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〇〇したい女の子たち  作者: 車男
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ごまかしたいチトちゃん その3

 「そうだった…!」

日曜日の早朝、この日は希望者を対象とした模試の実施日だった。全員が全員、大学に進学するわけではなく、専門学校やそのまま就職、という道も多い私の高校。模試はそのうち、大学進学を目指す人だけ受けることになっていた。

 この前の金曜日、アクシデントから上履きを持ち帰ってしまった私。日曜日に模試があることは知っていたけれど、また上履きを持ってこなければならないことをすっかり忘れていた…!

「どうしよう…」

今日の模試は5教科あり、主に大学の2次試験を模したもの。途中お昼を食べて午後までかかるスケジュールだった。移動教室などはないけれど、一日中上履きがないなんて、なかなか厳しい。

 …けれど、チャンスかもしれなかった。先生が金曜日のホームルームで言っていた。今日の模試の受験者は私のクラスでは10人ほどって。そんなに受験者はいないから、靴下のままでもそれほど恥ずかしくはないかも…?

 いつもと比べてひっそりとした昇降口。私はスニーカーを脱ぐと、白ソックスだけの足を床に着けた。夏が近いけれど、まだ朝早く、ひんやりとしている。これまでは教室から降りてきたけれど、今日は逆。靴下のままで、みんながいる教室に入っていかなければならない。ドキドキ…!

 昇降口から校舎内に入る。電気はついていないけれど、朝日が入ってけっこう明るかった。ペタペタと、つま先立ちをするでもなく、いつもと同じように歩いていく。今日の教室はいつもと違って、校舎2階の多目的室になっていた。考えてみると、高校に入学してから初めて入るかも…?模試をするとき専用の教室なのかな。階段を上がって、廊下を進む。多目的室が近づくと、もう来ている生徒がいるのか声が聞こえてきた。集合時間の30分前。みんな早いな。でも、誰もいない方が私的には良かったかも…。そっと教室の入り口をのぞくと、別のクラスなのか元気な女の子たちが朝からおしゃべりをしていた。模試前なのに大丈夫なのかな…。私はそっと教室へ入り、スススっと歩いて行った。あらかじめ受験番号は決まっていて、その番号のところに座る。幸い、おしゃべりをしている女の子たちからは離れていて、私は一人静かに座って確認の勉強をすることにした。多目的室の床は教室と同じだけれど、机は新しいもので、足を置くための(多分そのためじゃないと思うけれど)棒がないタイプだった。上履きを脱いで靴下だけになったとき、いつもはそこに足をおいて放課後の時間を過ごしていたものだから、何となく落ち着かない。私はその足元を、椅子の下で組んだり、きちんと並べて置いたりしていた。あまり足元ばかり気にしているとほかの人から怪しまれてしまうので、努めて自然にふるまう。上履きがないことも、気づかれなければいいけどな…。

 集中して勉強していると、気づいたころには周りに人が増えて、開始の10分前になっていた。お手洗いを済ませておこうと、近くのトイレへ向かう。そしてそこで気づく。このトイレ、スリッパがない…!トイレは最近改修して、新しくなったはいいけれど、廊下から段差などは一切なく上履きのまま入れるようになっていた。そうだった、いままで上履きを履いていてそのあたりは一切意識していなかった。どうしよう…!

 トイレの入り口で立ち止まっていると、後ろから来ていた生徒に、すみません、と声をかけられてしまった。慌てて横によけるけれど、その生徒の視線がばっちり私の足元に向いていて、とても恥ずかしい。靴下のままなの、ばれちゃった…!さすがに靴下のままトイレに入るのは気が引けて、いや実際やってはみたいと思ってはいたのだけれど、それは誰もいないときのお話で…。私は一度教室へ戻った。なんとかまだ我慢できるので、次の休憩時間に別のトイレを探すことにする。

 時間になると先生が入ってきて、注意事項に始まり、机上の整理、やがて志望校登録用紙の記入が始まった。私の前後は同じクラスの生徒で、左隣は壁、一つあけたその隣は別のクラスの生徒らしかった。仲のいい子はちょっと前にいて、ちょっと寂しい。けれどその分、集中して頑張るぞ。上履きを履いていない分、足の指を自由に動かせるので、開放感がある。家で勉強しているような感じで、いつもより集中できそうだった。あれ、これは上履きを履いてない方がいいんじゃないのかな…?

 集中力を実感しながら、1時間目の国語、2時間目の社会を受ける。私は日本史・世界史選択だ。次の数学に向けた休憩時間、さすがに尿意の限界を感じて、私は席を立った。同じようにトイレを目指す生徒がいる中で、私は校舎端っこの階段を一つ上がって3階へ。そのすぐ近くのトイレをのぞく。残念ながらここもスリッパは設置されていないけれど、限界を迎えていて、ほかのトイレを探す余裕はあまりなかった。事務室の近くのトイレとかならあったかもしれないけれど、隣の校舎まで行くのは余裕がなさそうだった。

 私は一度あたりを見回して人気がないのを確認すると、そっと靴下のままトイレに足を踏み入れた。さすがに足の裏全体をつけるのは抵抗があって、つま先立ちのまま中へ進む。新しくなって和式からオール洋式に変わっていた。おかげでゆっくり腰掛けることができる。用を足す間は、あまり意味はないのかもしれないけれど、足をちょっとだけ床から浮かせていた。トイレは床も壁も白くって、パッと見たところはまだ清潔感がある。けれど目を凝らして見ると、端っこの方にホコリや何らかの毛が落ちていたり、ペーパーの端っこが落ちていたりしている。こんなところを靴下のまま歩いている私。ドキドキ…。用を足して手を洗って外に出る。幸い、トイレの床で濡れているところはなかった。みんなが今使っている2階のトイレは、手洗い場のところとかけっこう濡れているんだろうな。…行ってみたいな。ごくり。そう思ったのも束の間、次の試験の開始が迫っていたので、私は急いで多目的室へと戻ることにした。

 その途中の階段に、大きな姿見がある。以前の卒業生からの寄贈品のようで、私の全身が写っていた。ふと思い立って、その鏡に向けて足の裏を見せつけてみた。

「うわ…!」

ずっと模試を受けていただけだけれど、白ソックスの足の裏は放課後歩き回った時以上に黒く汚れが浮き上がっていた。自分の足の形がはっきりわかるようになっている。

「すご…!」

反対側の足も同じように見せつけてみる。こっちも同じく、足の形がくっきりだった。模試の途中なのに、すごくドキドキしてしまって、気持ちがすごく高ぶってしまう。いけないいけない。楽しむのは、模試が終わってから…!

 気持ちを静めて、また多目的室に戻る。何事もなかったかのように、数学の試験を受ける。体感的に、うーん、な感じだった…。


つづく


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