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〇〇したい女の子たち  作者: 車男
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見られたいみらいちゃん

 「うーん、どうすればキョウくんに見てもらえるのかなあ」

日曜日の夜。明日の準備をしながら、私はベッドの上でtwitterをたぷたぷと流し読みしていた。キョウくんというのは、同じクラスで、私がちょっと気になっている男の子。4月に転校してきたばかりで、高1から高2へはクラス替えもなく、変化がなかったところにやってきた。私は活発に誰とも話すタイプで、1年生が始まって1か月と立たないうちにクラスのみんなと打ち解けることができた。いまでもみんなとの関係は続いていて、クラス全体の雰囲気もいい感じ。けれど転校生のキョウくんは初日から緊張しているのかなかなか誰とも話すことはなく、いつも一人でポツンと座っていた。クラス委員もやっている私が話しかけてもツンツンしていてなかなか会話が続かない…。そうこうしているうちに、私の心の中で一つの決心がついていた。

「キョウくんを絶対ふりむかせてやるそ…!そして仲良くなるんだ…!」

別に彼をオとしたいわけじゃないんだけれど、この私がうまくコミュニケーションをとれないはずがない。ということで、いろいろ考えて、まずはキョウくんに見てもらえるように仕向けていくことにした。そのあとで会話を弾ませていくことにしよう。今では私が話しかけてもこちらを向くことなく応対されるから、いまだに目が合ったこともない。そのせいで会話もなかなか続かない。何かきっかけはないだろうか…。twitterを探して早1時間。私はとあるつぶやきを目にする。まったく知らない人だけれど、クラスの男子の一人がいいねをしているつぶやき。

『今日電車に乗ってたら、裸足でローファー履いてる子がいて、ついつい見てしまった!』

というもの。裸足でローファー…。やってみる価値はあるかもしれない。難しいことではないし…!たしかに去年あたりを思い出すと、プールの後や文化祭の準備などで、私は裸足になることが少なからずあった。うーんうーんと思い出すと、裸足になっている間、男子からの視線を感じていた、かも、しれない…。

自慢ではないけれど、けっこう私はクラスメイト(女子)から「かわいい」と言われることが多い。背の高さと関係があるかもしれないけれど…。それに自分の容姿にはかなり気を使っている方だと思う。ボブヘアは毎日朝起きて毛先をふわっと巻いているし、校則に引っかからない程度に染めていもいる。シャンプーもこだわりのもの。制服は大きくは着崩さないけれど、スカート丈はもうほんとにギリギリを攻めている。背が高くて足が長いことは自負しているから(自分から自慢とかはしないけど!)、そこを見てほしくって、ソックスも短めのを履いて足長効果を期待している。これで靴下も履かなかったらかなり目立つんじゃないかな…!キョウくんも足の長さに気付いて振り向いてくれるんじゃないかな!ということで翌日の朝。私は靴下をはかず、素足で登校しようと決めた!


 月曜日の朝。いつものように身支度を整えた私は、長袖のシャツを腕まくりして、夏用のスカートをはいて、ネクタイをつけて、足元は素足のままペタペタと玄関に向かう。両親はすでに仕事に出ていて、家にいるのは私だけ。玄関に置いてある、よくよく磨かれたローファーに素足をそのまま突っ込む。ごわごわっとした内側の生地。クッションのついたインソールが直接素足に触れて、気持ちいい。

「いってきまーす」

誰もいない室内に向かってそうつぶやくと、私はローファーのかかとまで手を使ってしっかり履いて、自転車にまたがって出発した。普段は靴下を履いていて隠れている部分にまで風が当たって気持ちいい。けれど数分も走っていると、ローファーの中に隠れている部分に汗をかいてきて、むんむんするようになってきた。もしかして私の足、蒸れてる…!?靴下を履いているときも若干の蒸れを毎日感じていたが、それがないぶん、いつもより敏感に感じている。学校まで行く途中、何度か信号に引っかかる。その時に、ちょっとお行儀が悪いかもしれないなあとも思いながら、ローファーのかかとから素足をのぞかせて、中の空気の入れ替えをしていた。学校前最後の交差点。周りにとまった男の子たち。横目でちらちらっと見てみると、明らかに私の方を見ていた。特に私の、足のほう。そうだよね、こんなにかわいい女の子がこんなに素足を見せていたら、誰だって見るよね!うんうん!これは期待ができるぞお、と自信をつけて、校門前最後の直線を一気に漕いでいった。

