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〇〇したい女の子たち  作者: 車男
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素直になりたい砂尾さん その4

 「次、体育だよ、一緒にいこ、いいんちょー」

「あ、はい、ちょっとまってください!」

湯川さんと図書館で会ってからしばらくは、私はきちんと靴下を履いて登校していました(それが当たり前なんですけれど)。湯川さんの方は毎日素足履きで、けれど足のことを気にしてか靴はローファーやスニーカーを日替わりで履いてきていました。ふつうはこんなことには気づかないはずですが、私にとって湯川さんの足元チェックは、いつしか日課となっているのでした。風紀委員として、ではなく、もはや個人的な趣味、のように感じています。とてもほかの人には言えないのですが…!

「あれ、えっと…」

「いいんちょー?どうしたの?」

「わ、私…」

次の時間は体育館での体育です。校舎内は土足ですが、体育館まで土足のまま入るわけにはいかないので、体育館での体育は専用のシューズを履くことになっています。しかし、教室後方の棚に入れてあるはずのシューズが、見当たりません。湯川さんがすすっと私の横に来てくれました。

「…あ、もしかして?」

「はい、シューズがなくって…」

思い返すと、先週の体育のあった日、家で洗おうと考えて、体操服と一緒に家に持ち帰ったような気がします。そのまま、置いてきてしまったようです。

「あちゃー、じゃあ今日は、裸足だね?」

「仕方ない、ですね…」

真面目が取り柄の私が、忘れ物なんて…。最近気が抜けてしまっているのでしょうか。忘れ物は高校に入って初めてのことでした。それもよりによって、けっこう困る体育館シューズです。これを忘れた生徒は、体育を裸足のままで参加しなければなりません。見学にはなりません。みんなが体育館シューズを履く中、私だけ裸足…。想像しただけでも顔が赤くなってしまいます。けれど今日ばかりは仕方ありませんね…。

体操服を入れた袋のみをもって、私は更衣室へ向かいました。更衣室は体育館の後方にあります。みんなが入り口で体育館シューズを履いていく中で、私はそれまで履いていたスニーカーを脱ぐと、ソックスまで脱いで、裸足のまま入りました。脱いだソックスはスニーカーの中に入れておきます。土足禁止の体育館内ですが、けっこうほこりや砂がたまっていて、少し裸足のままであるくと、ザラザラとした感触を感じ、足の裏が汚れてしまうのでした。夏が近いということもあって体育館の中はじわっと暑く、床も暖かく感じました。

「んしょっと、いいんちょー、まってー」

「あ、湯川さん…?」

「ん、どしたの?」

「どうして、裸足なんですか…?」

一人裸足でペタペタと体育館を横切っていた私ですが、湯川さんの声に振り向くと、そこには同じく裸足のままの彼女が立っていました。確か湯川さんは体育館シューズを入れる袋を持っていたはず…。

「えー、だって、暑いし?裸足の方が涼しいじゃん!ね?」

「そ、そう、ですね…」

湯川さんはそう言いますが、私はおそらく私のためだと感じていました。一人だけ裸足、だとすごく恥ずかしいですが、湯川さんも裸足だと、とても心強いのです。

 「はい、集合ー。体育委員さん、今日は欠席や見学はいる?」

「いえ、全員出席してます!」

「ありがとう。えっと、なにか忘れ物をした人は…」

女子の体育は、若い女性の先生です。すごく怖い、というわけではないのですが、きちんとしてて、ルール事には厳しい先生です。私は裸足に体操服を着て、おずおずと手を挙げました。

