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〇〇したい女の子たち  作者: 車男
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ごまかしたいチトちゃん その4

 数学が終わるとお昼休憩に入る。お母さんがお弁当を作ってくれたので、仲のいいクラスメイト、ニノちゃんと一緒に食べることにした。その子の横の席のイスを借りて、一緒に食べる。

「チトちゃん、数学できた?」

「うーん、って感じかなあ。ベクトル、にがてなんだ…」

「あたしもだなあ。あたしは、ⅠAの図形がどうも苦手…」

頭を使うとエネルギーを使うので、お昼ご飯はぱくぱく進む。休憩時間は45分で、みじかっと思っていたけれど、案外ゆっくり過ごすことができた。そのせいで、ニノちゃんに気づかれたくないことまで気づかれてしまった。

「あ、そういえばさ、チトちゃん今日、上履きどうしたの?靴下のままじゃない?」

リラックスしていて、足を前に伸ばしていたのもいけなかったなと思う。おかげで、上履きを履いていないのがバレバレだった。

「あ、えーっとね、うん、忘れちゃって…」

いろいろ言い訳を考えていた気がするけれど、さっきの件ですべて忘れてしまったようで、正直なことしか出てこなかった。けれどこれがいちばんしっくりするような気がする。

「忘れたって、…え、持って帰ってたの?」

「うん、金曜日に…」

「えー、模試があるのに、わざわざ…?」

うん、おかしいよねー、でもあのシチュエーションだと持って帰るしかなかったんだよ…。

「う、うん、模試があるってわかってはいたんだけどね…。なんでだろ」

「あはは、チトちゃん、ときどきドジなことあるよねー」

え、そんなことあるの!?と思ったけれど、このままだと墓穴を掘りそうなので、あははーと軽く受けながしておく。

「あ、もうすぐ次、始まるね!トイレ、いっとく?」

ふと時計をみると次の開始まであと10分くらい。あわてて出しっぱなしだったお弁当を片付けて、トイレに…と思ったけれど。

「あ、でも私、上履き履いてなくて…」

「あ、ほんとだね!あたしの、貸そっか?」

そう言ってニノちゃんがちゅうちょなく上履きをポイポイと脱いで私の方へ差し出した。とってもありがたいけれど、さっき見た真っ黒な靴下の裏を思い出して、この靴下のまま履くのは申し訳なさでいっぱいになった。

「あ、ううん、いいよ。私の靴下、すっごく汚れちゃってて…」

「え、そうなの?どれくらい?」

「え、どれくらい、って…、え?」

ニノちゃんは純粋な眼を私に向けていた。私みたいに、(汚れた靴下を見たい…!)とかヘンな気持ちじゃなくって、純粋に、どれくらい汚れてるか知りたいだけ、そんな表情。けれど私にとっては、汚れた靴下の裏を見られるのってとっても恥ずかしく思えた。ふつうの人もやっぱり見られるのは恥ずかしいのかな…?

「けっこう、汚れてるよ…?」

私は、足を床にピタッと付けたまま、様子を見ることもかねて言葉で答えてみた。

「そうなの?どれくらい?」

けれど言葉だけでは足りなかったようで、ニノちゃんはなおも純粋なまなざしで聞いてきた。これはいよいよ、見せるしかなさそうだったので、私は立ち上がって膝を曲げて、足の裏をニノちゃんに見せてあげた。ほかの人に、真っ黒な靴下の裏を見せるのは初めてで、内心は人生最高にドキドキしていた。さっき、鏡の前で感じたドキドキをはるかに超えている。人に自分から見せるのって、こんなにドキドキ、興奮、するものなんだ。

「わあ…、ほんとに、真っ黒、だね…」

「だ、だよ、ね…」

ニノちゃんは想像以上の真っ黒さに引いているのか、驚いているのか、はたまた見とれてしまっているのか(ないとは思うけれど…)、私の足の裏の前でしばし静止していた。実際はほんの数秒だったはずだけれど、この大興奮の瞬間はとても長く、私にとっては感じた。

「も、もう、いい…?」

ニノちゃんが黙ってしまったので、私は自分から、足を下ろしていいか聞くことにした。ニノちゃんは慌てて顔を離して、

「あ、ご、ごめんね!なんか見入っちゃった!」

「も、もう!恥ずかしいから、やめてよお」

「ごめんごめん!でも、さすがに上履き履くのはちょっとあれだね…」

「でしょ?私も、ニノちゃんに悪いなって…」

「うん、なんか、ごめんね!たしか、センパイによるとこの教室って模試のときくらいしか使わないから普段掃除しないみたいなんだよね」

「え、そうなの…?」

それは初耳だ。ということは…。

「うん、だから、床にほかのところよりもゴミがたまってたのかな?」

良いことを聞いた気がする。今日はまだ教室の左後ろくらいしか歩いていない。まだまだ歩けるところはたくさんある…!

「でもさ、トイレどうするの?」

私が一瞬で模試後のことを考えていると、ニノちゃんがずいっと顔を近づけて聞いてきた。

「もうすぐ終わりだし、ガマンするよ!」

「そっかー、じゃああたしだけ行ってこようかな!」

というわけで、この休憩時間中はニノちゃんだけがトイレに立って、私は教室で待っていた。かすかに尿意を感じてはいたけれど、まだ大丈夫そうだ。流石に、ニノちゃんのいる前で靴下のままトイレに入るのはちょっとドキドキが強すぎる気がした。

 その後、無事に理科と英語の試験を乗り越えて、一日がかりの模試は終了した。頭もだけど、数々のドキドキな体験で、気持ちも結構疲れていた。

「チトちゃん、おつかれー。帰り、どうする?」

この後のためにと、ゆっくりと片づけをしていると、ニノちゃんが来てくれた。ほんとうなら模試の打ち上げとかやりたいところだけれど、また今度の機会に、ということにしておく。

「あ、ごめん、私、先生にちょっと呼ばれてて…」

「え、そうなの?進路のこと?」

「うん、長くなりそうだから、先に帰ってて!ごめんね!」

「ううん、いいよいいよ!じゃあお疲れさま会は今度しようね!じゃね!」

「うん、バイバイ!」

そうして気持ちよくニノちゃんを見送ると、私はまた席に着いて、ゆっくりと片づけをする、ふりをしていた。先生はもう帰ってしまったみたいだから、スマホを取り出して何を見るでもなく動画サイトを開いてスクロールする。生徒たちの帰宅は思ったより早くって、すぐに私一人になった。電気や鍵の点検にまた先生が来るかもしれないから、私は荷物を持って、まずは近くのトイレを目指して、靴下の足を進めた。お昼休憩のときはそうでもなかった尿意は、確実に限界に近づいているのだった。


つづく

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