 自転車置き場において、昇降口へ。相変わらず足元に汗をかいているようで、歩くたびに、中敷きがじわ、じわとしている。

「おはよー、ミライ!きょうもかわいいね!」

クラスメイトの女の子が後ろからがばっと抱きついてくる。私と一番仲が良くて、これが彼女なりのいつもの朝のあいさつだ。

「ぐえ…、おはよ、カコ。今日も元気だねえ」

「えへへー、だって月曜日だよ!久しぶりにミライにあえるんだもん!」

カコと言葉を交わしながら昇降口へ向かう。気づいているのかいないのか、私の素足には一切触れないでいたけれど、さすがに靴を履き替えるときに気づいてしまったみたい。ムレムレのローファーから素足を出して、靴箱に置いていた上履きに入れる。ローファーよりも靴底が薄くって、ダイレクトに床の感触がした。

「あれ、ミライ、靴下はどしたの?」

「んー、あー、今日はなんか履かなくてもいいかなあって思って」

「ふうん、そうなんだ…」

それからまた何か言おうとしていたけれど、ほかのクラスメイトもやってきてそっちの方に気が行ってしまったみたい。うまい言い訳ができたかな…?まさか、男子に見られたくて素足で来たんだ、なんて、言えないよね…。

「…おはよ、キョウくん」

「…おはよ」

私が教室につくと、キョウくんはもう来ていて、隣の席に座って本を読んでいた。ブックカバーをつけているのでどんな本かはわからないけれど、文字ばっかりで分厚い本だなと思った。いつもならこんな風にあいさつを交わすだけなんだけれど、今日はもう一歩踏み込んで話を続けようと思う。

「今日は暑いねー。私、靴下履かずに来ちゃったんだー」

そう言って、ぐいっと、素足をキョウくんの方に見せつける。彼は一瞬だけ本から目線を外し、私の足を見てくれたけれど、またすぐ本に戻ってしまった。

「そうなんだ、涼しそうだね」

それだけ言って、また本の世界に戻るキョウくん。むむむむ…。ほかの男の子ならガン見するはずなのに、手ごわいな、キョウくん…!表情の一つも変えないし、頬や耳が赤くなるわけでもない。

ホームルームが始まって、私は相変わらずキョウくんばかり気になっていた。さすがに本は片づけたみたいだけれど、先生の話を聞いているのかいないのか、窓の外を眺めているようだった。おうい、私はこっちにいるんだよー、もっと見ていいんだよー、なんて念をおくってみる。私の足は長いので、机の下で少し邪魔になってしまう。普段は椅子の下で組んでいるか、前に伸ばして置いておく姿勢が多い。前に伸ばしておくと完全に机から出てしまって、私のきれいな素足を行きかう人たちに見てもらうことができる。まさに今この1時間目の授業中も、私は素足を前に伸ばして授業を受けていた。靴下がない分、いつもより涼しく感じる。けれど上履きに包まれてる部分は相変わらずムレムレだ。汗をかいて足の指の間などがヌルヌルしている。初めは我慢していたけれど、授業の真ん中あたり、ついに限界を迎えてしまった。ほかの人もいる中で上履きを脱ぐのはちょっとオギョウギが悪いかなと思ったけれど、ムレムレには耐えられない…!私はなるべく音をたてないように、上履きを履いた足をいったん椅子の下に収めると、足をそろえてかかとを上履きから浮かせようと試みる。けれど…、汗でくっついてしまって、かかとがなかなか出てこない。というわけで、私は右足のつま先を左足のかかとに押し付けて、無理やりぐいと引き下ろした。すると、パカ。無事に左足の上履きを脱ぐことができた。そのままゆっくりと上履きを床に置き、左足を完全に上履きから離す。ああ、きもちいい…!通気性がほぼない上履きから解放された左足。足首をくるくる、足の指をくねくね…。かいていた汗が一気にとんでいく。左足の運動を終えると、今度は右足。素足になった左足の指で、ぐいぐいと右足のかかとを上履きから離す。パカ、ほわあああ。そしてゆっくり上履きを床に置き、完全に右足も外に出す。足の指をくねくねさせながら、私は足を前に伸ばす。ふう、ムレムレからの解放感、半端ない。しばらくの間、気持ちよさに浸っていると、なんとなく視線を感じて、首をグリンと横に向けた。即座にパッっと向こうを向く、キョウくん。…まさか、今の、足の動き、見られてた…?心なしか、頬が赤くなっているようなキョウくん。私もつられて赤くなる。素足をまたイスの下にそっと戻して、つま先だけその中に入れた。先ほどまで包まれていた、自分の足のぬくもりが、まだ残っていた。