「あら、砂尾さん、シューズ忘れ?珍しいね」

「はい、すみません…」

「気を付けて、今日は体育してね。ほかには…、湯川さんは?」

先生は私の前の方で裸足のまま座っていた湯川さんを見つけました。

「あ、私は忘れたわけじゃないんで!」

「えっと、じゃあ、シューズは…?」

「教室に置いてきました!」

「じゃあ忘れだねー」

「え、ちょっと!まじですか!?」

クラスメイトの中に笑いが起こって、でも湯川さんは忘れ物でチェックされてしまいました。ちょっと罪悪感…。

「はい、では今日もバドミントン、練習して、最後チームごとに対戦していきます!班に分かれて、準備して開始してくださいー」

「はーい」

最近の体育はバドミントンをしています。ボールを使う競技と違って、足に球が当たってしまって痛い思いをしなくて済むので、よかったです。ただ、けっこう動くので、足の裏は練習の段階でヒリヒリしてきました。ちょっとだけ、体育館の端っこで休憩します。練習相手をしてくれていた湯川さんも、隣に来てくれました。私は体操座りですが、湯川さんは足を前に投げ出して座っています。向こう側から見たら足の裏が丸見えです。

「ふー、疲れたね!いいんちょー、足、大丈夫?」

「はい、ちょっとヒリヒリ、しますね」

「あはは、普段、あんまり裸足にならない感じ?」

「そう、ですね。家の中でもスリッパを履くので…」

「やば!スリッパって!あはは」

湯川さんは私の言葉ひとつひとつに笑顔で答えてくれます。面白いことを言っているわけではないのですが…。でも話をしていて私も楽しくなってきます。足の裏を手でさすりながら休憩を終え、ヒリヒリが収まったところでまた練習再開です。私は運動系があまり得意ではないのですが、湯川さんはどの競技も人並み以上にできていて、私があらぬ方向にシャトルを飛ばしてしまっても軽々と返してくれます。それも、私が打ち返しやすいところに。おかげで、ミスをしたと思っても、ラリーはかなり続きます。それにしても、裸足のままでかなり動いているのですが、足の裏はまだまだ大丈夫そうです。ずっと裸足でいるので、足の裏も丈夫なんでしょうね。

「はい、そこまでー。じゃあチーム戦していこうか!今日はAとB、CとDで!」

授業時間の半分が過ぎたころ、練習から試合に変わりました。試合は2人一組ずつ行います。ごくごく自然に、私は湯川さんとペアになりました。なんとか湯川さんのフォローができるように頑張らないと!

 「ゲームセット!」

「やったあ、いいんちょー、勝ったね、初勝利!」

「はい、よかったです!」

初戦、第2戦と負けていた私たちですが、最後の試合でようやく勝つことができました!初めはうまく息が合わないところがあったのですが、だんだんと合わせることができているようです!

「お疲れ様でした!今日の授業はここまで!片づけをお願いね!」

「うはあ、おわったあ」

「湯川さん、ありがとうございました」

「いやいや!いいんちょーも、フォローありがと!」

床にペタッと座って足を投げ出す湯川さん。私は自然にその前に回って、湯川さんに声をかけました。足の裏は案の定、砂やホコリが付いて灰色に汚れていました。自身の足の裏もそうなっているはずですが、…怖くて見ることができません…。

「じゃあ、片そっか!そっち外しちゃってよ!」

「あ、はい!」

片づけはチームごとのローテーション。今回は私たちのチームが担当でした。それぞれネットを外してポールやシャトルと一緒に倉庫へ戻します。湯川さんと一緒にシャトルが入ったかごを持って倉庫へ。電気は点いていますが、一つしかないので薄暗く、床はコンクリートがむき出しになっていて、足を踏み入れるとザラザラ、サワサワしました。ホコリが結構たまっているみたいですね…。

「おっけい!じゃあ着替えて戻ろうか!」

「ですね!」

更衣室へ戻ると、すでにほかのチームだった人たちは着替えを終えていて、私たちは急ぎ足で汗をふき、ニオイ対策をし、制服に着替えます。最後に、ドキドキの、足の裏のお掃除を…。

