時間だけだけれど、相変わらず長ーく感じてしまう。
「おわったねー。なっつん、この後、どうするの?」
「このあと?うーん、部活かなあ」
「そっかあ、残念」
夏美ちゃんはテニス部に所属していて、暑い夏だけれど、外のテニスコートで練習しているみたい。
「明日だったら部活もないし、おわった後どっか行く?」
「あ、いいね!」
ということで、明日は楽しいお出かけだ!外を見ると、朝降っていた雨もあがって、日差しがさしていた。夏美ちゃんの靴下は結局乾かなかったらしく、濡れた靴下をこれまた濡れた上履きの中にぎゅぎゅっと入れて、夏美ちゃんは裸足のまま席を立った。もちろん、何も持ってきていない私も、裸足のままだ。ほかの人から見たらヘンな人に見えてたりするのかな…?
「…なんか、私たちだけ裸足って、改めて恥ずかしいね…」
「そう?私はもう慣れたけど!というか気にならないなあ」
「すごいなあ、カナちゃん」
ペタペタと裸足のまま階段を降りて廊下を進む。昇降口のところで別れると、カナちゃんは渡り廊下を通って体育館の方へぺたぺたと走っていってしまった。足の裏がちらちら見えていたけれど、私と同じように、灰色に汚れていた気がする。しまったな、もっと近くで見たかったな。明日、足の裏をきれいにするというテイで見せてもらおう!その日も私は、足の裏をしっかりと拭いて,サンダルを履いて帰った。グラウンドにはまだあちこちに水たまりが残っていて、太陽の光がキラキラと反射していた。
つづく