 2時間目。さっきのキョウくんの反応が気になって、少し恥ずかしいけれど、もう一度上履きを脱いじゃおうと考えていた。数学で、先生が黒板をいっぱいいっぱい使って難しいグラフの説明をしているところだった。さっき乾かしたばかりだけれど、足元は再びムレムレしている。隣を見ると、キョウくんは熱心にノートをとっていた。私は足を机の前に伸ばしてしばらくはじっとさせていたけれど、授業が始まって10分ほどするとまたムレムレの限界が来てしまい、足を椅子の下に戻して、また左足、右足と脱いでいった。右足の上履きを左の素足で脱がせるとき、勢い余ってパカン、と音を立てて床に落としてしまう。周りの子たちは気にしていない様子だったけれど、ふと横を見たらキョウくんがこちらを向いていた。私の視線に気づくとまたすぐ前を向いてしまう。いいぞいいぞ、この調子でどんどんキョウくんの視線をゲットしていこう…!

 3時間目と4時間目は、連続で芸術の授業だった。私はクラスの友達と一緒に美術を選択していて、別校舎の美術室へ向かう。キョウくんはどれを選択したのかなと気になっていると、美術室に入っていくキョウくんを捉えた。一緒なんだ…!なんか、とてもうれしい。新学期最初の授業ということで、今日の授業から写生に入ることを告げられる。初日の今日はかきたい場所を選んで、下書きを済ませてしまうように指示された。写生なので、もちろん校舎の外へみんな駆り出していく。私も、クラスの友達と一緒に昇降口へ。ローファーに履き替えるときに一瞬素足になるため、ここでも友達が気になって、

「そういえば、ミライっていつも靴下履いてなかったっけ?」

そうきかれてしまう。

「ううん、今日だけ!なんか、今日は靴下なしでいいかなあって思って…」

うまく理由づけ、できてるかな?靴下濡れちゃってーとかの方がよかったかな?

「そうなんだー。ミライ、足長いから今日はなんか目立ってるよね!」

「え、そうなの!?」

「うんうん、転校生くんとか、けっこう見てなかった?」

「ほんと!?」

どうやら、私の見ていないところで、キョウくんは私のことを見ていてくれたみたい。それが知れただけでとてもうれしい。そういえば、例の彼はどこだろう。私は素足のままローファーを履くと、朝よりかなり暑くなった校舎外へ足を踏み出す。日差しの当たるところは暑くって書けないので、日陰を探して歩き回る。

「あ、あれ、転校生くんじゃない?」

「ほんとだー」

友達の一人が指さした先、長めの良い場所に置かれたベンチに、キョウくんは座っていた。そこでかくことを決めたようで、すでにスケッチブックに下書きを始めていた。後ろから近づいて、声をかける。

「や!もうかいてるんだー、はやいねー」

キョウくんの肩に手をおいて、のぞきこむ。キョウくんは一瞬ぴくっとして、こちらに顔を向ける。整った顔、きりっとした目。わたし基準ではけっこう”イケメン”の部類に入るんじゃないかな!