「わ、あああ」

「あはは、いいんちょー、真っ黒じゃん!」

更衣室真ん中に置かれたベンチに座って、片足を太ももの上に乗せて足の裏を確認していた私。湯川さんに見られてしまいました。

「あ、ちょ、見ないでください…!」

「いいじゃんー、あたしだって、ほら、真っ黒!」

そう言うと、湯川さんは後ろを向くとひざをまげて、足の裏を見せてくれました。倉庫の中を歩いたせいでしょうか。先程よりもより黒っぽくなった足の裏が。

「す、すごいですね」

「頑張ったショーコだよ!でもまあ、サスガにきちゃないね!あはは」

「どうしましょう、タオルしか持ってないのですが…」

まさか、体育を裸足でするなんて思いもしなかったので、足の裏をきれいにできるようなものは持っていませんでした。ポケットティッシュやタオルはありますが、乾いたティッシュで拭いても、そんなに汚れは落ちませんでした。

「あ、アタシもってるよー。はい、これ!」

「あ、ありがとうございます…!」

そう言って湯川さんが差し出してくれたのは、ウエットティッシュでした。これなら、キレイになりそうです!ごしごし、ごしごしと、片足に2枚使って、ようやく汚れは薄くなりました。けれど皮膚の隙間などに入っているのか、完全にキレイにすることはできませんでした。時間もないですし、ここまでにするしかありません。お風呂で洗いましょう…。

「あ、キレイになったね!じゃあ戻ろうか!」

「あ、はい、すみません、もう片方も…」

「えー、いそいで、いそいで!」

「わ、わかりました、わかりました!」

湯川さんはいつのまにか両足ともきれいにしてしまったようで、体操服入れとスニーカーをもって待ってくれていました。私は足の裏の汚れをそこそこに、荷物をまとめて立ち上がります。

「すみません、お待たせしました!」

気づけば更衣室には私たちだけしか残っていません。体育館の時計を見ると、次の4時間目が始まるまでもう時間はありませんでした。急がなければ、チコクです…!

「よっしゃ、いそぐよ!」

「は、はい!」

私と湯川さんは裸足のまま、体育館を駆け抜けて、そのまま靴を履きます。思えば初めて学校で素足履きをする瞬間でしたが、そこまで意識する余裕はありません。かかとまでしっかりと靴を履き、足元の違和感や蒸れを感じながら教室へ急ぎます。体力のある湯川さんは一段飛ばしで階段を上っていきますが、私は早くも体力がなくなり、チャイムが鳴り始めたころにようやく教室へ到着しました。まだ先生は来ておらず、ギリギリセーフ、でした!

 私が席に着いた瞬間先生が入ってきて、そのまま授業が始まります。私は一旦荷物を通路に置いて、教科書類を準備します。靴下は履かず素足のままですが、履く余裕もないのでそのまま過ごすことにします。湯川さんの方を見ると、早くもスニーカーを脱いで、素足を前に伸ばしているのでした。かすかに灰色っぽくなった足の裏。足の指がくねくねと動いています。私も、脱いでみたい、な。現に、しっかりと履いたスニーカーの中で、足はけっこうムレムレでした。体育の間中裸足で、涼しく感じていたのですが、それが靴の中に押し込められてしまっているので当たり前でしょう。

 4時間目の授業は日本史です。ご年配の先生が板書をしながら優しい声で話をしてくださいます。それをノートに取っていきます。体育の後なので、みんなかなり眠そう。中には落ちちゃっている人もいました。湯川さんもその一人で、足を椅子の下で組んで足の裏をばっちり見せた状態で、うつらうつらしていました。靴は足を動かすときに蹴ってしまったのか、両足ともひっくり返っていました。

 …私も、足を開放したい。図書館でやったときみたいに。スニーカーの中のムレムレを感じ、涼し気な湯川さんの様子を見ているうちに、欲望は大きくなっていきました。図書館と違うのは、周りには見知った大勢のクラスメイトがいることです。風紀委員長の私が、素足のままスニーカーを履いて、あろうことか授業中にそれを脱いでしまう。どう思われてしまうでしょうか。幸い、日本史の先生は服装に関して何も口出しはしないようです。先生によっては、湯川さんが靴を脱いでいると、それを履くように言う人もいます。まあ湯川さんはまたすぐ脱いでしまうんですが…。授業はまだ半分以上残っています。先程からほとんど集中できていません。私は心を決めました。湯川さんのように、私もスニーカーを脱いじゃうことにします。誰にも気づかれませんように…!


つづく




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