「うん、ここ、景色いいから」

私の学校は町の高台にあって、裏庭にあたるこの場所からは、町が一望できていた。駅や住宅街、遠くのタワーの先端までよく見える。すべてをかこうとすると大変だけれど、だいたいはぼかして、近くだけはっきり丁寧に書いていけば、それほど大変でもなさそう。

「…決めた!私もここにする!」

「…え?」

そう宣言した私は、よいしょとキョウくんの隣にこしかけた。ベンチは日陰ではないけれど、風が吹いてけっこう涼しい。

「そっかー、あたしたち、あっちの方探すから、仲良くやんなよー」

友達は空気を読んでくれたのか、別の場所へ移動してくれた。あとには私と流星くんだけが残される。相変わらず会話はなく、風の音と、遠くを走る列車の音が耳に届いてきた。

「よーし、かくぞー」

私はスケッチブックを開いて、そこに鉛筆を走らせる。絵を描くのは苦手じゃないから、けっこうさらさらと下書きは出来上がっていった。

「…よし、と。なんか、暑いねー」

「…うん、そうだね、日差しが強いかも」

「…くつ、ぬいじゃおうかな」

「え?」

いつもはそんなことは声に出さないのに、隣の彼を意識して、宣言をしてから、私はもぞもぞとローファーの側面同士をすり合わせて、左右と一気に脱いでしまった。描く場所(というか、キョウくん)を探して歩き回っている間に、実はローファーの中はムレムレで、座ってからもどきどきで緊張してしまったのか、足には結構な汗をかいていた。

「ふー、風が気持ちいいねー」

私はローファーを脱いだ足をその上に乗せて、足の指をくねくね、くねくねと動かした。足はベンチの前に伸ばしているので、角度的にキョウくんからも十分見える位置だった。足の指をくねくねさせながら、ちらちらと彼を見ると、そんなの眼中にないかのように、キョウくんの目はスケッチブックと遠くの景色を往復していた。むむむ…。まだ見てもらえないのか…!私のこんなに長くてきれいな素足が目の前にあるというのに…!私はさらに追い込みで、伸ばしていた足をベンチの上に乗せることにした。足先は、隣のキョウくんの方に向ける。スカートの裾で足先を隠したりは、あえてしない。ああ、私の素足がキョウくんのすぐ横に…!恥ずかしいけれど、これできっと意識してくれるはず!ドキドキ。けれど、素足の先がすぐ横にある状況になっても、キョウくんは一瞬その足先に目をむけただけで、またスケッチに戻ってしまう。きれいな足だねの一つくらいあってもいいのになあああ。その後。足を下ろして伸ばしたり、ベンチの上に体操座りをして足の先をくねくねさせてみたりしたけれど、キョウくんの反応は薄かった。うーん、あまり”足”には興味ないのかな…?まだ今日の授業はあるし、もうちょっと頑張ってみるか!

 「あ、そろそろ時間だね、私、戻るねー」

しばらくの間、無言のままスケッチを続けた私とキョウくん。ふと気になって腕時計を見ると、そろそろ授業の終わる時間。いったん美術室に戻って進捗を先生に提出する。

「キョウくんも一緒に戻る?」

いちおう誘ってみると、意外にもうん、とうなずいて、戻る準備を始めた。私はスケッチブックを閉じると、ベンチの上にあげていた足を下ろして、ローファーにまた素足を突っ込む。風のおかげで、中はひんやりしていてちょうど気持ちよかった。左足から入れて、右足をローファーに入れたとき、カサ、と足の裏に何かが触れた。ぴくっとして、足を出して靴の中を見ると、風で飛んできた落ち葉がローファーの中に入っていた。それを素足で踏んでしまったみたい。

「あはは、葉っぱが入ってたや」

キョウくんにも聞こえる声で、片足だけベンチにあげて、足の裏に張り付いた落ち葉をペリっとはがす。そしてパッとキョウくんの方を向くと、少しだけ頬を赤くした彼が、あわてた様子で横を向いた。…およ?もしかして、今の行動、見られてた…?

「…じゃあ、行こうか?」

落ち葉を風に乗せて、ローファーを履きなおして立ち上がると、キョウくんも後ろからついてくる。ふりかえってみると、キョウくんの目線は下の方を向いていた。私が振り向いてることに気づくと、またあわてた様子で目を逸らす。…やっぱり、キョウくん、私の足、見てるんじゃないかな…?!ちょっと恥ずかしい気もするけれど、こうなったら、もっと見てもらいたいな!

 昇降口でそれぞれ上履きに履き替えて、美術室へ向かう。先生に絵を提出したら、昼休み。普段は教室で過ごしており、今日も友達とおしゃべりをして過ごすことにする。軽いランチを食べ終わると、女子トーク。キョウくんはどこか別の場所で食べているのか、最初は教室にいなかったけれど、半分ほど過ぎたころ戻ってきて、また自分の席で本を読み始めた。私はすでに上履きを脱いで前に伸ばしていたけれど、キョウくんは気づいていないのか、まだ見ていない様子だった。

 そのまま昼休みは終わり、次の授業が始まる。お昼になって気温も上がり、冷房はまだ運転期間じゃないから止まったままで、頼りになるのは窓から吹き込む自然の風。上履きを履いているとけっこうなムレムレになるため、午後の授業中はほとんど脱いで過ごしていた。上履きは机の下に置いたまま、素足を机の前に伸ばして、ひんやりとした床につけたり、机の脚をにぎにぎしたり、足の指をくねくねさせたりして、靴下を履いてるときよりもかなり涼しい午後を過ごしていた。靴下を履いているクラスメイト達はしっかり上履きも履いていて、すごいなと思う(それが普通なんだろうけれど!)。暑くないのかな?私だけなのかな…?授業中は、午前中以上にキョウくんの様子にも注意を払っていた。すると、やっぱり、ちらちらとこっちの方を見る様子が。やった、キョウくんの視線をゲットしてる!これで、当初の目的は達成、なのかな…?あとは会話ができるようになればいいんだけれど…!

 ホームルームが終わって、ようやく放課。テニス部の私は、今日は部活が休み!部活の友達と買い物に行く約束をしているのをその時になって思い出す。やば、素足でローファーを履いてるこの格好でお店に行くの、ちょっと恥ずかしい、かな?でも仕方ないか…。約束の時間まで少しだけ時間があったので、ゆっくりと片づけをしている隣の彼の方をむく。

「…キョウくんは、もう帰るの?」

「え、う、うん、部活、入ってないし…」

普段は私から話しかけることもなく、ただ静かに帰るだけだったからか、少しおどおどした様子のキョウくん。気のせいか、目線が泳いでいる気がする。私は上履きを脱いだままの素足を彼の方に伸ばして、話を続ける。上履きは相変わらず、椅子の下に並べて置いたまま。かれこれ2時間くらいずっと、履いてない。

「そっか、入る予定も、ない感じ?」

まだ勇気がでなくって、あえて足のことには触れずに、ただキョウくんの方に伸ばして、足の指をくねくねさせてみる。意識してやっていると、男子に足を見せるのって、やっぱり恥ずかしくって、顔がぽっぽっぽとしてくるのを感じる。キョウくんは相変わらず私とは目線を合わせず、どこか遠くを見ながら返事をする。

「う、うん、部活とか、苦手で…」

「ふうん、楽しいと思う、けどなあ」

私はドキドキしながら、伸ばしていた足をいったん戻して、片方の足を床につけて、もう片方の足を組んでみた。床から浮いた左足の指がくねくね動く。そのときになってついに、キョウくんは私の足の目を向けた。そしてまたパッとどこか遠くを向く。私はそんな様子を見て、核心を突く質問をしようと決意する。

「…キョウくん、私のあし、どう思う?」

「…え?」

「ほ、ほら、今日私、靴下履いてなくてさ、どう、かな?」

組んだ方の足を少しだけキョウくんの方へ伸ばしてみる。自分から聞いていてなんだけれど、これ、すっごく、恥ずかしい質問じゃないかな?キョウくんもあわあわしている様子だ。でもずっとドキドキし続けている私とは違って、すぐに落ち着いた様子のキョウくんは、ただ一言、

「…あし、長くて、キレイ、だと思う。カワイイ」

「…ひゃえ!?」

「…じゃ、じゃあ、また明日!」

キョウくんはそう言い残して、片付けの終わったカバンをもってばたばたと帰っていった。残された私は組んでいた足を両方床につけて、ほてった顔を覆う。まさかの返答に、たぶん今私の顔はまっかっかだと思う!

「…明日も、素足で来ようかな」

人の少なくなった教室で、私はボソッとつぶやいた。約束の時間はもうだいぶん過ぎていた。


つづく


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